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「 生得より経験? 」認知能力の獲得に関する我々の誤 認識 ― 子どもの姿における 直感 と 科学 のギャップ

'22年11月4日 更新

研究成果のポイント

◆ 色 の 識別 などの 認知能力 の はじまりに対す る認識につ いて 日米の大人 を対象に調査した
◆ 文化 を 問わず 、大人は 子どもの様々な 認知能力の 出現時期 を実際より 遅く 推定し このような 能力を
 学習の結果として捉える傾向が あった
◆ 子ども の姿について 科学知見と 直感 にギャップがあることが明らかになった
◆ 研究や子育て、教育などに重要 な 「科学的な子ども観」の構築 が期待される

概要

 大阪大学大学院人間科学研究科の孟憲巍助教、ラトガーズ大学認知学習センターの Jenny Wang 助教、大阪大学大学院基礎工学研究科の 吉川雄一郎准教授 、 石黒浩教授 、 同志社大学赤ちゃん学研究センターの板倉昭二 センター長 ら の研究グループは、 日米の大人を対象に、色 の 識別 などの子どもの認知能力の出現時期とその理由についての調査をおこなった。 その結果、 いずれの 文化 でも 、大人は実際の出現時期 (これまでの研究で示された出現時期) よりも遅く出現すると推定していること、 そして それらの 認知能力 が 学習の結果であると 考えて いる ことを世界で初めて明らかにしました (図1)。
「氏か育ちか」の議論は古くからなされていますが、現代 社会では大人は「育ち」の部分を実際 の発達よりも 評価して おり 、 大人が思う子どもの姿 と 科学 的 研究で示された子どもの姿 に ズレが ある ことが本研究によって明らかになりました 。このようなズレを意識 することは、科学的な子ども観に基づいた研究や子育て、学校教育 などに参加する うえで役立つことが期待 されます。本研究成果は、スイス科学誌「Frontiers in Psychology 」に、 11 月 08 日( 火 13 時(日本時間)に公開されます。

研究の背景

 私たちはどのようにして様々なことを 「知る」、「わかる」 の だろう か 。人間の認知能力の起源は古くから
人々 の大き な 関心を集めてきました 。現代科学においても、人間理解 の重要な切り口として 心理学や社会学、神経科学などの様々な領域で重要視されてい ます 。
この数十年、発達科学(Developmental science )という研究分野 が 洗練された実験法を駆使し、特定の状況に置かれた乳幼児 がどのように反応するか を調べることで、ある認知能力が人生のどのタイミングにみられるかについて検討してき ました 。 多くの 実験結果の蓄積から、生後早くから乳児は数種類の認知能力をすでに持っていることが明らかに なりました。例えば、色の 識別 は生後 4 ヶ月くらいから、奥行きの認識は生後2日くらいから、顔らしいものと顔らしくない ものの 識別 は生後数日からなされていることなどが明らかになっています。これらの認知能力は 核知識( Core knowledge と呼ばれ 、人間が生存環境に適応していくうえで重要なもの である だけではなく、新たな知識 や スキルを獲得する際の中核能力として捉えることができます。
 核知識は生後極めて 早く出現する ものであり 、生得的な 要素 の大き な 認知能力 と考えられていますが 、私たちの 直感 では それが どのように捉えられているのでしょうか 。 Wang 博士らの 2019 年の研究では、アメリカ人の大人 を対象に、 数種類の核知識 について、 ヒトの発達のどの 段階で出現すると 思っている かを調べました。その結果、すべての核知識について、大人は本来出現する時期よりも遅く出現すると 思って いることがわかりました。すなわち、 アメリカ人の大人は認知能力の起源について「学習的な部分 」 を過大に評価 してい るようです 。
 しかし、乳児の本当の姿と大人が思う乳児の姿との ズレ は アメリカの文化特有のもの でしょうか 。それ
とも教育観が古くから異なっている東洋文化(例えば日本)においても ズレは みられるの でしょうか 。 また、
文化によってズレの程度が異なるの でしょう か。 さらに 、そのズレがどのような要因に影響を受けるの でしょ うか。これら については明らかになって いませんでした。

図1. 本研究の 主なメッセージ

図1.本研究の 主なメッセージ

研究成果のポイント

◆ 色 の 識別 などの 認知能力 の はじまりに対す る認識につ いて 日米の大人 を対象に調査した
◆ 文化 を 問わず 、大人は 子どもの様々な 認知能力の 出現時期 を実際より 遅く 推定し このような 能力を
 学習の結果として捉える傾向が あった
◆ 子ども の姿について 科学知見と 直感 にギャップがあることが明らかになった
◆ 研究や子育て、教育などに重要 な 「科学的な子ども観」の構築 が期待される

