同志社時報
149号
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パラアスリート(アーチェリー)
岡崎 愛子(おかざき あいこ)さん
岡崎 愛子(おかざき あいこ)さん
1986年大阪府生まれ。2004年、同志社大学商学部入学。2005年、JR福知山線の脱線事故で頸髄を損傷し約1年の入院生活を送る。2008年卒業、ソニー株式会社に入社。2014年退社し、企業や学校での講演活動や犬のケアに関する仕事を開始。現在はアーチェリーに専念する。主な戦績は、第43回のじぎく杯アーチェリー大会W1女子2位、パラアーチェリー世界選手権大会(オランダ)W1女子9位、ミックス戦(W1)3位、第29回交流アーチェリー大会W1女子1位(いずれも2019年)。同年12月、東京五輪聖火ランナーに選出された。株式会社ベリサーブ所属。著書に『キャッチ! JR福知山線脱線事故がわたしに教えてくれたこと』(ポプラ社)他
メダル狙います! 一人ずつの行動で社会の垣根を取り払いたい
JR福知山線脱線事故で車いすユーザーとなった岡崎さん。体を動かしたくてパラアーチェリーを始めると、めきめき上達。東京2020パラリンピック代表内定を機に、意気込みを伺いました。

本格的に始めて3年で世界選手権3位
- ――
- パラリンピック代表内定、おめでとうございます。
- 岡崎
- ありがとうございます。昨年、世界選手権のミックス戦で3位になり、パラリンピックの出場枠を得ました。延長戦の末に粘り勝って3位に入れたことは自信になりました。
- ――
- パラアーチェリーを始めた経緯を教えてください。
- 岡崎
- 2013年の冬に、アーチェリーの経験者である母から「車いすでもできる」と聞いて始めました。もともと中学時代はソフトボール、高校では愛犬と一緒にフリスビードッグに打ち込んでいたので、体を動かすのは大好きです。ただ、弓の組み立てや、矢をつがえたり的から矢を抜いたりするには介助者が必要。ソニーに就職して東京で一人暮らしをしていたので、両親が上京する時しかアーチェリー場へは行けませんでした。本腰を入れるようになったのは、東京で介助してくれる人ができた2016年です。区のアーチェリー場で練習を再開して、普段はユーチューブで海外の選手の動画をひたすら観たり、自分の練習の動画を撮ったりして研究しました。初めて試合に出場したのは2018年4月です。
- ――
- 本格的に練習を始めて、わずか3年で世界選手権に出場されました。飛躍を後押ししたものは何ですか。
- 岡崎
- 2018年9月に新しい弓に替えたことと、体を固定するベルトに工夫を重ねたことが要因だと思います。パラアーチェリーでは一般的なリカーブと、先端に滑車のついたコンパウンドという2種類の弓を使います。私が属するW1クラスはどちらの弓でもよいのですが、私は四肢まひなので、より小さな力で引けるコンパウンドの方が使いやすいのです。このコンパウンドを、弓の強さ、引き尺などをセレクトして注文できるセミオーダーメイドのものに新調してから射型が安定し、的に当たりやすくなりました。両腕がなく、足で弓を支えて射つアメリカのマット・スタッツマン選手が使っているのと同じタイプの弓です。
- ――
- 現在の練習内容を教えてください。
- 岡崎
- 2019年11 月から、パラアスリート支援に力を入れているソフトウェア検証企業の契約社員になったので、現在は練習環境に恵まれています。週に3日はナショナルトレーニングセンターで、コーチと一緒に練習します。週末のうち1日はアーチェリー場へ出かけて練習。空いている日は、日本で唯一の脊髄損傷者専門ジムで全身トレーニングを行います。もう12年間機能回復トレーニングを地道に続けているおかげで、関節や筋肉をしなやかに保てています。
- ――
- 本番に向けて課題はありますか。
- 岡崎
- 私は握力がゼロなので、顎に発射装置を固定して射ちます。背筋、腹筋もほとんどありません。最近整ってきたとはいえ、正しい射型を保つのが課題です。失敗したときは普段と何が違うのかをチェックして、その日のうちに修正するよう努めています。もう一つは暑さ対策ですね。試合はすべて屋外で行われるのですが、私は脊髄を損傷したので体温調節ができません。厳しい暑さの中では体温が39〜40℃になることもあります。そうなると熱中症や手のしびれを起こしてしまう。当日は傘や冷却グッズ、冷たい水などでこまめにケアする必要があります。正確に的を射るためには感情面でも安定しないといけませんが、私の場合、メンタル面よりコンディション維持に必死なので、それがかえって良いのか、過度に緊張することなく試合に臨めています。
緩い挑戦でいいから継続することが大切

