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“D”iscover -Opinion-

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変形型月面ロボットが月面探査!?おもちゃ作りで培った技術と発想で宇宙へ挑む(前編)

2024年1月20日0時20分、日本の小型月着陸実証機「SLIM(スリム)(=Smart Lander for Investigating Moon)」が月面着陸に挑む。成功すれば日本初、世界では5か国目の偉業となる。日本中の期待を集めて月へと向かっているSLIMには、「LEV-1(愛称:SORA-Qソラキュー)」と呼ばれる月面探査ロボットが搭載されている。世界最小・最軽量の月面探査ロボットとなりうるSORA-Qは、玩具メーカーが培った変形ロボットのノウハウが活用されているという。開発者である同志社大学生命医科学部の渡辺公貴教授に話を伺った。(取材日:2024年1月11日)

2024年3月12日 更新
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生命医科学部 渡辺公貴教授

月面を覆う「レゴリス」に関する情報を収集

watanabe-10.jpg (85188) 「LEV-2」、愛称「SORA-Q」

1969年のアポロ11号から始まるこれまでの月面着陸は、「降りやすい場所に降りる」という考え方のもとで行われてきました。しかし天体についての知見が増え、探査すべき内容が具体的になっている今では、探査対象の付近に着陸する必要性が高まっています。すなわち、「降りたい場所に降りる」技術が求められるようになったのです。

そこで月へのピンポイント着陸技術の実証を主目的の一つとする、H-2Aロケットに搭載された小型月着陸実証機SLIMが2023年9月7日8時42分に打ち上げられました。SLIMはまた、これまでのものよりも小型で軽量な探査機システムを実現することも目的としています。

SLIMは着陸直前に、二つの探査装置を月面へ放出します。一つは、移動探査しながらデータを地球へ送信する超小型月面探査ローバ「LEV-1(レブワン)」です。もう一つが、JAXAとタカラトミー、ソニーグループ、そして私たち同志社大学が共同で開発に取り組んだ変形型月面ロボット「LEV-2」、愛称「SORA-Q」です。

SORA-Qのミッションは、「レゴリス」と呼ばれる月面の砂について情報を集めることです。また、走行データも収集。それらの情報を、LEV-1を通じて地球へ送ります。

付随するエキストラミッションとして、着陸したSLIMの姿を撮影し、地球へ送り届けるというものもあります。月面に降り立ったSLIMの姿をSORA-Qが届けてくれるかと思うと、非常に楽しみです。

着陸後に“変身” 動きのモチーフはウミガメ

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SORA-Qの大きさは直径約80mm。野球ボールほどのサイズです。およそ50個の部品と二つのモーターで構成されています。SORA-Qは、SLIMからの放出時は球形をしています。それが月面に着陸すると、外殻が左右に開き、中央部からはカメラとスタビライザーが現れます。また、左右に開いた外殻はタイヤに相当する機能を持つようになります。まさに「変形型ロボット」なのです。

“変形”させることには様々なメリットがあります。例えば、月までの運搬時にはコンパクトに収まって場所を取りません。月面に落下した際には、外殻は文字通り「殻」となって内部の部品を衝撃から守ります。外殻がタイヤの役割も兼ねますから、部品を少なくし、軽量化にも貢献します。最初から車の形状をしていると着陸用のスロープを用意しなければなりませんが、放出することで着陸するSORA-Qにはそれも必要ありません。トータルで質量の低減ができます。

開発時に課題となったのは、砂地の斜面を上ることができるかという点です。小型軽量化をすればするほど、足下の不安定な砂地を走行することは難しくなります。まして斜面となるとさらに難しいです。最初に開発したロボットは、直径100mmで13度の傾斜を上ることが精いっぱいでした。これでも月面探査にはまだまだ物足りないと思っていたのですが、実際にSLIMに搭載するのに、指定されたのは直径80mm、質量300gでした。サイズを合わせた試作機で実験したところ、わずか5度の斜面すら上ることができませんでした。

watanabe_sea_turtle2.jpg (85412) ウミガメの赤ちゃん(イメージ)

何とかならないものかと考え続けていたとき、思いついたのがウミガメです。ウミガメの赤ちゃんは、孵化してすぐに砂の中の穴から坂道を上ってはい出してきます。軽くて小さい体にもかかわらず、しっかりと前進します。

その秘密は、左右のヒレで砂を押さえて移動することです。通常の車のように軸が中心にあると、左右のタイヤは動きがそろいます。それに対して軸がずれると、ウミガメの赤ちゃんのように左右の車輪で砂を押さえて進むことができます。あの動きのおかげで、崩れ落ちそうな砂地をしっかりとつかみながら上ることができているのです。

同様の仕組みをSORA-Qに取り入れたところ、30度の傾斜も上ることができるようになりました。