2017年03月15日 更新
講演の概要:
『フラッシュ・ボーイズ』(2014年)で著者のマイケル・ルイスは「人はもう市場で起こることについて責任を持てない。コンピューターがすべてを決めているのだから」と記していた。フラッシュ・クラッシュへの対応策として、一定の幅を超えて変動した場合に市場全体の取引を停止するサーキット・ブレーカーが導入されるが、それは市場における公正な価格形成能力を市場自身が否定する自己矛盾を露呈することになる。しかし、変化の兆候をアルゴリズムによって発見し、自己の利益を最大化する売買の決定に基づく超高速取引について、立ち止まってみようという声は大きくはならない。決定の判断とその責任の放棄は、冷戦時代にすでに起きていた。攻撃の兆候を読み取り、間髪を入れず報復するための核使用における自動化である。人間の判断と決定が報復への遅延を引き起こす原因とされたからである。未熟な社会とその頂点にある元首をテクノロジーが補完し、誰も判断と決定に責任を負わず、核戦争による人類の死滅を双六遊びのようにプログラムすることを躊躇しなかった先例について、ポール・ヴィリリオは『速度と政治』(1977年)をはじめとする一連の著作で明らかにしていた。今後のIoTの進展は、ますます「失敗」を未然に防ぐために個々人に対して全自動化された諸々の予防策を繰り出すことになるが、それが同期するときいかなる総体的な不安定な状況を生み出すか誰にも分からない。とはいえ、主客二元論に立って、人間の外部であるテクノロジーを制御する主体の回復など叶うはずもない。生起する事態に即座に反応することだけが求められる世界全自動化に対して、生起する事態について考える時間を持ちうる、ささやかな抵抗の線を引きうる可能性があるのかについて、まずは問いを提起してみたい。なにしろautomationの元となったギリシア語のautomatosには「自らの意志から」「自発的に」の語義と並んで「理由もなく」という語義もあるので。
講師 柿本 昭人(かきもと あきひと)氏のプロフィール:
1961年生まれ。同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科教授。京都大学博士(経済学)。
専攻は社会思想史。『健康と病のエピステーメー - 十九世紀コレラ流行と近代社会システム』
『社会の実存と存在 - 汝を傷つけた槍だけが汝の傷を癒やす』
『アウシュヴィッツの〈回教徒〉 - 現代社会とナチズムの反復』他。
ITEC セミナーシリーズ3 「ロボット・AIと社会制度」
近年のAI、ロボット技術の進展は、人類社会の発展に大きく寄与することが期待されている一方で、人間と機械との関係、人間と人間の関係、さらには人の人としての生き様にまで大きな影響を及ぼすことが予想されています。現在、世界的に注目を集めている自動運転技術は、こうした技術が市民の目前に突如として姿を現した1つの例であり、機械と人間の関係性を具体的に問うています。このシリーズでは、こうした問題意識の下、AI、ロボット技術を活かしつつ、その負の側面を制御していく社会の新しい仕組みを議論します。
ITECセミナーは、新しい技術に対応した社会の新しい仕組みを展望することを目的に、いくつかの論題を設定して、様々な視点からシリーズで議論していくことを運営方針としています。
- 開催日
2017年04月20日(木) |
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15:00~16:30 |
15:00~16:00 講演 16:00~16:30 質疑応答
- 開催場所
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その他校地
同志社大学室町キャンパス 寒梅館3階 KMB319
〒602‐8580 京都市上京区烏丸通上立売下ル御所八幡町103
アクセスマップ
- 講師
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同志社大学大学院総合政策科学研究科 教授
柿本 昭人 氏
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