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GPUクラスタで次世代音響技術の開発に挑む。【理工学部 情報システムデザイン学科 土屋 隆生 教授】

'18年3月1日 更新

世界的権威との出会いが導いた研究者としての道。

 1970年代前半に一部の企業で利用が始まったシミュレーション技術は計算機能力の向上とともに急速に普及し、産業にとって必要不可欠な技術となった。たとえば、楽器製造業では熟練工が試行錯誤しながら一進一退の開発を進めてきたが、音響シミュレーション技術によって「作ってみないと確認できない」音響を事前に予測できるようになり、開発効率の向上とコストの削減が実現されつつある。土屋教授はそんなシミュレーション技術を用いて、次世代音響技術の開発に挑戦している。「子どもの頃からコーラスやアマチュア無線に関心があったので、大学で超音波を扱う研究室へ足を運んだのはとても自然な流れでした」と土屋教授は語る。大学時代の研究室では超音波を使うことで指向性を持たせた音響システム、パラメトリック・スピーカーの研究に従事。その後大学院に進み、一方向からの音声のみを感知するパラメトリック・マイクの研究を進めた。「修士課程の夏に参加した軽井沢研修で故加藤与五郎氏や山﨑舜平氏(現・株式会社半導体エネルギー研究所代表取締役)に巡り会えたのは大きな転機でした」。加藤氏は磁性材料のフェライトを発明した世界的研究者であり東京工業大学の創始者の一人。山﨑氏は不揮発性メモリ(フラッシュメモリ)を発明し2004年には特許取得数世界一としてギネスブックにも認定されている。「彼らの歩みに感銘を受け、強く憧れたのをはっきりと覚えています」。研究者の道に進んだ土屋教授は国立大学で計算機シミュレーションの講座を担当したことから、「音」と「計算」を融合させた計算音響学の可能性を探究するようになる。

3次元の広がりを想定した音空間レンダリング技術でコンサートホールを再現。

 現在、土屋教授は音空間レンダリング技術の開発に取り組んでいる。一般的に、レンダリングとはデータ記述言語やデータ構造で記述された情報から画像・映像などを生成することを指す。たとえば、オブジェクトの形状や位置、光の当たり具合などをコンピュータに計算させて3次元CGを作成することは、画像レンダリングと呼ばれる。一方、音空間レンダリングは室壁をはじめとした音響反射体の形状・反射率などの音響特性データや音の波動性を考慮した3次元音場計算を基にしながら、聴取位置での音圧波形を数値的に算出して可聴化する。しかし、波動性を厳密に考慮するにはメモリや計算速度など莫大な計算機資源が求められる。加えて、音場計算で広く活用されているFinite Difference Time Domain(FDTD)法を用いた場合、標準的なPCの何百倍もの計算性能が要求され、汎用的に使用するためにはCPUの並列化やメモリ転送の高速化も必要であった。「ある研究者にGraphics Processing Unit(GPU)を使用すればより簡単に高速化できると助言されたのが、GPU導入に踏み切ったきっかけです。当時はGPU計算の黎明期で何もかも手探りでしたが、プログラミングに精通した学生の助けも借りながら徐々にものにしていきました。私の研究はこのような出会いによって躍進することがあります」。GPUは画像処理用のプロセッサであり、簡略化した幾千もの演算器に並列処理を加えることで高速演算を低価格で実現する。土屋教授は複数のGPUをクラスタ化することで、数千㎥(立方メートル)という室容積における音響をCDと同程度のサンプリング周波数でレンダリングできることを実証した。「このGPUクラスタを活用して、座席位置や歌手の移動によって変わる音響を再現する『シリコンコンサートホール』を開発しています。世界中のどんなコンサートホールでも設計図さえあればシミュレーションでき、臨場感あふれる音響を楽しめます」。そう語る土屋教授の研究室には32 基のGPUクラスタ(写真1)と24台のスピーカーが配備されている音響室があり、そこでは録音物から抽出した音源をリアルな音響で体感できる。「既にコンサートホールの反響を再現することに成功していますが、最終的にはリアルタイムでのレンダリングを目指します。また、音空間レンダリング技術をヘッドマウントディスプレイ型VRシステムへ実装することで視覚と聴覚を統合した自由視聴点レンダリングに関する研究も進めています」。(写真2)思わずワクワクするようなその取り組みから次世代音響技術が切り拓く新たなエンターテインメントの未来を垣間見た。

防災行政無線の音声明瞭度予測システム開発をはじめとする幅広い共同研究を展開。

 2011年3月11日、三陸沖を震源地とするマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が発生した。各地の津波観測施設で観測された津波の高さは福島県で9.3m以上、岩手県でも8.5m以上にも及ぶ。このような大規模な災害による被害を最小限に抑えるためには正確で迅速な情報発信が重要だ。電話の不通や停電などの影響により被災者が情報を取得しづらい災害時では防災行政無線が役立つ。総務省の調査ではその有効性が確認された一方で、音声の聞き取りづらさが課題であることが明らかになった。これは地形や建造物による音波の乱反射や回折などに起因した音声明瞭度の低下だと土屋教授は指摘する。「屋外拡声子局の設置状況を考慮した音声明瞭度提示システムを確立・応用すれば、災害時に多くの命を救えるかもしれません。私も研究で貢献したいと思い、音声明瞭度提示システムの開発に着手しました」。土屋教授は音空間レンダリング技術を用いて実際の地形や建造物を想定した残響時間やエコーを計算し、音場を三次元的にシミュレートするシステムを構築。その結果、防災システム設計者は防災行政無線の音響を考慮することが可能となった。
 計算音響学や超音波工学を専門とする土屋教授が取り組む研究分野は幅広く、産官学連携の実績も豊富だ。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)と超音速旅客機の騒音を予測する共同研究を行い、ヤマハ株式会社とは次世代の立体音響技術の開発プロジェクトも進めている。「私は計算音響学を通じて面白いことができたら良いと考えています。これからも互いの考えに共鳴し合える企業や官公庁と連携できたら良いですね」と土屋教授は胸をおどらせた。

土屋 隆生 理工学部 情報システムデザイン学科 教授
同志社大学工学部電子工学科卒業、同志社大学大学院工学研究科博士課程電気工学専攻修了。岡山大学工学部や秋田県立大学システム科学技術学部の助教授を経て現職に至る。日本音響学会理事・関西支部支部長を歴任。計算音響学や超音波工学を専門とし、「GPUによる高速音場計算」や「シリコンコンサートホールの実現を目指した音空間レンダリング技術の開発」を研究課題とする。

同志社大学リエゾンオフィスニューズレター「LIAISON」 vol.53 掲載
(図1)レンダリングモデルと3DCG映像例

(図1)レンダリングモデルと3DCG映像例

(写真1)32基のGPUクラスタ

(写真1)32基のGPUクラスタ

(写真2)「ヘッドマウントディスプレイ型VRシステムを応用した自由視聴点レンダリング

(写真2)「ヘッドマウントディスプレイ型VRシステムを応用した自由視聴点レンダリング

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