学長からのメッセージ

2021年度 大学院入学式式辞

'21年4月3日 更新
 新大学院生の皆様、本日はおめでとうございます。
 すでに、各分野において着実な成果を積み重ねてこられた皆さんが、それをいっそう究めたいという強い意思と努力とをもって、本日の入学式を迎えられましたことに敬意を表し、心からの祝福をお送りいたします。特に、コロナ禍の中では、研究を継続し大学院進学への準備を進めることに、平常時以上の、並々ならぬ力を尽くされたことでしょう。皆さんのその研鑽努力に重ねて敬意を表します。

 昨年、世界中でよく読まれた本のひとつに、『コロナの時代の僕ら』というエッセイ集があります。イタリアの作家、パオロ・ジョルダーノが書いたもので、新型コロナウイルス感染症の流行初期、2020年2月29日から3月4日までの日々が記されています。著者はトリノ大学大学院で素粒子物理学を専攻しており、このエッセイの中でも、感染症の流行を数学的アプローチからわかりやすく解説しています。科学的な視点と正しく恐れる力を身につけることで、フェイクニュースを含めた真偽のわからない情報に振り回されず、混迷の日々を少しでも心穏やかに過ごせるようになると感じられますが、本書はそこで終わりではありません。著者は、新型コロナが人間に伝染したそもそものきっかけは、環境破壊や温暖化といった現代人の生活スタイルが生んだ問題に発するのではないかとし、コロナの流行が終息した後も、必ず新しい感染症の流行が起こると予測しています。だから、そういう新たな危機に今のうちから備える一方、これまでとは違う価値観のもとで、これまでとは違う未来の在り方を各自が模索する大切さを主張しているのです。

 日本語版に著者あとがきとして付されているのは、2020年3月20日付の『コリエーレ・デッラ・セーラ』紙に掲載された「コロナウイルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと」と題された文章です。困難な日々を思索のための貴重な時間と捉え、この大きな苦しみが無意味に過ぎ去らないようにと呼びかけています。彼が、「忘れたくない」と言っているのは、たとえば次のようなことです。
よい面としては、ルールに服従した人々の姿、病人のみならず健康な者の世話までする人々の献身と彼等に対する支持を示していた者たちのこと。
しかし、彼がより強く、忘却をおそれるのは、感染症流行があらわにした負の側面です。すなわち、専門家に対する反感や不信とそれによる対策の遅れ、自己中心的な行動、支離滅裂で感情的な情報の伝播、弱者に対する配慮の欠如。続く箇所の本文を少し引用します。

 僕は忘れたくない。今回のパンデミックのそもそもの原因が秘密の軍事実験などではなく、自然と環境に対する人間の危うい接し方、森林破壊、僕らの軽率な消費行動にこそあることを。
僕は忘れたくない。パンデミックがやってきた時、僕等の大半は技術的に準備不足で、科学に疎かったことを。
僕は忘れたくない。家族をひとつにまとめる役目において自分が英雄的でもなければ、常にどっしりと構えていることもできず、先見の明もなかったことを。必要に迫られても、誰かを元気にするどころか、自分すらろくに励ませなかったことを。

 一年以上続くコロナ禍の中で、今読み返しても、身につまされることの多い書物です。私たちは、科学的な知識と理性的な判断によって正しく恐れることの重要性を痛切に学びました。そして、自分たちの中に厳然としてある差別や不寛容といった問題を突きつけられました。

 今、「統合知」の重要性が盛んに説かれています。科学自体を発展させるだけでなく、それを社会のための科学とするために、学問分野間の連携が必要であるという考え方です。

 ご承知のように、本学は、新島襄によって、「自ら立ち、自ら治むるの人民」、「一国の良心とも謂ふべき人々」の養成を目指して設立されました。本学の良心教育は、今こそ、その真価を問われていると言えるでしょう。
 本学で学究の時を過ごされる皆さんには、それぞれの分野で研究を深められると同時に、本学の建学の精神を理解し、良心の充満した人として誠実に生きることをも学んでいただきたいと思います。昨年来の困難を克服して大学院に進学された皆さんならば、不断の努力によっておのおのの学問を進展させることができ、そして、本学で身につけた統合知をもって、社会に貢献できると確信しております。