- ――
- 東京パラリンピックへの関心は今までにないほど高まっています。
- 岡崎
- 私たちは「パラ・バブル」と捉えていますが、バリアフリー化が進んでいるのは喜ばしいことです。街に出ると、声をかけられる機会も増えました。
- ――
- パラアーチェリーを始めたことでご自身の内面に何か変化はありましたか。
- 岡崎
- 障がいをあまり意識しなくなってきたと思います。元の自分に近づいてきた感じでしょうか。事故から入院、復学、就職活動と進む中で、できることをしようという考え方が身についてきました。バイタリティあふれる人たちが周囲に大勢いるので、自分にも、もっとできることがあるのではと思えるようにもなりました。そこから学んだのは「とりあえず、やってみる」という姿勢。考えるのはそれからでもいい。緩い気持ちでいいから挑戦し続けたいです。
- ――
- そこから育った志はありますか。
- 岡崎
- 障がい者がもっと外へ出て活躍してこそ、社会は変わると思います。私がスポーツなど多方面で行動することによって、何かを感じていただけると嬉しいです。少しでも障がい者と健常者との垣根のない、「ごちゃまぜの社会」になればと願っています。
- ――
- 同志社時代の思い出をお願いします。
- 岡崎
- 車いすで復学後、今出川校地で段差を見つけました。寒梅館の裏も通りにくかったので大学にお伝えしたところ、すぐに改善されました。やはり同志社大学は福祉への取り組みに熱心だと感じました。
- ――
- 今春卒業する学生の皆さんにメッセージをいただけますか。
- 岡崎
- 私がソニーを退職したのはいったん立ち止まりたかったからでしたが、それによって視野がさらに広がりました。大好きな犬に関連して起業もしたし、失敗もしました。だから成長できました。転職を勧めるわけではありませんが、仕事でもプライベートでもいいから、皆さんもいろいろな世界を見てください。
- ――
- パラリンピック本番に向けて意気込みをお聞かせください。
- 岡崎
- 11月頃から点数が伸びてきました。この調子を維持できればメダル争いにも絡んでいけるかなと今から東京パラリンピックが楽しみです。私の出場はミックス戦が8月29日、個人戦が9月1日。ぜひ応援にきてください。声援が多いほど、他国の選手にプレッシャーをかけられますから!(笑)
(2019年12月6日、東京にて)
目次
第149号|2020.4
新島襄の言葉 | ||
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心は諸君と共にありて 絶えず諸君の為に祈祷して止まざるなり、諸君や必ず神妙の巧手に導かるゝならん 新島襄全集Ⅲ-288 | 表紙裏 |
グラビア | |
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法人 | 『第24回同志社国際主義教育講演会を開催』 |
大学 | 『第34代同志社大学長に植木朝子教授が正式決定』 |
女子大学 | 『京料理食事マナー体験』 |
中学校・高等学校 | 『新・旧南体育館』 |
香里中学校・高等学校 | Χmasセレブレーション 2019 |
女子中学校・高等学校 | 『収穫感謝の日礼拝・施設訪問』 |
国際中学校・高等学校 | 『高校生 体育祭/ハロウィーン』 |
小学校 | 『近藤紘子さんによる特別授業(ピースウィーク)』 |
国際学院 | 国際部:『College Counseling』 初等部:『6年生アメリカ修学旅行 in Boston ~現地小学校との交流~』 |
幼稚園 | 『開園記念会』 |
私の志 | ||
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みんな、総合格闘技が教えてくれた | 大企業からの転身 岸本泰昭さん | 4 |
一人ずつの行動で社会の垣根を取り払いたい | メダル狙います! 岡崎愛子さん | 6 |
特集 | ||
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鼎談 大学入試改革の今後について | 多久和英樹/川崎清史/中根正義 | 8 |
レクチャー | ||
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第24回同志社国際主義教育講演会 「天皇家と同志社」 | 保阪正康 | 16 |
建物案内 | ||
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静和館(女子中学校・高等学校) | 23 | |
成心館(同志社大学) | 24 |
