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神経回路の形態を可視化して脳のダイナミズムに迫る【大学院脳科学研究科 藤山 文乃 教授】

'16年3月1日 更新

教科書を書き換える新発見!
脳機能を補完する驚きのネットワーク形成

もともと神経内科の専門医として、パーキンソン病やハンチントン舞踏病などの患者の治療に関わってきた藤山文乃教授。うまく歩けなかったり、手の震えが止まらなかったり…。パーキンソン病は脳の中にある大脳基底核の障害によって、ドーパミンという神経伝達物質が減少することで引き起こされるが、単にドーパミンを補充しても元のように健康な状態には戻らないという。なぜだろうか?「歩きたいという意思と実際に歩くという行動の間には、目に見えない何かがあるのではないでしょうか」。

こうした疑問を明らかにするため、藤山教授は形態学の視点から大脳基底核の神経細胞(ニューロン)のネットワークを明らかにしようと考えている。脳はコンピュータと同じ。まずは、あらゆる縮尺の配線図を手に入れることが重要だ。例えば、遺伝子を改変したウイルスベクタを神経細胞に感染させると、その細胞膜に緑色蛍光タンパク(GFP)が次々と発現して、従来の古典的なトレーサー法では見えなかった神経細胞のネットワーク構造を詳しく観察することができる。そのほか、特定の神経細胞集団を個別に可視化する方法を組み合わせることで、「ニューロサイエンスの教科書を書き換えるような事実が分かってきました」と藤山教授は説明する。

一般的に、私たちがイメージする神経細胞の姿は、樹状突起をもつ細胞体から軸索が伸び、そこに1個のシナプスがついているというものだ。ところが、ドーパミン神経細胞は、軸索の先が毛糸玉のように密集していて、1個の神経細胞が何千というシナプスを作っている。つまり、神経細胞の入力側と出力側が1対1,000、あるいはそれ以上の関係を構築しているというわけだ。1対1のネットワークなら、回路の途中でトラブルが起こると、たちまち神経伝達がストップしてしまう。一つの神経細胞をきっちり作るのではなく、何となくお互いが機能を補い合っている…。「脳というのは意外にファジーな構造をしているのかもしれません」。

形態学の解析と電気生理の技術を融合し
大脳基底核回路のネットワークを読み解く

パーキンソン病の有効な治療法の一つに、脳深部刺激療法(DBS)が知られている。これは大脳基底核の中にある視床下核を電気的に刺激するというものだが、なぜその方法でパーキンソン病の症状が改善されるのかよく分かっていなかった。「今までの形態学の成果に加え、電気生理の分野で活躍する第一線の研究者らとチームを組んで、そのメカニズム解明に取り組んでいます」。

大脳基底核は線条体からダイレクトに神経伝達を行う直接路と、いくつかの核を経由して神経伝達を行う間接路を持っている。視床下核はその間接路の中継核の一つで、単に上の核から下の核へ順番に情報伝達するだけでなく、下から上へなど複雑多様な伝達を行っているという。「ネットワークを見抜くことが大切」。藤山教授らの研究グループは、実際にパーキンソン病のモデル動物を使って、どの神経細胞に刺激を与えればどんな影響がどれくらい波及するか、パッチクランプやオプトジェネティクスなどの最新手法で解きほぐそうと考えている。計画班員として立ち上げた「適応回路シフト」が文部科学省の科学研究費助成事業「新学術領域研究」にも採択されるなど、内外からの注目度も高い。また、本学「システム神経科学研究センター」の代表も務める。

「具体例を挙げてみましょう」と藤山教授。従来の形態学では、視床下核のすぐ上に淡蒼球外節という中継核が存在することが知られていたが、その役割は線条体からの入力を視床下核や大脳基底核の出力部(淡蒼球内節や黒質網様部)に送るものだと考えられていた。しかし、遺伝子改変ウイルスベクタによる単一ニューロントレースの結果、淡蒼球外節はそれより上に位置する線条体にも神経投射をし、一種の情報伝達のループを構成していることが分かった。「運動関連領野からの関与が深い線条体の機能と役割を知る手がかりになるかもしれません」と笑みをこぼす。

オーダーメイドで目指す
パーキンソン病治療の新しいスタイル

先ほどのDBSによる治療において、せっかくパーキンソン病の症状が治まっても、その患者の性格や行動が変化してしまうという報告が一部寄せられている。視床下核は卵のような形をしているが、その底部(腹部)付近を刺激すると鬱病になる可能性があるという。視床下核には、大脳皮質で言えば辺縁系皮質のような原始的な感情や情動と深く関わっている場所がある。「そこをうまく避けながら、患者さんの運動改善をターゲットにした治療法が確立できれば」。

最近の研究では、ドーパミンが減少することで視床下核の活動が抑制できなくなり、様々な運動障害が起きるのではないかと言われている。例えば、100ヘルツ以下の電気刺激は、むしろ逆効果になってしまうことがある。DBSの治療効果を高めるために、電気刺激の周波数の条件等を医学的・電気生理学的視点から検討していくことが求められる。「同志社大学大学院脳科学研究科の魅力は、異分野の研究者と専門領域の枠組みを超えて連携できること。今後の脳科学研究のモデルとなるような成果を発信していきたいですね」。藤山教授の眼差しはしっかりと次の目標を見据えている。

一口にパーキンソン病と言っても、その症状は多岐に渡っていて集約的な治療が難しかった。複雑な神経細胞のネットワークを明らかにすることで、患者個人の状態に合わせたオーダーメイドの治療が可能になる日もそう遠くないかもしれない。藤山教授の力強い言葉から、そんな期待が大きく膨らむ。


藤山 文乃 (ふじやま ふみの) 大学院脳科学研究科 教授

大脳基底核の神経回路にスポットを当てた研究で、パーキンソン病やハンチントン舞踏病など神経変性疾患の治療法の確立を目指す。神経回路のネットワークを隅々まで可視化する形態学の知見に加え、異分野の研究者と共同で遺伝子改変動物を使って電気生理の実証実験を行うなど、あらゆる角度から神経回路のメカニズム解明を進めている。剣道二段の腕前で、学生時代は駅伝を走る長距離ランナーだったとか。「そのとき養った忍耐力が、現在に役立っている」と笑う。

同志社大学リエゾンオフィスニューズレター「LIAISON」 vol.47 掲載
大学院脳科学研究科 藤山 文乃 教授
視床線条体投射の一例

神経投射の様式は実に様々。
これは視床線条体投射の一例。
Unzai et al., Cerebral Cortex, in press.

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