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同志社の人と研究

有人火星探査に不可欠な低重力環境への適応を探る 老化などによる歩行困難の原因究明と抑制に挑む【宇宙医科学研究センター センター長 大平 充宣(スポーツ健康科学部・研究科特別客員教授)】

'17年4月4日 更新
 世界各国で宇宙探査が活発に推進されている。この壮大なミッションに大きく貢献するために、宇宙医科学研究センターでは月および火星の重力環境(1/6-G および3/8-G)への適応をNASA(アメリカ航空宇宙局)ジョンソン宇宙センターなどとの共同研究によって多角的に探究している。また、国内外で深刻な問題となっている老化や身体機能の低下による歩行困難の原因解明や防止・抑制策の研究にも取り組んでいる。なお、本研究センターでは宇宙科学に関する新たな人材育成にも力を注いでおり、この分野に強い関心を抱く学部を超えた学生の積極的な参加を歓迎している。

体重免荷状態での生体反応を精査

 現在、NASA(アメリカ航空宇宙局)は世界初の有人火星探査の実現を目指している。この雄大な計画を成功させるためには、数多くの課題をクリアしなければならない。特に重要なのが人体への影響を解明し、クルーの安全を保持することである。「火星までは最も近い距離にある時でも片道で約半年を要し、しかも約1年間という長期滞在を予定しています。火星の重力は地球の約8分の3であり、往復時には無重力の状態になります。非常に厳しい環境であり、適応できなければ深刻なダメージが生じます」。昨年3月に国際宇宙ステーション(ISS)からケリー宇宙飛行士が約1年間の長期宇宙滞在を終えて帰還したが、これも有人火星探査に向けた布石である。
 本研究センターではNASAジョンソン宇宙センターのハンソン博士およびカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のハーゲンス博士との共同研究で、この課題に取り組んでいる。前者では本学のスポーツ健康科学部に設置された体重免荷マシン「反重力トレッドミル」によって体重免荷状態での歩行や走行中の生体反応を精査し、宇宙飛行士の事前トレーニングの有効性や空気圧の変化による体液シフトなどを探究している。NASAジョンソン宇宙センターの身体懸垂仕様の「反重力トレッドミル」でも同様の研究を実施し、双方の機器の比較研究も本年夏季に行う。UCSDのハーゲンス博士は「反重力トレッドミル」の開発者であり、その性能向上や新たな活用法などを研究中である。また、国際宇宙ステーションのNASAデスティニー(米国製モジュール)で、搭乗中の宇宙飛行士を対象にした実験も計画している。身体が浮き上がらないようにバンジーコードでトレッドミルに身体を引き寄せた歩行によって各種の測定を試みる。

放射線から人体を守る研究にも着手

 長期宇宙滞在によって誘発される人体への影響を推定するために、ラットやマウスを用いた実験も行っている。「帰還直後の宇宙飛行士は歩行困難に陥ります。本研究センターのアドバイザーである元宇宙飛行士の向井千秋先生(東京理科大学)からも同様の体験談をお聞きしました。これは筋力低下の他に感覚神経活動の鈍化も一因であると判断しています。国際宇宙ステーション内でマウスを約3カ月間飼育した結果でも、明確な変化が起こりました。脳神経細胞のタンパク質を作る遺伝子の発現量が減少したのです。これも今後の重要な研究対象です」。また、抗重力筋活動をしなければ、自己免疫疾患は生じないことも確認されている。これは大阪大学在籍中から継続している村上正晃先生(北海道大学)との共同研究の成果であり、さらに解明していきたいという。
 宇宙空間では長期間にわたって放射線を浴びることになる。この脅威から宇宙飛行士を守るために、新たな研究にも着手している。マンガンSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)は、細胞内に発生した活性酸素を除去する酵素であり、がん治療でも放射線照射による悪影響を抑えるために投与されている。これが宇宙船のクルーに放射線が及ぼすダメージを軽減し、筋力低下等を抑止するのにも役立つのではないかと考えられている。また、この研究成果は抗老化にも貢献する。活性酸素は酸化力が強く、体内の細菌類を除去する効果があるが、加齢によって過剰になると細胞を劣化させる。活性酸素の増加を防げれば、老化を抑制できるからである。

病院で効率的な歩行訓練方法を探究

 超高齢化社会を背景に健康寿命の延伸を阻害する運動器症候群(ロコモーティブシンドローム)が注視されている。これらは加齢による変形性関節症や骨粗鬆症などの運動器疾患、筋力や運動能力の低下などの身体機能の衰えに起因する。そこで、「寝たきり」や「要介護」などに直結する歩行困難を防止・改善するために、筋萎縮メカニズムなどの問題解明に力を注ぎ、体重免荷マシンを活用したリハビリテーション方法の開発にも取り組んでいる。体重を免荷すれば、早期の歩行訓練が可能になり、個々に最適の免荷量や歩行速度を設定することによって優れた効果が期待できる。現在、「反重力トレッドミル」を提携先の病院に設置し、患者の方々を対象に、具体的な研究を実施中である。さらに、スポーツ健康科学の視点から低重力環境シミュレーションモデルを利用したランナーのトレーニング処方も探究している。例えば、ケニアの卓越したマラソン選手の多くは、短距離走のようなつま先着地で走っている。彼らは幼年時代から裸足で野山を駆けており、足を守るために自然に身に着いた走法である。スピードアップのために日本選手がこの走法に変えるのは困難であるが、体重を軽減して試みれば、画期的なトレーニングプログラムとして結実する可能性があり、これを検証している。

宇宙医科学研究センター センター長 大平 充宣(おおひら よしのぶ)【スポーツ健康科学部・研究科特別客員教授】

1973年東京教育大学大学院修士課程体育学研究科修了、1977年カリフォルニア大学ロサンゼルス校修士課程キネシオロジー中退、1980年南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。少年時代から空に興味を抱き、模型飛行機や天体望遠鏡に熱中。その後、NASAの研究に関わり、宇宙飛行士の募集にも応じ、5次試験までクリア。スポーツも大好きで学生時代はサッカーに励み、現在も時折ゴルフを楽しんでいる。

同志社大学通信One Purpose190号掲載
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