概要

 大阪大学大学院人間科学研究科の孟憲巍助教、ラトガーズ大学認知学習センターの Jenny Wang 助教、大阪大学大学院基礎工学研究科の 吉川雄一郎准教授 、 石黒浩教授 、 同志社大学赤ちゃん学研究センターの板倉昭二 センター長 ら の研究グループは、 日米の大人を対象に、色 の 識別 などの子どもの認知能力の出現時期とその理由についての調査をおこなった。 その結果、 いずれの 文化 でも 、大人は実際の出現時期 (これまでの研究で示された出現時期) よりも遅く出現すると推定していること、 そして それらの 認知能力 が 学習の結果であると 考えて いる ことを世界で初めて明らかにしました (図1)。
「氏か育ちか」の議論は古くからなされていますが、現代 社会では大人は「育ち」の部分を実際 の発達よりも 評価して おり 、 大人が思う子どもの姿 と 科学 的 研究で示された子どもの姿 に ズレが ある ことが本研究によって明らかになりました 。このようなズレを意識 することは、科学的な子ども観に基づいた研究や子育て、学校教育 などに参加する うえで役立つことが期待 されます。本研究成果は、スイス科学誌「Frontiers in Psychology 」に、 11 月 08 日( 火 13 時(日本時間)に公開されます。

研究の背景

 私たちはどのようにして様々なことを 「知る」、「わかる」 の だろう か 。人間の認知能力の起源は古くから
人々 の大き な 関心を集めてきました 。現代科学においても、人間理解 の重要な切り口として 心理学や社会学、神経科学などの様々な領域で重要視されてい ます 。
この数十年、発達科学(Developmental science )という研究分野 が 洗練された実験法を駆使し、特定の状況に置かれた乳幼児 がどのように反応するか を調べることで、ある認知能力が人生のどのタイミングにみられるかについて検討してき ました 。 多くの 実験結果の蓄積から、生後早くから乳児は数種類の認知能力をすでに持っていることが明らかに なりました。例えば、色の 識別 は生後 4 ヶ月くらいから、奥行きの認識は生後2日くらいから、顔らしいものと顔らしくない ものの 識別 は生後数日からなされていることなどが明らかになっています。これらの認知能力は 核知識( Core knowledge と呼ばれ 、人間が生存環境に適応していくうえで重要なもの である だけではなく、新たな知識 や スキルを獲得する際の中核能力として捉えることができます。
 核知識は生後極めて 早く出現する ものであり 、生得的な 要素 の大き な 認知能力 と考えられていますが 、私たちの 直感 では それが どのように捉えられているのでしょうか 。 Wang 博士らの 2019 年の研究では、アメリカ人の大人 を対象に、 数種類の核知識 について、 ヒトの発達のどの 段階で出現すると 思っている かを調べました。その結果、すべての核知識について、大人は本来出現する時期よりも遅く出現すると 思って いることがわかりました。すなわち、 アメリカ人の大人は認知能力の起源について「学習的な部分 」 を過大に評価 してい るようです 。
 しかし、乳児の本当の姿と大人が思う乳児の姿との ズレ は アメリカの文化特有のもの でしょうか 。それ
とも教育観が古くから異なっている東洋文化(例えば日本)においても ズレは みられるの でしょうか 。 また、
文化によってズレの程度が異なるの でしょう か。 さらに 、そのズレがどのような要因に影響を受けるの でしょ うか。これら については明らかになって いませんでした。

研究の内容

孟助教(大阪大学)、板倉教授(同志社大学)らの研究グループは、複数の核知識のそれぞれがいつから出現すると思っているのか、なぜ出現したと思っているのかについて日米の大人計 600 人に回答してもらいました (図 2 )。
研究1では、3つの調査を通して 、 日米の大人が類似した回答 を示していることを明らかにしました (図 3 )。具体的には、研究で用いた 核知識 の全てが生後半年までに出現するものであるにもかかわらず、大人 は 平均
2歳以後に出現する と認識している ことがわかりました。また、 出現理由に関しては、 大半の回答( 約 77 %%)では核知識の出現が学習の結果として捉え られ ていました。すなわち、 大人はこれまでの科学研究で示された核知識の出現時期よりも遅く出現すると考えており、なおそれらの核知識の大部分は(自然に出てきたものではなく)生後の学習を通してできたものであると 考えて いる ことを示しました。 一方、 人間の核知識に類似する動物の認知能力について尋ねると、大人はより生得的で あると判断することがわかりました。

左側の絵を顔のように 見えるのがいつからだ と思いますか?なぜだ と思いますか? 図 2. 質問のイメージ

左側の絵を顔のように見えるのがいつからだ
と思いますか?なぜだと思いますか?
図2. 質問のイメージ

研究の内容

孟助教(大阪大学)、板倉教授(同志社大学)らの研究グループは、複数の核知識のそれぞれがいつから出現すると思っているのか、なぜ出現したと思っているのかについて日米の大人計 600 人に回答してもらいました (図 2 )。
研究1では、3つの調査を通して 、 日米の大人が類似した回答 を示していることを明らかにしました (図 3 )。具体的には、研究で用いた 核知識 の全てが生後半年までに出現するものであるにもかかわらず、大人 は 平均
2歳以後に出現する と認識している ことがわかりました。また、 出現理由に関しては、 大半の回答( 約 77 %%)では核知識の出現が学習の結果として捉え られ ていました。すなわち、 大人はこれまでの科学研究で示された核知識の出現時期よりも遅く出現すると考えており、なおそれらの核知識の大部分は(自然に出てきたものではなく)生後の学習を通してできたものであると 考えて いる ことを示しました。 一方、 人間の核知識に類似する動物の認知能力について尋ねると、大人はより生得的で あると判断することがわかりました。

