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コミュニケーションの所作を解き明かせば、人と社会が見えてくる(前編)
私たちは日々の会話において、「単刀直入」な物言いをすることもあれば、「言外に匂わせる」こともあります。「観測気球」を打ち上げるかと思えば、「鎌をかける」こともあります。意識するかしないかは別にして、私たちはコミュニケーションにおいて、様々なテクニックを駆使しているのかもしれません。さらに、「目は口ほどに物を言う」のですから、コミュニケーションの手段は音声言語だけにとどまりません。会話における手法や法則性を解き明かす「会話分析」の研究に取り組む、グローバル地域文化学部グローバル地域文化学科の石野未架准教授にお話を伺いました。
グローバル地域文化学部 石野未架准教授
大学卒業後にワーキングホリデーでカナダに1年間滞在。帰国後、広告代理店での営業職を経て大学院に進学。外国語教育学の修士号を取得する。高校の英語教員として勤務した後、大阪大学大学院へ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校でも研究を行い、大阪大学言語文化研究科にて博士号(言語文化学)を取得。同志社大学では2020年から教壇に立ち、2023年より現職。
会話の“文法”から人間の社会性に迫る
私の研究テーマである「会話分析」が意味する「会話」とは、まずは文字通りの意味である音声言語による会話です。それに加えて、身振りや目線の動きなど非言語のコミュニケーションも含んでいます。それらを分析することで、何らかの規範的な法則を見つけ出そうというのが会話分析です。言語・非言語を問わず、会話のなかに潜んでいる“文法”を解明する学問と言えます。会話分析は社会学から派生していった領域であり、会話を切り口にして人間の社会性を理解することを目指した学問です。
有名なところでは、医師が診察を終える際に患者に問いかける「他に何かありますか?」という質問はどのような表現が適切かという、アメリカで行われた研究があります。この研究では、「Is there anything else you want to address today?」「Is there something else you want to address today?」という、ほぼ同じ意味の2つの表現が比較されました。すると、anythingを用いている前者では「何もありません」と答える人が多く、somethingを用いた後者では「実は……」と気になっていたことを話し始める人が多いという結果になりました。心配事を伝えたり解決したりすることができるので、患者にとっても医師にとっても後者の方が望ましい質問の仕方です。このように、言葉の使い方による受け止め方や反応の違いを見つけ出すのが、会話分析の取り組みの1つです。
会話分析が行われ、知見が活かされているのは医療現場だけではありません。政治家らの記者会見や会談などで発した言葉の、真意を理解することにも役立ちます。もちろん、円滑なコミュニケーションを図るうえでのヒントを得ることもできます。ヒートアップしたことが話題になったトランプ・アメリカ大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領の会談は、「どの発言が相手をあおってしまったのか」などを理解するうえでの格好の教材になっています。実際、私も授業のなかで教材として用いることがあります。
“できる先生”の言葉と行動を、経験則から客観的な法則へ
“できる先生”の言葉と行動を、経験則から客観的な法則へ
私の研究では、「会話」は音声言語だけでなく、身振りなども含めた「コミュニケーションの所作」全体を対象としています。また、教育現場を研究の対象としていることも特色です。
ここで最近の私の研究を紹介します。テーマは、授業の始まりにあたって教員はどうやって教室内の緊張感を生み出すか、というものです。休み時間の教室というのは、リラックスしてざわついているものです。それを、どのようにすればスムーズに授業に向けた静かなものに切り替えられるかを明らかにする研究と言えます。
研究の結果、スムーズに雰囲気を切り替えられている先生は、授業開始のチャイムが鳴ると同時に教卓の前に立っていることがわかりました。先生によっては休み時間も教室にいて、書類の整理などをしているケースもあります。そういった場合も、チャイムが鳴ると自分の作業の手を止め、教卓に立った先生のクラスではスムーズに授業に向けた雰囲気が生まれました。逆にチャイムが鳴った後も自分の作業を続け、しばらくしてから教卓に立った先生のクラスでは、授業に向けた緊張感は生まれませんでした。このことから、チャイム、教卓、そして先生自身の行動という3つが一体となって、授業に向かう空気が作り出されていると結論づけました。
教育現場での先生の所作については、海外の大学と共同研究も行っています。研究のパートナーはスウェーデンと韓国の大学。ここに日本を加えた3カ国が、それぞれの国でまったく同じカリキュラムの英語の授業を行い、その様子を互いに観察して比較検討を行うというものです。ちなみに授業は各国ともに英語で行います。
この研究で、海外の研究者や授業を担当した英語の先生が日本の授業に対して驚いたことが2つあります。1つはクラスの生徒数です。日本では今も1クラスの人数は最大42人まで認められています。それに対して韓国とスウェーデンでは25人です。
もう1つは、日本の授業は「teacher controlled」でより「formal」だという点です。これは、先生が権威的で先生主導の授業を行っているという意味合いです。先生はフォーマルな格好をして生徒も制服を着ていますし、先生が生徒のことをMr.やMrs.という敬称を付けて呼んでいることが、その理由として指摘されました。
このように、私たち日本人にとっては当たり前だと思っていたことも、国際共同研究をすることで当たり前ではないとわかります。他国の指導方法や先生と生徒の関係性を知ることが、日本でのより良い指導につながることもあります。授業を英語で行っていますので、先生自身の英語運用力を高めるという効果もあります。教育現場における会話分析から得られた知見を、教員の指導力向上など、教育現場に還元することが研究の目標でもあります。