同志社の逸品 | ||
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ミントンズ・チャイナ・ワークス社製タイル | 同志社社史資料センター | 25 |
同志社ナウ | ||
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同志社大学ラグビー部、JICAプログラムでインドへ派遣 | 川井 圭司 | 27 |
女子大学の起業家セミナーが熱い | 三宅えり子 | 28 |
「愛」を「愛」という言葉なしに伝える | 村上 準 | 29 |
ラオスに学校を建てよう。プロジェクトⅡ | 水上 陽一 | 30 |
フェンシングクラブ全国高等学校総合体育大会入賞 | 吉田和高/山本啓太 | 31 |
私の研究・私の授業 | ||
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私の研究 | 村田 晃嗣 | 32 |
寄り添う専門職たる看護婦の研究 | 山下 麻衣 | 34 |
横波超音波を使って分子レベルの変化を検出するセンサ | 髙柳 真司 | 36 |
台湾文学を研究すること | 唐 顥芸 | 38 |
より良い看護を提供していくために | 光木 幸子 | 40 |
朝の5分間、新聞記事が子どもを変える | 西村 孝次 | 42 |
同志社クローズ・アップ | ||
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「法曹コース」の設置と法学部の将来 ― 良心を手腕に運用できる法曹の育成のために | 川嶋 四郎 | 44 |
人文科学研究所75周年記念シンポジウム 「同志社大学人文研の過去・現在・未来」 | 林 葉子 | 46 |
表象文化フェスティバル―ふみだすチカラ― 同志社女子大学表象文化学部設立10周年記念事業 | 丸山 敬介 | 48 |
英語で平和を学ぶプロジェクト 〜Doshisha Peace Award 2019〜 | 皆川 祥吾 | 50 |
香里中学・高校における特別支援の取り組み | 竹田 幸平 | 52 |
音楽で賛美する〜讃美歌の魅力〜 中学2年生 総合的な学習の時間 | 三浦 彩 | 54 |
知の研究 | 帖佐 香織 | 56 |
同志社小学校 PEACE WEEK の取り組みについて | 中川 好幸 | 58 |
特別寄稿 | ||
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「梨木校地」の133年 梨木屋敷から同志社布哇寮、そして同志社幼稚園へ | 本井 康博 | 60 |
新刊紹介 | ||
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新島襄の教え子たち(出身地別) | 本井康博著 | 68 |
王家の遺伝子 | 石浦章一著 | 68 |
カズオ・イシグロに恋して | 臼井雅美著 | 69 |
ドイツにおける運輸連合制度の意義と成果 | 青木真美著 | 69 |
2100年の世界地図 | 峯陽一著 | 70 |
奴隷船の世界史 | 布留川正博著 | 70 |
小さき者の幸せが守られる経済へ | 浜矩子著 | 71 |
人類の起源、宗教の誕生 | 小原克博他著 | 71 |
1571年銀の大流通と国家統合 | 城地孝・堀井優他著 | 72 |
子どもの貧困/不利/困難を考えるⅢ ―施策に向けた総合的アプローチ | 埋橋孝文他編著 | 72 |
グローバル化と法の諸課題 ―グローバル法学のすすめ― | 川嶋四郎他著 | 73 |
ボランティア・市民活動実践論 | 上野谷加代子・木原活信他著 | 73 |
クィアと法 | 菅野優香他著 | 74 |
いじめ: 10歳からの「法の人」への旅立ち | 村瀬学著 | 74 |
テレビドラマでわかる平成社会風俗史 | 影山貴彦著 | 75 |
バブル世代教師が語る平成経済30年史 | 西村克仁著 | 75 |
お知らせ | ||
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同志社大学古本募金 同志社女子大学DWCLA古本募金 ご協力のお願い | 76 | |
ハリス理化学館同志社ギャラリー展示ご案内 | 77 | |
新島旧邸公開のお知らせ | 78 | |
同志社女子大学史料センター第24回企画展 同志社女子教育と体育・スポーツ | 79 |
編集後記 | 80 |
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