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Doshisha-ism

東京都副知事 宮坂 学さんに聞く

ヤフー株式会社の社長としてスマートフォン時代の新生ヤフーを作り上げた後、「Society 5.0」実現を目指す東京都の参与へ。
9月には副知事に就任した宮坂学さんにインタビューしました。

宮坂 学(みやさか・まなぶ)さん 1967 年生まれ、山口県出身。大学卒業後、株式会社ユー・ピー・ユーで雑誌や広告制作に携わる。1997年、創業2年目のヤフーに入社。2012年、44歳で同社社長に就任。「爆速経営」をスローガンに掲げ改革に取り組む。2018年会長に退き、2019 年6月同社取締役を退任。同年7月東京都の参与に。9月20日付けで東京都副知事に就任。

日本、そして気候変動への危機感から東京都参与へ

磯島
東京都参与に選任された時の心境、意気込みを聞かせてください。
宮坂
6月にヤフーの取締役を退任した時、様々なオファーをいただいたのですが、その中で今までとまったく異なるキャリアが東京都参与でした。迷った時はワイルドな方を選ぶというのが僕のモットー。できるだけ、まだ経験してないことをやりたいと思っているんです。年齢的に51歳で人生100年時代のいい区切りだし、思い切ってやってみようと思いました。参与を引き受けたのは、もう2つ理由があります。1つは、日本の現状に対する危機感があったから。中国やアメリカへ行くと若者や女性が活躍していて、みんなが元気でイキイキしている。ダイナミズムがすごくて、テクノロジーの使い方も非常に斬新です。翻って日本はどうでしょう。勢いがなく、このままで大丈夫かという憂いがありました。行政を担う東京都の仕事であれば、何かで貢献できるのではないかと考えました。そして、もう1つの理由が気候変動です。これは僕自身にとって最大の危機であり、解決しなくてはならない問題。東京都だけでなく人類的な課題ですね。小池百合子知事はもともと環境問題に熱心な方なので、小池知事のもとであれば、この課題に取り組めると思ったのです。
磯島
気候変動への関心が高いのは、アウトドアが趣味で自然がお好きであることも関係していますか。
宮坂
それもありますね。気候変動については、若い世代の最大の問題だと思いますよ。海外でもスウェーデンの高校生が気候変動対策を訴えて注目を集めていますし、若者の方が敏感です。でも僕たちの世代が何もしなければ、「上の人たちは逃げ切った」と思われてしまう(笑)。きっちり決着をつけて次の世代に届けないと、目覚めが悪い気がするのです。

東京都を、いつでも誰もがインターネットにつなげる街に

磯島
これから東京をどんな都市にしていきたいとお考えですか。
宮坂
まだ就任したばかりなので、今は目と耳を使って現場を知ることに専念しているところです。現場を知らないと的外れになってしまいますから。参与として最初に手がけた仕事をあげると、「TOKYODataHighway基本戦略」の策定ですね。「東京をいつでも誰でもインターネットをつなぐことができる街にしよう」という構想です。今インターネットにつながらないのはすごく不便で、良くないことだと思う。行政はインフラをつくるのが一番の仕事です。車の道はもう十分整備されているので、次にすべきことは「電波の道」をつくること。5Gネットワークで、どこでもインターネットがつながる道をつくることを目指しています。
磯島
今後、IT技術は私たちの暮らしにどのような変化をもたらすとお考えですか。
宮坂
すべて変わると思いますよ。
磯島
すべて!
宮坂
電気と同じですよね。電気はすべての産業や生活に関わっているでしょう。ITも同じようにすべての産業、生活、モノに関係してくる。電気がない生活が考えられないように、ITのない生活もあり得なくなると思います。

ビジネスは“打率よりも打席”スピーディな決断で打席を増やす

磯島
ヤフーの社長に就任された際に掲げた「爆速経営」について教えてください。
宮坂
「爆速経営」という言葉はメディアで取り上げられて話題になりましたが、実は社内ではあまり使ってなかったのです。それまでのヤフーは、外的要因から守り重視にならざるを得なくて、慎重すぎるところがありました。僕が社長になる時はちょうど転換期だったので、仕事のスタイルを一気に変えるために、わかりやすい言葉で「爆速」を掲げました。ただ、いつでも何でも爆速で進めればいいというわけではありません。タイミングや仕事の性質によっては慎重になった方がいい場合もあるので、柔軟に対応すべきだと思います。
磯島
慎重になる時、また逆に、早く決断すべき時はどういう場面でしょうか。
宮坂
人事的なこと、人に関する意思決定はものすごく慎重にした方がいい。絶対、爆速でやってはいけません。それ以外のことは、早く決めていいと思っています。仕事というのは、打率よりもヒット数を競うもの。たくさん結果を出した方がいいですよね。そのためには打席を増やした方が得です。打率が低くても、打席が多ければヒットをたくさん打てるでしょう。ゆっくりしていると打席は増えないから、早く意思決定をすることが大事になるのです。
磯島
素早く決断することで生じるリスクについてはどうお考えですか。
宮坂
確かにリスクはあります。でも、正しいことを選ぼうとしない方がいい。選んだことを正しくする方がいいと思いますよ。どちらが正解かわからないし、間違ったことを選んでいる可能性もあります。だったら、自分が選んだ道が正しくなるように一生懸命やっていけば、結果オーライになるんじゃないかなと思っています。

