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超音波で筋肉の衰えを予防し、健康寿命の延伸に貢献
~同志社大学 若き研究者の挑戦~【前編】

同志社大学は、多様化・複雑化を増す社会課題に挑戦し、新たな領域の開拓やグローバルな活躍を目指す若手研究者を支援すべく、「同志社大学大学院博士後期課程次世代研究者挑戦的研究プロジェクト(SPRING)※」を実施しています。支援の対象となるのは、自由で挑戦的・融合的な研究に意欲的に取り組む博士後期課程の学生。研究活動に専念して研究力の向上を図ることができる環境の整備やキャリアパスの確保に向け、多彩な支援を一体的に受けることができます。


2024年度から同プロジェクトで活躍中の、生命医科学研究科医生命システム専攻(分子生命/予防医学研究室/市川寛教授)博士課程3年次生の丹羽良介さんに話を伺いました。

※本プロジェクトは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラムの採択を受けて実施しています。

2025年9月16日 更新
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生命医科学研究科 丹羽良介さん

超音波による“筋トレ”が筋力の低下を予防する!?

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私が取り組んでいる研究は、酸化ストレスに着目し、廃用性筋萎縮というサルコペニアの一種の予防に向けたものです。サルコペニアとは、加齢などによって筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態のことです。筋力や足腰が弱った高齢の方がちょっとしたことで転倒して骨折し、それがきっかけで寝たきりになり、心も体も弱っていく「サルコペニアフレイル」という状態は、大きな問題になっています。また、サルコペニアになると血液などの循環も悪くなり、合併症として他の疾患が引き起こされる場合もあります。

一方で酸化ストレスは様々な病態に関連することが知られています。運動不足や寝たきりになり体内で発生する活性酸素の消去能力が落ちると酸化ストレスが大量に発生します。筋力を衰えさせない方法としては、過剰な酸化ストレスを取り除く、もしくは活性酸素への抵抗力である抗酸化能を高めるかという2つの方法が考えられます。実は適度な筋トレは抗酸化能を高める働きがあります。つまり、サルコペニアにならないためには、筋トレをすればいいのです。

しかし、この方法が適応できないケースもあります。それは寝たきりの患者様です。寝たきりの患者様に筋肉が衰えないように、筋トレをさせるのは、不可能な話です。そのため筋トレに頼らず、筋肉の衰えを防ぐ方法を見つける必要があります。ここで一般的なのは、EMS(Electrical Muscle Stimulation)筋トレです。EMS筋トレとは、「装着するだけで腹筋が6つに割れる」などの宣伝でよく知られる、電気刺激を用いた器具を使った筋トレのことです。しかし、EMS筋トレの器具は心臓のペースメーカーに影響を及ぼす危険性があり、すべての寝たきり患者に使うことはできません。また、他の医療機器への影響も懸念されるため、医療現場での使用は難しいという問題がありました。

そこで、私はエコー検査にも使われる超音波に注目しました。医療現場で用いられるエコーなど、他の超音波機器を参考にしながら、抗酸化能の向上に適した強度を模索しました。細胞レベルで実験したところ、抗酸化能の向上が確認され、改めてラットでの実験を行いました。すると、1回あたり1分間の照射を2日に1回、1週間にわたって行った結果、6種類の抗酸化能が向上したことを確認できました。同様の効果を人間がサプリメントを用いて出そうとすれば、2カ月はかかります。しかも月に10万円程度の費用を投じる必要があるのです。しかし、超音波を用いれば短期間で効果を出すことが期待できるのです。

ミトコンドリアに着目し、メカニズムを解明

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次に、サルコペニアを模したラットに超音波を当てる実験を行いました。ラットの片脚をテーピングで固定し、意図的に運動不足の状態にしたところ、血中の抗酸化能が糖尿病患者や認知症患者と同じぐらい大幅に低下しました。運動不足はそれほどまでに、体に深刻な影響を及ぼす要因となるのです。これ自体が大きな発見の1つでした。このサルコペニアを模したラットに超音波を当てたところ、筋肉の減少を抑制する効果が出ました。次に抗酸化能を測定すると正常ラット以上に抗酸化能が上昇しました。

これらの結果から超音波照射によって抗酸化能が向上し、サルコペニアを予防する効果を発見しました。そこで次に取り組んだのが、超音波が抗酸化能を高めるメカニズムの解明です。活性酸素は、細胞内のミトコンドリアがエネルギーを作り出すときに発生します。通常であれば活性酸素は自然に除去されるのですが、ミトコンドリアが病気やストレスによって機能不全になると十分に除去できず、活性酸素によってミトコンドリア自身が傷ついてしまいます。

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私は、ミトコンドリアにストレスがかかったときに発するGDF15という信号物質に着目しました。ストレスがかかり活性酸素が増えると、GDF15の数値は上がります。実験対象のラットは、脚を固定されてストレスがかかっているので、その時点でGDF15の数値は通常より高まっています。しかし、超音波を照射した群ではその上昇を抑制されました。

現在、この予防メカニズムに関しては、超音波が体内で活性酸素をごく少量増加させ、このときに、活性酸素をやっつけようとする抗酸化能も高まると考えています。さらに私たちの体は、「次に活性酸素が増えるときに備えて、少し多めに抗酸化能を高めておこう」と判断します。この、「少し多めに」という部分が筋トレによる筋肉の増加に相当している部分です。つまり、超音波を照射して多めに抗酸化能を高めておくことが、筋力の維持につながる仕組みなのです。