優れた技術を持ちながらも『知られていない』中小企業にスポットライトを当てる。
1980年代、プラザ合意とそれに伴う日本政府の財政・金融政策が要因となり、戦後3番目に長い景気拡大局面「バブル景気」が訪れた。当時、関准教授の出身である山口県宇部市は化学産業やセメント産業が盛んであり、大手企業とその下請である中小企業は順調に成長。その影響は一般市民レベルにも波及し、地域の商店街も大いに賑わった。業務提携に対する日本企業と海外企業の壁。橋渡し役として関係構築に尽力する。
グローバル化の進展に伴い、人やモノ、情報が国境を越えて自由に行き来している今日、熾烈な国際競争に勝ち残るための国家戦略・企業戦略の重要性は日に日に高まっている。日本は経済成長戦略として中小企業の海外進出支援を掲げ、高い技術力を持つ中堅・中小企業の輸出額倍増を目指している。中でも、成長著しいアジア圏への進出は、事業・販路の拡大や労働力の確保など、日本のものづくり産業発展に欠かすことができない。関准教授の研究対象であるASEAN地域は、タイやベトナム、ラオスなどの発展段階が異なる国々で構成されており、中でもタイでは大企業から中小企業まで裾野の広い産業集積を形成している。現地では、かつて日本の自動車メーカーや家電メーカーで働いていた経験を持つ経営者も多く、中小企業の技術力が大企業の生産技術を支えてきた日本のものづくり文化を深く理解している。そのため、日本の中小企業と手を組んで技術を学びたいという思いから多くのASEAN企業は業務提携に好意的な姿勢を示すが、対照的に日本の中小企業は海外展開に慎重な傾向があるという。『良くも悪くも日系企業は大規模な資本投資や設備投資を好まないため、意思決定に時間を要します。それに対して、スピードを重視する海外企業はもどかしさを感じています」。そこで、関准教授は中小企業の海外展開の実現に資するために、研究フィールドを国外に拡大。海外企業の経営者と交流しながら、橋渡し役として高い技術力を持つ日本企業とASEAN企業との連携可能性について研究している。「大学のような第三者機関が介入をすることによって企業間取引特有の緊張感や不信感を取り除くことができます」とその可能性を語った。研究者が間に立つ必要性。産官学による三位一体の実現に向けて。
かつて日本は高い技術力を持つものづくり大国だと世界に認識されており、「メイド・イン・ジャパン」という言葉は、高品質や高性能な製品の象徴とされた。しかし、技術革新やグローパル化の進展によってアジア諸国の技術力は飛躍的に向上。日本がこれらの国々と競争するには、さらなる「魅力あるものづくり」を行う必要がある。「これには企業の努力だけでなく、大学などの学術機関や行政機関との連携が不可欠です」と産官学連携の重要性を語る。しかし、研究・教育活動の一環として地方自治体の職員や企業の経営者と交流する機会が多い関准教授は、両者の間に隔たりを感じていた。財務の圧迫により産業部門に十分な人員と予算を割くことができない行政機関と、経済政策による波及効果をなかなか実感できない中小企業には、相互理解が求められているという。「足並みを揃えた産官学連携を実現させるために、両者に適切な情報を提供することが我々研究者の役割だと考えています」。2016年から関准教授は日本中小企業学会の理事を務めており、全国の中小企業研究を行う研究者を束ねて情報ネットワークを拡大させている。これらで得た情報を研究者間で共有・分析するだけでなく、中小企業や行政機関にも提供することで両者の相互理解を積極的に促しているという。大学が架け橋となり、企業と行政機関が歩み寄って対等な立場で連携することで、ものづくり産業の再活性化、ひいては経済・社会全体の発展につながるだろう。