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耐久性と軽さを持ち合わせた、金属に代わる次世代の新素材を。【理工学部 機能分子・生命化学科 水谷義 教授】

'17年11月9日 更新

生物の優れた機能を化学的に解明して、新たな機能性物質を創出する。

 生物は外界から摂取した物質を生命活動に必要なエネルギーに変換したり、有害な物質を分解・排泄したりするために体内で様々な化学反応を引き起こしている。一見、何の変哲もない生体プロセスに思えるかもしれないが、巨大な化学プラントのように高温・高圧な環境を必要とする化学反応を、生物ははるかに穏やかな環境でやってのけるのだ。これらの化学反応の鍵を握るのが「酵素」である。酵素は摂取した物質の消化を助ける消化酵素のほかにも、脂肪分解酵素や代謝酵素など多種多様であり、あらゆる生命活動に関与する物質だと言えよう。このように、生物の体内で酵素のような有機分子や無機分子、有機高分子などが複合的に反応することで、慣れた触媒活性、情報の処理、力学的性質を生み出している。水谷教授は生物の持つ緻密な機能やメカニズムを分子レベルで解明して、優れた技術や材料を開発する生体機能化学を専門とする。「酵素と同様の機能を持った人工化合物や、天然の酵素に人工的な改変を与えて新しい機能を持たせたものを人工酵素と呼びます。人工酵素は非常に優秀な触媒となりますが、これをより簡単に生成することができないかと学生時代に疑問を抱き、生体機能化学の分野に足を踏み入れました」と水谷教授は研究者としての原点を振り返る。

特定の物質とのみ結合する人工ホストが秘めたポテンシャルとは。

 酵素は特定の基質とのみ結合し、担当する特有の反応を引き起こす。酵素のように、様々な化学反応を緻密に制御する分子認識機能は、よく「鍵と鍵穴」の関係に例えられる。酵素のように特定の分子を選択的に認識する鍵穴となるものをホスト分子、そのホスト分子に捕捉される鍵となる分子をゲスト分子と呼ぶ。ホスト研究の初期は偶然発見されたホスト分子が研究対象だったが、研究の発展に伴って、近年では精密な分子設計に基づき、人工的にホスト分子を合成することが可能になった。「私の研究においては、結合するホスト・ゲスト分子の相補性や、官能基の配置などを工夫することで様々な人工ホストを合成することに成功しています」と水谷教授は語る。このホスト・ゲスト分子間の相補性を応用した物質には産業界も注目をしている。例えば、医薬品はターゲットとなるたんぱく質と結合してその機能を抑制・補助するが、人工的に生成したホスト分子の活用は新薬開発の新たな活路を切り拓くことができるだろう。「医薬品では水が溶媒となりますが、多くの有機分子は水に溶けないため、水中で働くホスト分子の生成は難しいと考えられていました。しかし、有機物を溶媒の中に溶かす際に生じる疎水性相互作用(疎水性分子同士が水に弾かれ、集合する現象)をうまく利用すれば、ホスト分子が標的となる分子を効率良く捕捉することを発見しました」。人工ホストの研究で優れた実績を誇る水谷教授には、大手ハウスメーカーよりシックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドを選択的に捕捉する人工ホストの開発を打診されたこともあるという。「人工ホストに代表される、分子認識の原理解明と有機合成化学の活用により、たんぱく質と同様の機能を有する受容体や、機械・情報・電気などの工学分野にも応用可能な機能分子も生成できるかもしれません」。生体機能が秘める大いなる可能性に期待が高まる。

生物機能化学の知見をナノテクノロジーに応用。新素材が持つ優位性を語る。

 水谷教授は人工ホストに関する研究を進める中で、色素を活用してきた。色素はある波長領域の可視光を選択的に吸収する性質を持っており、この原理を応用した工学製品が有機薄膜太陽電池である。「半導体の性質を持つ色素は、設計次第で優れた電圧・電流を示します。これを利用して高効率な発電が可能なデバイスを開発できると考えています」と語る水谷教授は近年、ナノエレクト口ニクス分野の研究に着手している。従来の太陽電池に関する研究の多くは平面上に色素を並べたものが多かった。「双極子モーメントを持つ円錐型の色素を直線に並べると、その方向に非常に大きな電場を発生させられます。また、電流の向きを制御することで電気の出し入れがしやすい太陽電池を開発することができるでしょう」。有機物の色素を使用することで、無機物のシリコン系太陽電池よりも軽量かつ低コストの太陽電池を実現できるという。
 また、水谷教授はナノバイオ技術を応用した新素材開発にも注力している。「骨や歯に代表されるバイオセラミックスは軽量にも関わらず高靭性を持ち合わせています。金属を精錬する大掛かりな装置が必要ないため費用も抑えることができ、従来の金属に置き換わる新素材として広く活用されるでしょう」。そこで、水谷教授は硬い無機物が柔らかい有機物に固まれているレンガ・モルタル構造の複合体、ヒドロキシアパタイト複合材料に着目。無機結晶表面と有機高分子との界面に結合を保ったまま両者を複合化させるため、有機高分子ゲル中でヒドロキシアパタイトの結晶化を試みた結果、無機成分が60~75%含まれる複合体成型物(写真1)の生成に成功した。「現在、この研究は機械強度試験の段階に入っています。しかし、材料の開発には、素材研究や、成型プロセスの確立、材料破壊のメカニズムの検討など様々なエ程をクリアしていくことが必要です。次のステップに進むためにも、セラミックス業界やベンチャー企業との連携を図っていきたいです」と水谷教授は語った。生体機能化学で培ってきた知見をナノテクノロジーに応用し、これまでにない画期的な複合材料を開発する水谷教授。私たちの暮らしに影響をもたらす社会的意義の高いその研究から目が離せない。

水谷義 理工学部 機能分子・生命化学科 教授
京都大学工学部合成化学科卒業、京都大学大学院工学研究科合成化学専攻博士課程を単位取得満期退学。株式会社豊田中央研究所研究員や京都大学大学院工学研究科助教授を経て、現職。基礎化学と有機化学が専門分野であり、「人工ホストと動的機能材料の研究」を研究課題とする。2017年8月現在は、産官学連携研究として、「バイオミネラリゼーションと複合体の化学」に取り組んでいる。

同志社大学リエゾンオフィスニューズレター「LIAISON」 vol.52 掲載
(写真1)無機成分が60~75%含まれる複合体成型物

(写真1)無機成分が60~75%含まれる複合体成型物

(写真2)有機物を混合物から分離するクロマトグラフィ

(写真2)有機物を混合物から分離するクロマトグラフィ

(写真3)分子の重さを計測する質量分析計

(写真3)分子の重さを計測する質量分析計

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