 同志社大学大学院での学びが充実したものとなるように、私たち教職員は一丸となって皆さんをサポートします。本学大学院のバラエティに富んだ研究科において、お一人お一人が豊かな学問的達成を遂げられますことを心からお祈りして私の式辞といたします。

 Congratulations on your entering Doshisha University Graduate School.
I would like to express my heartfelt respect and blessings to you all, who are attending here today with the determination and efforts to pursue your studies further after having made steady achievements in your respective fields. In particular, it must have taken more efforts than in normal times to continue your research and prepare for graduate school amidst the COVID-19 crisis. Again, I pay my deep respect for your efforts and passion.

 One of the books read widely around the world last year is How Contagion Works: Science, Awareness, and Community in Times of Global Crises, an essay written by the Italian writer Paolo Giordano between February 29 through March 4, 2020, the early stage of the COVID-19 pandemic. Specializing in particle physics at the University of Turin, the author uses a plain, mathematical approach to explain how an infectious disease spreads. The book makes us realize how having a scientific viewpoint and appropriate knowledge will help us spend these chaotic days as peacefully as possible without being swayed by unreliable information including fake news, but that is not all his essay has to say. Giordano suspects that what initially caused this virus to infect humans would have been the problems arising from our contemporary lifestyle such as environmental destruction and climate change, and predicts that even after the spread of COVID-19 stops, there will arise another pandemic of a new disease in the future. He therefore argues that it is important for each of us to start preparing for such new crises now, and to seek a different future with a different sense of values.

 The Japanese version of the book contains the author’s afterword titled “Things I Don’t Want to Forget after the Coronavirus (Quello che non voglio scordare, dopo il Coronavirus),” which was originally an article published in the Italian newspaper Corriere Della Sera on March 20, 2020. In the article, Giordano tells us to see these difficult days as the time to think, and not to allow all of this suffering to be in vain. Things he doesn’t want to forget include the following:
Some positive aspects, including how people obeyed the rules, the tireless sacrifice of those who are caring for the sick and the healthy, and people who showed their support to them.
But what he more strongly fears of forgetting are the negative aspects exposed by the pandemic, including the antipathy and distrust toward experts that led to delays in measures, the selfish actions, the diffusion of contradictory and emotional information, and the lack of consideration for the weak. I will briefly quote the part that follows thereafter.

 “I don’t want to forget that the origin of the pandemic is not in a secret military experiment, but in our compromised relationship with nature and environment, in the destruction of forests, in the recklessness of our consumption.
I don’t want to forget that the pandemic has found us largely technically unprepared, and scientifically lacking.
I don’t want to forget that I didn’t manage to be heroic or stable or far-sighted in keeping my family together. That when my help was most needed, I couldn’t cheer anyone up, myself included.”

 Amidst the COVID-19 crisis that goes on for more than a year, the book still feels very real and relatable. We have learned how important it is to deal with this crisis in an appropriate manner with scientific knowledge and a rational judgment, and been confronted with the sense of discrimination and intolerance that still exist in ourselves.

 Nowadays, the importance of “integrated knowledge” is being actively discussed, with the belief that we should not focus only on the development of science itself but that it is necessary to promote interdisciplinary collaboration in order to utilize science for the whole society.

 As you know, Doshisha University was established by Joseph Hardy Neesima with the aim of cultivating “people of independence and autonomy,” “people who may be called the conscience of the nation.” We think that now more than ever is the time when the true value of Doshisha’s education of conscience is being tested.
As you pursue your studies in your respective fields at Doshisha University, I would like you to also learn our founding spirit and to learn to live with decency as a person filled with conscience. With your diligence to have entered the graduate program despite the difficult circumstances since last year, I am convinced that you will successfully make progress in your respective studies and contribute to society with the integrated knowledge acquired at Doshisha.

