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“D”iscover -Opinion-

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畑から考えるSDGs
自然も人も、「知る」からこそ大切にできる(前編)

地球規模での気候変動から身近なゴミ問題や日々の省エネまで、さまざまなテーマで地球環境の保全について議論や、取り組みが行われている。SDGsにおいても、豊かな地球を守るための複数のゴールが設定されている。

同志社大学社会学部のビリー・スティーブンソン准教授が取り組むのは、「Garden-Based Learning(菜園探究学習/GBL)」と呼ばれる、農業体験を軸とした自然の中での学びだ。どのような学習で、どういった効果が表れているのかについて、スティーブンソン准教授に話を伺った。

本研究はAll Doshisha Research Model 2025「“諸君ヨ、人一人ハ大切ナリ”同志社大学SDGs研究」プロジェクト の2022年度採択課題です。

2024年4月23日 更新
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社会学部准教授 ビリー・スティーブンソン

畑作業を通して、地域の人とも関わるGBL

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私の専門は教育史ですが、普段の授業を教室で行うことはめったにありません。京都御所や鴨川河川敷など屋外で授業をすると、学生の会話や議論が活発になり、発想も柔軟になることが明らかだからです。私の最も気に入っている青空教室は、京都市左京区の市原に借り受けた畑です。そこでGBLを実践しています。

GBLは2020年から始めた、ゼミ生とともに行う自然体験・野外活動の一種です。毎週火曜日の朝から夕方まで学生と一緒に有機野菜作りや農作業、ディスカッションなどをしています。手作業を基本としており、道具も機械ではなく唐箕とうみや脱穀機など明治・大正時代の古道具を使っています。活動には地域住民のボランティアやそのご家族、地域の小学生が加わってくれることもあり、学生にとっては子どもから高齢者まで、学内では接することのできない世代との交流の機会にもなっています。収穫した作物は参加者みんなでいただくほか、子ども食堂でも利用してもらっています。

「Garden」という言葉は、日本語では「庭」と訳されることが多いです。しかし英語では、「庭」と「畑」の中間的な意味を持ちます。育てているものの種類に関係なく「人が過ごす場所」という意味合いや、物事を循環させる「エコシステム」としての意味合いもあります。この観点から考えると、私たちの取り組みはまさに「Garden」だと言えます。

GBLは心を安定させ、豊かなコミュニティを生み出す

stevenson-01.jpg (89511) 史料によれば、戦後、環境教育が盛んになったことがわかる

私がGBLを実施している理由は、二つあります。

一つは戦後以降自然教育の一環として現代的な環境教育が世界的に盛んになりましたが、環境破壊・環境問題の拡大には全く追いついていない現状があるからです。

二つ目は、日本の若者は世界で最も気候変動等に関する知識があるにも関わらず、環境保護関連の関心・行動に関しては世界で最も低いという研究があるからです。私はこれを「ecoinertia(エコ慣性)」と呼んでいますが、必要な知識や技能があるのに行動に移さないという状態なのです。これらに課題意識を持ち、GBLを通して教育実践研究を行いたいと強く思いました。

GBL研究をする中で、参加者のWell-beingについて効果がありました。気持ちの落ち込みなどに悩んでいた学生が、GBLに参加することで状態が改善する例がみられました。自然との触れ合いが心にプラスの作用をもたらすことは先行研究でも明らかになっています。イギリスではGBLがうつ症状を改善させるための治療プログラムになっているほどです。

また、プログラムに参加している学生と参加していない学生を比較したところ、自然の中で過ごす時間について大きな差が表れました。参加していない学生は、自然の中で過ごす時間がほぼゼロだったのです。自然と触れ合うことは、意識の変化ももたらします。プログラム参加者の多くは自然保護への意識が高まりました。中には大学院へ進学して自然保護や野外活動について専門的に学ぶことを決めた学生や、自然保護に取り組む企業への就職を決めた学生もいます。GBLが人生の選択に影響を与えたと言えるでしょう。

GBLは、学内では形成されなかった新たなコミュニティを生み出すという効果ももたらしました。学内では話題は勉強のことに限られがちです。また、友人関係も趣味や嗜好がマッチする人が中心になります。それに対してGBLでは、農業のことや自然のことなど、学内とはまったく違う話題を入り口にして会話が始まり、人間関係が築かれます。教室では見ることができなかったクラスメートの表情や行動に触れることもできます。そうすることで、新しくて豊かなコミュニティが生まれるのです。先述の世代を超えた新しい人々との出会いも、コミュニティをより豊かなものにしてくれています。

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GBLの様子

GBLに似た取り組みとしては、小中学校などで行われている野外活動があります。それらも有意義ではあるのですが、多くのプログラムは1回が1日もしくは2日間と短期で、在学中に経験できるのは一度だけです。期間が限られると、体験できる内容も限定されてしまいます。前述した自然体験による効果を生み出すには、やはり継続的な活動が必要です。また、限られた時間の中で多くの経験をしようとすると、プログラムに無理が生じてしまいます。

私は「無目的のガーデンタイムが最高のガーデンタイム」という言葉を意識しているのですが、「あれをしよう、これをしよう」となりすぎるのは、本来の自然体験のあり方にはそぐわないのです。この点でも、毎週1回、継続的に行うGBLは効果的なプログラムだと考えています。