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言語を知ることは人間を知ること。研究で得た知見を教育へ還元する。【グローバル・コミュニケーション学部グローバル・コミュニケーション学科 長谷部陽一郎 准教授】

'17年8月29日 更新

恩師との出会いが導いた認知言語学の世界。言語の奥深さはここにあり。

 言語の起源は4~5万年前に遡る。以来、言語は概念やメッセージを他者に伝える単なるコミュニケーション手段ではなく、知的活動の根幹を成す人間独自の営みとして認知・思考・習慣と密接に関わりながら変化を遂げてきた。言語学の分野では、単語の形態や文法などの形式的要素と意味的要素を分離して考える理論「生成文法」が長年主流であった。「生成文法に対し、言語と社会・文化は不可分であり、意味的要素を排除して文法を考えることはできないという考えのもとに構築された言語学上のパラダイムが認知言語学です」と長谷部准教授は語る。例えば、英語の受け身文では、行為の「主体」ではなく「対象」が文頭に表れるが、これは話者の事態把握において、「対象」がより際立って認識されていることを反映している。また、話者の相手を慮る心理的距離が、本来は時間的距離を表す時制に影響を与える場合もある。「~したい」という英語表現は”I like to~“よりも過去形の助動詞を用いた”I would Iike to~”の方が丁寧な表現だとされるのは上記の理由によるものだ。長谷部准教授がこの認知言語学の世界に足を踏み入れたきっかけは、本学名誉教授であった故石黒昭博先生との出会いであった。英語学者である石黒先生の授業を通して、各言語には独自のものの見方や考え方が存在することを知り、次第にその奥深さに魅了されるようになる。進路相談の際に、研究室で石黒先生に手渡されたのは、認知言語学の第一人者であるロナルド・ラネカーの著書であった。「夏休みはこの一冊を読むことに明け暮れました。この夏が研究者としての第一歩だったのでしょう」と当時を振り返った。

言語の裏に隠れた思考や文化を解明する。研究発展の鍵を握るのは、視点の取り入れ方が異なる言語の比較。

 認知言語学を専門とする長谷部准教授は、言語表現に表れる話者の視点とその概念化に注目している。「ヴァネッサは私から見てテーブルの向こう側に座っている(図1-a)」という文と「ヴァネッサはテーブルの向こう側に座っている(図1-b)」という文は同義だが、話者が自身を概念化する様式において異なる。「言語を使用する際には、このような視点構図を理解してコントロールすることが重要です」。この概念化によるイメージと言語形式のマッチングは経験を通じてスキーマ化(抽象化)され、話者の中でネットワーク構造を成す知識体系として確立される(用法墓盤モデル)。「また、言語表現の結びつき度合いを分析することも重要です」と長谷部准教授は語る。例えば、”total failure”(完全なる失敗)と”total success”(完全なる成功)はいずれも正しい表現であるにもかかわらず、コーパスと呼ばれる大規模言語データベースを用いて用例を集計すると、“total failure”の使用例が圧倒的に多い。「一般的な英語話者は“total”という形容詞と“failure”という名詞との間にある種の選好性を見出していることがわかります。この背景には、世の中で成功や失敗がどのように捉えられているのかという社会的・文化的な要因があると考えられます」。このように私たちが使用する言語を分析することで話者がどのように世界を捉えているかを紐解くことができるのだ。長谷部准教授が取り組んでいる複数言語の比較研究は、話者が事態を概念化して言語で表現するプロセスを解明する手がかりとなるだろう。

蓄積された言語情報を活用し言語学習支援システムを構築。国内外で反響を呼ぶ。

 近年、政府や公共団体企業などによる情報公開の取り組みとして「オープンデータ」が注目されている。2012年には日本政府が国民生活の向上や企業活動の活性化、社会経済の発展を目的として「電子行政オープンデータ戦略」を発表した。多くの組織が、特定の制約のもと二次利用可能なデータを広く公開し、その活用を推進している。長谷部准教授は理論的な言語研究と並行しながら、認知言語学の知見を活かし、オープンデータを活用した外国語学習支援システムを開発している。認知言語学と外国語教育は親和性が高いため、教育関係者からも注目が集まっている。取り組みの一例が「TED Corpus Search Engine(TCSE)」だ。(写真1)TEDは学術やデザイン、エンターテイメントなどの分野で活躍するスピーカーたちによる講演会を定期的に開催する非営利団体で、実施されたプレゼンテーションをウェブサイトやSNSで公開している。TCSEにはTEDで行われたプレゼンテーションの中から単語や熟語、文法事例を的確に抽出する検索シンタックスが搭載されており、テキストを入力して検索すると当該箇所の前後の文脈と共に動画・テキストが表示される。これにより教師や学習者は必要とする言語表現の事例を視覚的・聴覚的に確認することができる。TCSEは一般公開されており、より多くの人々に活用してもらうためモバイル端末にも対応。「日本だけでなくフランスやマレーシアなどからも反響が寄せられています」と長谷部准教授は顔をほころばせた。
 また、長谷部准教授は日本語学習支援システムとして「jReadabiIity:日本語文章難易度判定システム」の開発にも携わっている。(写真2)認知言語学を専門とする早稲田大学大学院日本語教育研究科の李在鎬准教授を中心としたプロジェクトで、大量の日本語学習用教科書から得たデータを統計的に分析し、得られた回帰式を用いることで日本語文章の難易度を6段階で判別するシステムを作り上げた。学習者は合成音声による読み上げ機能や辞書引き機能を持つ有効な学習ツールとして活用できると同時に、教師は授業で使用する日本語がクラスの習得レベルに合致したものかを確認する試金石にも使えるだろう。「認知言語学は人が世界を把握し、表現するプロセスを解明する取り組みです。今後は認知言語学の知見を活かして、外国語教育や日本語教育だけでなくプログラミング教育への応用も視野に入れています」と長谷部准教授はこの分野が秘めるさらなる可能性を示した。

長谷部陽一郎 グローバル・コミュニケーション学部グローバル・コミュニケーション学科准教授
同志社大学文学部英文学科卒業、同志社大学大学院文学研究科英文学専攻を満期退学。徳島文理大学短期大学部専任講師や本学言語文化教育研究センター専任講師を経て、現職。「言語表現に反映された話者の視点構図」や「認知言語学の知見を活かした外国語学習システム開発」を研究課題とする。オリジナルサイトでは言語研究に資するテキスト処理用コンピュータ・プログラムや言語学習支援システムを公開している。

同志社大学リエゾンオフィスニューズレター「LIAISON」 vol.51 掲載
図1

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写真1・写真2

写真1・写真2

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