 We, the faculty and staff of Doshisha University, are always there as one team to help you achieve your academic goals at our graduate school. I would like to conclude by wishing each of you the very best for your successful academic life in respective graduate programs.
 新大学院生の皆様、本日はおめでとうございます。
 すでに、各分野において着実な成果を積み重ねてこられた皆さんが、それをいっそう究めたいという強い意思と努力とをもって、本日の入学式を迎えられましたことに敬意を表し、心からの祝福をお送りいたします。特に、コロナ禍の中では、研究を継続し大学院進学への準備を進めることに、平常時以上の、並々ならぬ力を尽くされたことでしょう。皆さんのその研鑽努力に重ねて敬意を表します。

 昨年、世界中でよく読まれた本のひとつに、『コロナの時代の僕ら』というエッセイ集があります。イタリアの作家、パオロ・ジョルダーノが書いたもので、新型コロナウイルス感染症の流行初期、2020年2月29日から3月4日までの日々が記されています。著者はトリノ大学大学院で素粒子物理学を専攻しており、このエッセイの中でも、感染症の流行を数学的アプローチからわかりやすく解説しています。科学的な視点と正しく恐れる力を身につけることで、フェイクニュースを含めた真偽のわからない情報に振り回されず、混迷の日々を少しでも心穏やかに過ごせるようになると感じられますが、本書はそこで終わりではありません。著者は、新型コロナが人間に伝染したそもそものきっかけは、環境破壊や温暖化といった現代人の生活スタイルが生んだ問題に発するのではないかとし、コロナの流行が終息した後も、必ず新しい感染症の流行が起こると予測しています。だから、そういう新たな危機に今のうちから備える一方、これまでとは違う価値観のもとで、これまでとは違う未来の在り方を各自が模索する大切さを主張しているのです。

 日本語版に著者あとがきとして付されているのは、2020年3月20日付の『コリエーレ・デッラ・セーラ』紙に掲載された「コロナウイルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと」と題された文章です。困難な日々を思索のための貴重な時間と捉え、この大きな苦しみが無意味に過ぎ去らないようにと呼びかけています。彼が、「忘れたくない」と言っているのは、たとえば次のようなことです。
よい面としては、ルールに服従した人々の姿、病人のみならず健康な者の世話までする人々の献身と彼等に対する支持を示していた者たちのこと。
しかし、彼がより強く、忘却をおそれるのは、感染症流行があらわにした負の側面です。すなわち、専門家に対する反感や不信とそれによる対策の遅れ、自己中心的な行動、支離滅裂で感情的な情報の伝播、弱者に対する配慮の欠如。続く箇所の本文を少し引用します。

 僕は忘れたくない。今回のパンデミックのそもそもの原因が秘密の軍事実験などではなく、自然と環境に対する人間の危うい接し方、森林破壊、僕らの軽率な消費行動にこそあることを。
僕は忘れたくない。パンデミックがやってきた時、僕等の大半は技術的に準備不足で、科学に疎かったことを。
僕は忘れたくない。家族をひとつにまとめる役目において自分が英雄的でもなければ、常にどっしりと構えていることもできず、先見の明もなかったことを。必要に迫られても、誰かを元気にするどころか、自分すらろくに励ませなかったことを。

 一年以上続くコロナ禍の中で、今読み返しても、身につまされることの多い書物です。私たちは、科学的な知識と理性的な判断によって正しく恐れることの重要性を痛切に学びました。そして、自分たちの中に厳然としてある差別や不寛容といった問題を突きつけられました。

 今、「統合知」の重要性が盛んに説かれています。科学自体を発展させるだけでなく、それを社会のための科学とするために、学問分野間の連携が必要であるという考え方です。

 ご承知のように、本学は、新島襄によって、「自ら立ち、自ら治むるの人民」、「一国の良心とも謂ふべき人々」の養成を目指して設立されました。本学の良心教育は、今こそ、その真価を問われていると言えるでしょう。
 本学で学究の時を過ごされる皆さんには、それぞれの分野で研究を深められると同時に、本学の建学の精神を理解し、良心の充満した人として誠実に生きることをも学んでいただきたいと思います。昨年来の困難を克服して大学院に進学された皆さんならば、不断の努力によっておのおのの学問を進展させることができ、そして、本学で身につけた統合知をもって、社会に貢献できると確信しております。