研究2では、核知識の出現時期と出現理由の認識 がどのような要因に影響を受けるのかについて調査しました。
核知識の出現時期の推定 については 、回答者がどのくらい進化 論 的な考え方(もしくは創造論的な考え方)を 持っているか と関連すること が 明らかに なりました。 具体的には、 進化論的な考え方をより受け入れている大人は、核知識をより早い時期に出現すると推定 する傾向がありました。 また、 核知識の出現理由 については 、回答者がどのくらい学習の力を 認めている かと関連すること が 明らかになりました。
具体的には、 学習で知能を変えることができると思う 人 ほど、核知識の出現を学習の結果として捉える 傾向が強いことがわかりました。 なお、回答者の年齢、性別、育児経験 の有無 は出現時期と出現理由の認識に影響を与えませんでした。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

社会が持つ「子ども観」によって、研究や子育て、学校教育などの営みが方向付けられる ことがこれまで学術的にも指摘されてきました 。 より良い社会を実現させる うえでは 科学的な 子ども観 が不可欠で す 。 今回の研究は、子ども の「こころの成り立ち」 に私たちが気づいていない 側面 が ある こと を示すものでも あります。 今後、 科学的な人間理解の 知見や アプローチ が社会 でより 広く 共有されること が 期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022 年 1 1 月 0 8 日( 火 13 時(日本時間)にスイス科学誌「 Frontiers in Psychology 」(オンライン)に掲載されます。
タイトル:“A cross cultural investigation of people s intuitive beliefs about the origins of cognition
著者名:Xianwei Meng, Jinjing Jenny Wang, Yuichiro Yoshikawa, Hiroshi Ishiguro and Shoji Itakura
DOI:https ://doi. 10.3389/fpsyg.2022.974434
なお、本研究は、Society 5.0 実現化研究拠点支援事業 ( の一環として 、文部科学省特色ある共同研究拠点の整備の推進事業( JPMXP0619217850 の協力を得て行われました。
図3

図3.研究1Aの方法と結果( 緑の十字の位置はこれまでの研究で明らかになった 実際の出現時期 を示す。 円の位置は大人が推定した 出現時期 の平均を示す。円グラフの色は 出現理由の割合を示す。)

研究2では、核知識の出現時期と出現理由の認識 がどのような要因に影響を受けるのかについて調査しました。
核知識の出現時期の推定 については 、回答者がどのくらい進化 論 的な考え方(もしくは創造論的な考え方)を 持っているか と関連すること が 明らかに なりました。 具体的には、 進化論的な考え方をより受け入れている大人は、核知識をより早い時期に出現すると推定 する傾向がありました。 また、 核知識の出現理由 については 、回答者がどのくらい学習の力を 認めている かと関連すること が 明らかになりました。
具体的には、 学習で知能を変えることができると思う 人 ほど、核知識の出現を学習の結果として捉える 傾向が強いことがわかりました。 なお、回答者の年齢、性別、育児経験 の有無 は出現時期と出現理由の認識に影響を与えませんでした。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

社会が持つ「子ども観」によって、研究や子育て、学校教育などの営みが方向付けられる ことがこれまで学術的にも指摘されてきました 。 より良い社会を実現させる うえでは 科学的な 子ども観 が不可欠で す 。 今回の研究は、子ども の「こころの成り立ち」 に私たちが気づいていない 側面 が ある こと を示すものでも あります。 今後、 科学的な人間理解の 知見や アプローチ が社会 でより 広く 共有されること が 期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022 年 1 1 月 0 8 日( 火 13 時(日本時間)にスイス科学誌「 Frontiers in Psychology 」(オンライン)に掲載されます。
タイトル:“A cross cultural investigation of people s intuitive beliefs about the origins of cognition
著者名:Xianwei Meng, Jinjing Jenny Wang, Yuichiro Yoshikawa, Hiroshi Ishiguro and Shoji Itakura
DOI:https ://doi. 10.3389/fpsyg.2022.974434
なお、本研究は、Society 5.0 実現化研究拠点支援事業 ( の一環として 、文部科学省特色ある共同研究拠点の整備の推進事業( JPMXP0619217850 の協力を得て行われました。
関連書類
お問い合わせ先

本件に関するお問い合わせ

大阪大学大学院 人間科学 研究科 助教 孟憲巍 (もう けんい)
TEL:06 -6879-8045
FAX::06-6879-8126
E-mail:xianwei.meng@hus.osaka u.ac.jp

同志社大学赤ちゃん学研究センター センター長・フェロー教授 板倉昭二( いたくら しょうじ)
TEL:0774-65-6862
FAX: 0774-65-7496
E-mail:sitakura@mail.doshisha.ac.jp