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“D”iscover -Opinion-

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変形型月面ロボットが月面探査!?おもちゃ作りで培った技術と発想で宇宙へ挑む(後編)

2024年3月18日 更新
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i-SOBOT

前編はこちら

玩具開発のノウハウが宇宙へ

SORA-Qには、私が経験してきた玩具開発のノウハウが随所に生かされています。

玩具の主なユーザーはお子さんです。購入のシーンは、親をはじめとした周囲の大人がプレゼントとして買い与えるという場面が多いです。となると、あまり高額な商品は手に取ってもらえません。アメリカの場合、40ドルぐらいが上限と言われています。その結果、玩具開発は「いかにコストを抑えるか」が知恵の絞りどころの一つになるのです。素材を替えよう、部品を減らそう、小さくして使用する材料を減らそうというコスト抑制に向けた玩具開発の考え方は、小型軽量化がシビアに求められる宇宙開発に通じるものがあります。

玩具は、技術的には完成された分野とも言えます。歯車や車輪といった仕組みはずっと昔からあります。モーターやICチップが比較的新しい技術と言えるぐらいで、最先端の技術がふんだんに用いられるようなことはありません。なぜなら前述のように価格の問題があるからです。となると、開発者は「既存技術でいかにして新しい、おもしろい玩具を作るか」を考えることになります。実はこの考え方がSORA-Qの「軸をずらす」という発想につながりました。

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参考にしたのはタカラトミーのゾイドやトランスフォーマー、そしてアヒルのおもちゃです。ゼンマイを巻いて手を離すと、アヒルのようにぴょこぴょことお尻を振りながら歩くという、シンプルながらもユーモラスでかわいい玩具です。ぴょこぴょことした動きは、軸をずらすことで実現しています。それをSORA-Qに応用したのです。アヒルのおもちゃを開発した人は、軸を中心に置いたままではおもしろみに欠けると思ったのでしょう。かと言って大がかりな仕掛けを組み込むことなどできない。そこで試行錯誤したところから、「軸をずらそう」というアイデアが浮かんだはずです。

私はタカラトミー在籍中に、i-SOBOTという量産化された世界最小の二足歩行ロボット(メイン画像)の開発に携わりました。i-SOBOTは、機械メーカーや自動車メーカーなど日本の名だたる企業が開発するロボットを抑えて、その年の最も優れたロボットを表彰する「ロボット大賞」に選ばれました。17個のモーターを内蔵し、約1200の部品からなるi-SOBOTは精巧で多彩な動きができますが、あくまでも玩具です。そのため、他のロボットからすると価格は破格中の破格。性能を追求しつつも価格と必ず両立させるという玩具メーカー時代の経験が、後にSORA-Qへとつながっていったと言えます。 

新島襄から受け継ぐ「挑戦する心」

今、宇宙開発をめぐる世界各国の取り組みは活発化しています。国ごとに競争するだけでなく、協力しようという動きも進んでいます。「はやぶさ」「はやぶさ2」でサンプルリターンを成し遂げたことに代表されるように、日本の技術力にも大きな期待が集まっています。私自身も、JAXAと共同で「AIロボットによりひらく新たな生命圏」という研究開発プロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトでは、AIロボットを用いて構造物を惑星上などに造り、人が活動する拠点とすることを目指しています。私は、構造物内に造られる居住スペースなどの点検や修理を行うロボット開発を担当しています。

今でこそ私は宇宙と深く関わっていますが、必ずしも宇宙の専門家というわけではありません。ロボット開発もそうです。どちらも、最初のきっかけとなるテーマやプロジェクトとの出会いは偶然でした。「おもしろそう」「やってみたいな」という気持ちを原動力にして、目の前のテーマに全力でチャレンジした結果、現在に至りました。研究や学び、あるいは人生は往々にしてそういうものかもしれません。ですから特に学生の皆さんには、興味あることに思いきってチャレンジしてもらいたいと思います。失敗してもかまわないのです。諦めずに挑戦し続ければ、いつか成功するはずです。何かを成し遂げるためには、最初の一歩が必要です。ぜひその一歩を踏み出してください。

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現在、同志社大学で教授を務めていますが、私自身も同志社大学の卒業生です。当時も今も、本学には創立者である新島襄の思いが色濃く受け継がれていると感じています。特に私が感銘を受けているのが、新島の挑戦の心です。彼は21歳のとき、アメリカへ渡りました。海外渡航は当時の国禁です。にもかかわらず、日本の未来を思って海を渡ったのです。これを挑戦と言わずしてなんと言いましょうか。学生だった私はすっかり新島に感化され、卒業して企業に就職後は「海外に行きたい」と、ことあるごとに公言していました。それが海外工場の立ち上げ担当へとつながりました。

i-SOBOTも宇宙開発も同様です。おもしろそうなテーマに対しては、「挑戦したい」という気持ちがむくむくとわいてくるのです。多くの若者が、同志社大学と新島襄の挑戦する心に触れ、未来を開いていってくれると幸いです。

【編集部注】 SLIMは予定通り1月20日未明に月面に着陸。データ評価の結果、主ミッションであった100m精度のピンポイント着陸の技術実証が達成できたことがわかりました。SORA-Qも月面で正常に変形・駆動。1月25日にはSORA-Qが撮影した月面上のSLIMの画像が公表されました。SORA-Qが取得した走行ログなどのデータは引き続き解析中で、結果がわかり次第公表される予定です。