 同志社大学大学院での学びが充実したものとなるように、私たち教職員は一丸となって皆さんをサポートします。本学大学院のバラエティに富んだ研究科において、お一人お一人が豊かな学問的達成を遂げられますことを心からお祈りして私の式辞といたします。

 Congratulations on your entering Doshisha University Graduate School.
I would like to express my heartfelt respect and blessings to you all, who are attending here today with the determination and efforts to pursue your studies further after having made steady achievements in your respective fields. In particular, it must have taken more efforts than in normal times to continue your research and prepare for graduate school amidst the COVID-19 crisis. Again, I pay my deep respect for your efforts and passion.

 One of the books read widely around the world last year is How Contagion Works: Science, Awareness, and Community in Times of Global Crises, an essay written by the Italian writer Paolo Giordano between February 29 through March 4, 2020, the early stage of the COVID-19 pandemic. Specializing in particle physics at the University of Turin, the author uses a plain, mathematical approach to explain how an infectious disease spreads. The book makes us realize how having a scientific viewpoint and appropriate knowledge will help us spend these chaotic days as peacefully as possible without being swayed by unreliable information including fake news, but that is not all his essay has to say. Giordano suspects that what initially caused this virus to infect humans would have been the problems arising from our contemporary lifestyle such as environmental destruction and climate change, and predicts that even after the spread of COVID-19 stops, there will arise another pandemic of a new disease in the future. He therefore argues that it is important for each of us to start preparing for such new crises now, and to seek a different future with a different sense of values.

 The Japanese version of the book contains the author’s afterword titled “Things I Don’t Want to Forget after the Coronavirus (Quello che non voglio scordare, dopo il Coronavirus),” which was originally an article published in the Italian newspaper Corriere Della Sera on March 20, 2020. In the article, Giordano tells us to see these difficult days as the time to think, and not to allow all of this suffering to be in vain. Things he doesn’t want to forget include the following:
Some positive aspects, including how people obeyed the rules, the tireless sacrifice of those who are caring for the sick and the healthy, and people who showed their support to them.
But what he more strongly fears of forgetting are the negative aspects exposed by the pandemic, including the antipathy and distrust toward experts that led to delays in measures, the selfish actions, the diffusion of contradictory and emotional information, and the lack of consideration for the weak. I will briefly quote the part that follows thereafter.

 “I don’t want to forget that the origin of the pandemic is not in a secret military experiment, but in our compromised relationship with nature and environment, in the destruction of forests, in the recklessness of our consumption.
I don’t want to forget that the pandemic has found us largely technically unprepared, and scientifically lacking.
I don’t want to forget that I didn’t manage to be heroic or stable or far-sighted in keeping my family together. That when my help was most needed, I couldn’t cheer anyone up, myself included.”

 Amidst the COVID-19 crisis that goes on for more than a year, the book still feels very real and relatable. We have learned how important it is to deal with this crisis in an appropriate manner with scientific knowledge and a rational judgment, and been confronted with the sense of discrimination and intolerance that still exist in ourselves.

 Nowadays, the importance of “integrated knowledge” is being actively discussed, with the belief that we should not focus only on the development of science itself but that it is necessary to promote interdisciplinary collaboration in order to utilize science for the whole society.

 As you know, Doshisha University was established by Joseph Hardy Neesima with the aim of cultivating “people of independence and autonomy,” “people who may be called the conscience of the nation.” We think that now more than ever is the time when the true value of Doshisha’s education of conscience is being tested.
As you pursue your studies in your respective fields at Doshisha University, I would like you to also learn our founding spirit and to learn to live with decency as a person filled with conscience. With your diligence to have entered the graduate program despite the difficult circumstances since last year, I am convinced that you will successfully make progress in your respective studies and contribute to society with the integrated knowledge acquired at Doshisha.

 We, the faculty and staff of Doshisha University, are always there as one team to help you achieve your academic goals at our graduate school. I would like to conclude by wishing each of you the very best for your successful academic life in respective graduate programs.