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「エクオール×太極拳」で健康長寿への貢献を目指す ~同志社大学 若き研究者の挑戦~(前編)
同志社大学は、多様化・複雑化を増す社会課題に挑戦し、新たな領域の開拓やグローバルな活躍を目指す若手研究者を支援すべく、「次世代研究者挑戦的研究プロジェクト(Spring! Doshisha)※」を実施しています。支援の対象となるのは、自由で挑戦的・融合的な研究に意欲的に取り組む博士後期課程の学生。研究活動に専念して研究力の向上を図ることができる環境の整備やキャリアパスの確保に向け、多彩な支援を一体的に受けることができます。2023年度からプロジェクトの支援を受ける、スポーツ健康科学研究科スポーツ健康科学専攻(運動処方研究室 石井好二郎教授)博士後期課程2年次生の花野宏美さんに話を伺いました。
※本プロジェクトは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラムの採択を受けて実施しています。

エクオールが産生できるのはどんな人? なぜ産生量が減る?

私が取り組む研究テーマは「若年女性のエクオール産生能と、骨量、月経前症候群、および大豆食品摂取の相互連関」です。エクオールはサプリメントなどでも知られている、女性ホルモンのような働きをする成分です。大豆イソフラボンの一種である「ダイゼイン」が腸内細菌で変換されることによって産生されます。誰もが産生できるかというとそういうわけではなく、特定の腸内細菌を持っていることと、その腸内細菌が有効に働いてくれるという条件を満たして初めて、エクオールは産生されます。ちなみに女性だけでなく男性でも産生できます。
近年、エクオールを産生できる日本人女性が減少傾向にあることがわかってきました。特に20代を中心とした若年女性でその傾向が顕著で、中高年女性は50%の人が産生能を持つのに対して、若年女性は20%しか産生能を持っていません。この理由はまだわかっておらず、謎の解明が私の目標の一つです。
理由として指摘されているのが、食事の欧米化です。エクオールの産生にはダイゼインが不可欠であることから、大豆の摂取量が産生能と関係していると考える説があるのです。確かに若年層は中高年に比べて大豆由来の食品を摂取する機会は減っています。一理ありそうな説なのですが、一方で、この説を否定する先行研究も発表されています。
私が着目しているのは体脂肪率との関係です。体脂肪率が低いとエクオールの産生能も下がるという関連が認められます。若年女性は体脂肪率を気にしがちなので、エクオールの産生能低下と確かに関係がありそうに見えます。では、体脂肪率が高ければエクオールの産生能も上がるのかというと、そうではないと私は考えています。低くもなく高くもない、ちょうどいい値があるはずなのです。それを実証することが、現在の私の研究の中心テーマです。仮説を実証するため、300人の女子学生を対象に体脂肪率とエクオール産生量などの測定を行っています。十分な量のデータを集め、分析を進めていく予定です。
人は加齢にともなって骨量が減っていきます。骨量の減少が深刻化すると骨粗しょう症が引き起こされ、骨折やそれによる寝たきりなどの原因になっていきます。骨量については、エクオールを産生できる人は減少量が少ない可能性があります。つまりエクオールを産生できると、骨粗しょう症のリスクを低減できると考えることができます。
加齢による骨量の減少は避けることはできません。そのため骨粗しょう症の一次予防は、20代のうちに最大骨量をできるだけ高めておくこととされています。若年層を対象としてエクオールと骨量の関係を調べた研究は今までに行われていません。現在行っている調査では、この点に関する知見も得られるはずです。骨粗しょう症の予防についても、エクオールという観点から貢献できるものと期待しています。
太極拳をきっかけに、健康寿命の延伸に興味

私は4歳のときから、武術太極拳に取り組んでいます。動作の美しさや力強さなどを競ううえで、体を動かすメカニズムなどに興味を持つようになりました。そこで同志社大学スポーツ健康科学部に入学し、スポーツバイオメカニクスを研究。修士課程まで進んで論文にまとめることで、私の中では研究を完結させることができました。そして、次のテーマを探すなかで注目したのが、太極拳の生涯スポーツとしての側面です。太極拳の愛好者は年配の女性が多いです。「この人たちの健康に貢献したい」と考えたことが、エクオールにたどり着くきっかけになりました。
私はもともと、「何かの分野のプロフェッショナルになりたい」という志向を持っていました。博士課程に進んだのもそのためです。「何か」は、できることなら武術太極拳でありたいとも考えていました。ただ、武術太極拳の認知度はまだまだ低く、この分野でプロフェッショナルになるには長い長い道のりが予想されます。そこで研究室の先生とも相談し、まずは健康をテーマにした研究者としてプロフェッショナルになることを目標にしました。健康を切り口にすることで、生涯スポーツとしての太極拳を組み合わせることが可能になります。データの収集には太極拳愛好家にも加わってもらいます。健康、太極拳、エクオールという3つの要素を組み合わせることが、私の研究の独自性であり、強みになると考えています。