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源氏物語 その魅力と楽しみ方とは(後編)

2024年2月22日 更新
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源氏物語貝合せ(同志社大学所蔵)

【前編】はこちらからご覧ください。

登場人物の生き方に「私たちが生きるヒント」を見つける

一方、第4帖に登場する夕顔の君は、朝顔の姫君と対極に位置するのではないかと思います。私は同志社大学の東京サテライト・キャンパスでも講義(同志社講座)を行っております。東京で講義をする際に特に重きを置いているのが「京都人の考え方、ものの見方」です。これを見事に体現しているのが夕顔の君なのです。

彼女にははかなげで弱弱しい女性のイメージが、世間では定着しています。ところが実際は違うのです。私が受講生の皆さんに伝えたいのは「これが京女のテクニックどす(笑)」ということです。気位の高い女性とばかり交際している光源氏が真に求めている女性像、それは「男性を慰め、優しく包み込んでくれる癒やし系」であることを夕顔は見抜いていました。子どもを抱えて生活が苦しかった夕顔は、自分たちを庇護ひごしてくれる男性を必要としていました。そんな生活背景から、夕顔は光源氏が理想とする女性を意図的に演じたのです。

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「夕顔」のワンシーン

夕顔の例は恋愛における話ですが、日常生活においても京都人には特徴的な言動が多くみられます。いわゆる、本音と建前です。先祖代々、同じ場所に住み続けている人が多い京都は、非常に閉鎖的な土地柄です。簡単に引っ越しできませんので、ご近所の人とうまくお付き合いしていかなければ、子孫にまで悪影響が及びます。良好な人間関係を維持するために、人に何か伝える時はストレートに言わず“おぼろめかす”、つまり曖昧あいまいにしたり、遠回しな言い方をしたりするのです。

朝顔や夕顔はほんの一例で、源氏物語にはほかにも多彩な人格、思考、ライフスタイルの女性が登場します。この作品を読んだ女性はきっと、今の自分に近い登場人物を見つけることができるでしょう。そして、何らかの生きるヒントが見つかるはずです。これは女性に限らず、男性が読んでも「女性ってこんな考え方をするんだなあ」と気づくきっかけになると思います。

平安時代の習俗に触れて

源氏物語の楽しみ方として、当時の習俗を知ることができるのも魅力のひとつではないかと思います。当時の人々は「もののけ」に取りつかれ病にかかり死ぬことを非常に恐れていました。

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また、出産も「血の穢れ」ととらえられていました。

お后でも宮中で出産することは許されず、実家に帰るという習わしでした。「里帰り出産」の風習は現代でも残っていますね。もののけは心身が弱っている時を狙って取りつくと信じられていましたので、出産の際には僧侶が呼ばれ、念仏を大合唱しました。そして、「よりまし」という妊婦のお世話をする女性にいったんもののけを移し、僧侶が説教をしてもののけを退散させるという流れでした。

帝の御子が産まれると勅使が遣わされますが、建物の中には入らず、庭で立ったままお祝いの言葉をかけました。「穢れ」が自分にうつらないようにするためです。

自分に合った方法で古典文学の世界に親しんで

よく「源氏物語を読んでみたいのですが古典文学に疎くて……」という声を耳にしますが、源氏物語の楽しみ方は人それぞれで、様々な方法があります。

iwatsubo_book.jpg (84332) 『錦絵で楽しむ源氏絵物語』和泉書院

あらすじを知りたいという人には私の著書ですが、『錦絵で楽しむ源氏絵物語』をおすすめしたいと思います。全54帖そろっており、見開きの右ページがあらすじ、左ページは錦絵となっています。古文ではなく現代文でのあらすじですので、古典文学の世界が初めての人も親しみやすいでしょう。

また、一人で読書をするのもよいですが、続かないという人はグループで読み進めるのも良いかもしれません。グループで源氏物語を輪読している、という話はよく聞きますね。読後、感想を話し合ったり、自分自身の人生観と重ね合わせて解釈してみたり。それが楽しくて続けている方が多いようです。

「人生一度きり」と言いますけれど、源氏物語を読むことで複数の人生を経験できると思います。ぜひ、皆さんも源氏物語の世界の扉を開いてみてください。

※掲載されている源氏物語絵は本学所蔵

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関連著書紹介

2024年4月1日発売 

 「作家さんと日本の古典を読んでみた!」シリーズ2巻 

 『角田さんと読むビジュアル源氏物語』(ポプラ社) ※左図

【岩坪 健 コメント】
『竹取物語』(万城目学さん訳)と『平家物語』(門井慶喜さん訳)も同時に発売されます。古典の基礎知識が自然と身につき、イラストや画像資料を使ったビジュアル解説も充実しています。総ルビ対応で、小学生から大人まで幅広く楽しめる書籍です。