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職業訓練は異なる時代や社会を映し出す鏡。誰もが笑顔で働ける社会の実現を目指して
~同志社大学 若き研究者の挑戦~(後編)

SPRINGプロジェクトを通じた、日々の研究活動に対するさまざまな支援
SPRINGプロジェクトの採択を受けて、日々の研究活動に対するさまざまな支援を頂いています。例えば、「英語プレゼンテーション研修」では、実際に英語でプレゼンテーションを行い、より伝わりやすくするための実践的な技術を学びました。また「研究マネジメント研修」ではSciValと呼ばれるデータベースを用いて、実際に海外の文献を検索する方法を教えて頂きました。海外の膨大なジャーナルの中から自らが求める情報を見つけ出す作業は、日本の文献を探す時とは異なる難しさがあります。この研修で出会った論文は、書評を行い学術誌に掲載しただけでなく*⁷、海外活動計画を立案する際の有益な情報源となり、現在の研究活動を進める上で大きな支えとなっています。SPRINGプロジェクトでは採択期間中に学会参加やフィールドワークの実施など、海外で活動することが必須条件になっています。私は2024年度内にイギリス(イングランド)を訪問し、現地の企業や労働組合、職業訓練の実施機関、そして大学等を訪問する予定です。近年のイギリスでは企業と労働者の間に生じるスキルギャップの解消を目的に、企業が労働者に求めるスキルニーズを反映した職業訓練のカリキュラム設計が進んでいます。他方で、かつてのイギリスではCraft Controls(クラフト的規制)に代表されるように、企業による徒弟の安価な労働力としての活用に対し、労働組合が積極的に規制をかけてきた歴史もあります。こうした複雑な歴史的背景の中で、現代のイギリスでは「どのようにして職業訓練のカリキュラムが設計されているのか」「どこにどんな課題が生じているのか」「日本の取り組みと比較すれば、何がどう異なるのか」といった点に注目してインタビューを行いたいと考えています。

そして、京都クオリアフォーラムが主催する「博士キャリアメッセKYOTO※」では、企業の実務家に対して自らの研究内容を3分間でプレゼンテーションしました。限られた時間の中で端的かつ効果的に物事を伝えた経験は、その後も様々な場面での発表に生かされています。例えば、私の場合、同志社大学と学術協定を結んでいる(一社)国際産業関係研究所が主催する研究会において、企業や労働組合、さらには学内外の研究者と交流する機会があります。ここで要点を押さえた発表を行うことで、研究者のみならず、企業や労働組合それぞれの視点から貴重な意見を頂き、現場目線でより良い職業訓練を実現するためのヒントを得ることができています。
日本の企業社会の実状を正しく理解するための「唯一無二の学び」

博士課程を修了した後は、大学教員として就職し、自らの研究を深めながら、教育活動や社会貢献活動に積極的に取り組みたいと考えています。一般的に、文系の大学院進学者は少ないと言われています。しかし、それでもなお、私自身が博士後期課程に進学し、大学教員としてのキャリアを歩もうと決断できたのは、同志社大学が「雇用」や「労働」に関する問題についてじっくりと考えることができる、恵まれた環境だったからだと感じています。
同志社大学全学共通教養教育センターは、社会学部が開設協力している日本労働組合総連合会(連合)の寄付講座である「働くということ(現代の労働組合)」 という授業を、(公社)教育文化協会の全面協力のもとで開講しています。
この授業では各企業別・産業別労働組合に所属する中央執行委員がゲストスピーカーとして招かれ、それぞれの労働組合の取り組みや直面している課題について講演してくださいます。近年はワーク・ライフ・バランスや長時間労働、そして働き方改革といった学生にとって関心が高いトピックが取り上げられることが多く、日本の企業社会の実状を正しく理解するための貴重な学びの場となっています。私自身もこの科目のTA(ティーチングアシスタント)として運営に携わっており、毎回異なる講師と直接お話する中で、教科書では得られない新しい発見や気付きを得ています。ちなみに、(公社)教育文化協会が直営で授業を行っているのは、西日本では同志社大学だけ。まさに唯一無二の学びです。
新島襄の言葉を自らの研究の「志」として掲げ、誰もが笑顔で働ける社会の実現を目指す
最後に、私が所属する社会学部が拠点を置く新町キャンパスの校舎には、同志社大学の創立者である新島襄が残した「諸君ヨ、人一人ハ大切ナリ」という言葉が大きく刻まれています。この言葉は私の研究と非常に重なる部分があると感じています。
私の研究分野である「働く」という観点から見ると、どうすれば誰もが笑顔で働ける社会を実現できるのかを考えることが、一人ひとりの労働者を大切にすることにつながります。そして、誰一人として取り残さない社会を実現するための仕組みとして、私は「職業訓練」が重要であると考えています。新島襄が作りあげた同志社大学の中に、産業関係学科という全国的にも珍しい学科が存在していることは、決して偶然ではないと思います。この恵まれた環境を最大限に生かし、「職業訓練のどこに、どのような課題があるのか」、「なぜ、そのような課題が生じているのか」「どうすれば、より良い仕組みを実現できるのか」を探究し、博士学位論文にまとめて発表したいと考えています。そして、日本の企業や労働組合、公的機関が連携し、労働者が求める働き方を実現できるようにするための“焚きつけ役”になることが、私の研究活動における「志」です。
*⁷ 霜永智弘(2024e)「技術変革と制度的補完性─欧州鉄鋼産業における第4次産業革命の到来と新たなスキルニーズの発生に伴うIVETの対応(論文Today)」『日本労働研究雑誌』No.766、pp.80-81.
※博士学生や企業関係者が博士に対する期待やキャリアについての現状を本音で語りあい、キャリアの選択肢を広げる場として、京都クオリアフォーラム・人材育成Gのもと、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)に採択された京都・奈良6大学が企画運営しています。