良いアウトプットをするには知的栄養を摂ることが大切

磯島
今後の社会に必要とされる人材についてはどうお考えですか。
宮坂
それは昔も今も変わらないと思います。どんなスキルを身に付けているかではなく、人としてちゃんとしているか、自分を信じて好きな道を貫くことができるかといったことの方が大切。新島襄先生の教えに通じることですよね。テクノロジーは確かに進化しているけれど、技術は道具に過ぎません。道具は使える方がいいけれど、例えば新島先生がスマートフォンを使いこなせたらもっとすごいことをしたかというとそう変わらないはずです。
磯島
普遍的なことに注目した方がいいということでしょうか。
宮坂
そう思います。また、熱中する力や集中する力はベースに必要だと感じています。何かを究めようと思うと、内側のパッションやエネルギーが大事です。これまでたくさんのエンジニアを見てきましたが、優秀な人は熱中する力がすごい。40歳、50歳になってもずっと勉強しています。そういう人たちは強いですよ。
磯島
まず興味のあることを見つけることが大事かなと思いますが、そのためにできることは何でしょう。
宮坂
僕は学生時代に本を読む習慣を持てたことがすごく良かったと思っています。本は人の体験を気軽に追体験できるツールです。色々な本を読むことが、自分の好きなことを知る手がかりにもなるでしょう。興味が湧くことがあったら、著者に会いに行ってみる、そのテーマの講演会に足を運んでみる、本に書かれた場所に行ってみる…そんな広がり方もできる。本を読んで、人に会って、旅をすることは、ぜひやってほしいなと思います。
磯島
今の若者は本よりもスマートフォンを見ている時間の方が多いと感じます。
宮坂
仕事でも学業でも、良いアウトプットをするためにはインプットが必要です。何を吸収したかによってアウトプットは変わるので、しっかりインプットして知的栄養を摂ることが大切。みんなと同じインプットをしてしまうと同じアウトプットしか出てきません。だから、できるだけ人と違うインプットをした方がいいと思います。みんながスマートフォンでニュースを見ているなら本を読んだ方がいいし、みんなが本を10冊読んでいるなら100冊読む、みんなが本しか読まないのなら人に話を聞きに行ったり旅をしてみるという風に。それが、自分をユニークにしてくれます。ただ、自分をユニークにしたいからとユニークなインプットにするのは本末転倒ですよ。周りを気にせず、好きなことをインプットしておけば、ユニークに、自分らしくいられると思います。
磯島
好きなことを探求するのは、時間のある大学生のうちにやっておいた方がいいですね。
宮坂
大人になってもやった方がいいですね。若者に「好きなことをした方がいい」と言うなら、まずは自分がそういう姿を見せないと。大人も若者も子どもも、自由に好きなことができればみんな元気になると思うのです。仕事を始めると時間がなくなると考えがちですが、実は現代人は圧倒的に暇になっているのですよ。テクノロジーが人間の労働をどんどん代替しているので、昔と比べて日本人の労働時間は激減しています。テクノロジーの力で自由で豊かな暮らしが実現し、時間を持てるようになっているはず。その時間をどう使うかは自分次第ですね。

「夢中は努力に勝る」熱中できることを見つけよう

磯島
最後に、同志社大学の学生にメッセージをお願いします。
宮坂
自分が好きで、熱中できることをやってほしいと思います。流行る、稼げる、将来性があって有望などといった理由でキャリアを決めるのではなく、勉強を続けたければ研究者の道に進めばいいだろうし、インターネットが好きだったらインターネットの仕事をすればいいのです。「夢中は努力に勝る」と言った経営者がいますが、本当にその通りだなと思います。好きで夢中になれることなら、勉強することは苦にならないでしょう。大きなことにも挑戦できるし、究めることもできる。夢中になれることがあるのは大きなアドバンテージです。そうはいっても、一生夢中になれるものを若いうちから見つけられる人はめったにいません。今この瞬間とか、この先3年、5年くらい夢中になれることと考えれば、選びやすくなると思います。僕自身、目の前の好きなことを一生懸命やっていたら次につながっていき、今ここにいます。皆さんにもぜひ、夢中になれることを見つけてほしいと思います。

インタビューを終えて

インタビュアー
磯島 奈津江 さん【政策学部 2年次生】

これまでに経験したことのない土俵だから東京都参与に挑戦したというエピソードが印象的でした。ご自身の体験に基づいたアドバイスは一つひとつが胸に響き、とても励みになりました。大学生はどうしても就職のことを考えてスキルや資格取得を重視しがちですが、普遍的なものが大切であることや、熱中できることを見つけることの大切さがよくわかりました。夢中になれるものを見つけて、勉強も含めてこれからの大学生活を充実させていこうと気持ちを新たにすることができました。

大阪出身。政策学に興味があり、同志社大学に入学。政策の観点から様々な社会問題を解決する力を身に付けるべく、日々勉強に取り組む。1年次に松岡敬学長と佐藤優客員教授の対談本『いま大学で勉強するということ』を読んで感銘を受け、新島塾に入塾。文理融合の知力の体得を目指す。

2019年11月発行
One Purpose199号「同志社人訪問」より

お問い合わせ

同志社大学 広報課

TEL:075-251-3120
FAX:075-251-3080
E-mail:ji-koho@mail.doshisha.ac.jp

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