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クルマ同士、クルマと道路が通信することで自動運転技術は新たなステージへ(前編)

物流業界における運転手不足や過疎地域での公共交通の減少、高齢ドライバーによる交通事故など、交通や移動をめぐる課題は山積している。その解決に貢献する技術の一つとして期待が集まるのが、自動運転だ。

世界の自動車メーカーが中心になって技術開発にしのぎを削るこの分野において、キーワードとも言えるのが「つながる」「協調する」。同志社大学理工学部教授で同学モビリティ研究センター長の佐藤健哉教授に、自動運転技術の現在の状況と「つながり」がもたらす未来について話を伺った。

2024年1月31日 更新
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理工学部教授 佐藤 健哉

ネットワークでつながったクルマ同士が情報交換し、適切な運転を判断する

自動運転をはじめとした新しい交通の姿を、「ITS(Intelligent Transport System/高度交通システム)」と呼びます。ITSの初期の姿の一例は、カーナビゲーションシステム(カーナビ)です。クルマに搭載されたカーナビ機器を使って位置情報や周辺の道路情報を利用することで、渋滞を回避したり安全に目的地に到着したりすることをサポートしました。

クルマの自動運転技術においては、カメラやセンサーを搭載して周囲の情報を収集するという方法を中心にして進化してきました。いわば人間の目や耳に相当するものをクルマに備え付け、そこから得られる情報を分析して運転へと生かそうという考え方です。機器の性能や情報処理能力を高めることで人間の能力を補うことができるので、この方法は確かに有効です。自分のセンサーのみを利用するという意味で自律型自動運転と呼ぶことがあります。

しかし自律型自動運転は限界もあります。例えば、どんなに優れたカメラでも、交差点を曲がったその先までは見ることができません。物理的に見えない、聞こえないという場所は存在してしまうのです。これはある意味、人間と同じです。

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協調運転実験用ドライビングシミュレータ

そこで今取り組まれているのが、クルマ同士をネットワークでつなぎ、情報交換をさせることです。先ほどの「交差点を曲がった先は見えない」という例で考えてみましょう。この場合は、自分のクルマと交差点を曲がった先にいるクルマをつなぎます。そして交差点の先にいるクルマから「今から交差点を直進します」という情報を送ってもらうのです。その情報をキャッチした自分のクルマは、「向こうから車が来る。気を付けて通行しよう」と判断し、徐行するなどの対策を講じることができます。これが、「クルマ同士がネットワークでつながり、協調して運転する」という状態です。人間の目でも、それを補うカメラでも見ることができなかった場所の情報を得ることで、より安全な運転が可能になると考えられます。

sato_test-drive.jpg  (84390)公道での協調型自動運転実証実験風景

つながるのはクルマ同士だけではありません。道路信号の情報もクルマとつながりますし、街に設置された防犯カメラとつながることも考えられます。さまざまな機器がつながり、情報を交換することで最適な判断と行動が可能になります。自分のセンサー以外の情報も利用するという意味で協調型自動運転と呼びます。ITSはそのような交通の姿を目指しています。

ちなみに、協調型自動運転技術はIoT(モノのインターネット)の代表例だと言えます。IoTは、身の回りのさまざまな機器にコンピューターが搭載され、それらがネットワークを介してつながり合い、協調して動くことです。エアコンやテレビをスマートフォンで遠隔操作できるのも、エアコン、テレビ、スマートフォンという「モノ」がインターネットでつながっているからです。これと同様のことを、自動的に行うのが協調型自動運転技術です。