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ロボットに褒められた人は 他人をより褒めるようになることを解明 ~人工物からの褒めが人へと伝搬する現象を明らかに~

'23年3月30日 更新
株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR)
同志社大学

  • 人は、褒められることで成長します。近年の心理学研究では、他人からの褒めが運動技能の効率的な習得に有効であることが報告されています。さらには、人を褒める存在がエージェント(CGキャラクターやロボット)であっても、運動技能の習得に有効であることが報告されています。一方で、ロボットが煽ることでパフォーマンスの向上を試みる研究もあり、どちらが優れているかは明らかではありませんでした。

  • そこで本研究では、ロボットが人の行うタスクを評価し、人を褒める場合・中立的な意見を述べる場合・煽る場合の3条件でパフォーマンスの変化にもたらす影響を検証しました。その結果、人を褒めた場合と煽る場合でパフォーマンスの向上が同程度見られました。その一方で、煽る場合は褒める場合よりも人を不安にさせてしまうことが明らかになりました。

  • さらに、実験に参加した被験者がダミー参加者のタスクを評価する追加実験を行いました。その結果、ロボットに褒められた被験者はダミー参加者をより褒めることが明らかになりました。その一方で、ロボットに煽られた被験者はダミー被験者を褒めなくなることも明らかになりました。

  • 本成果は、ロボットという人工物であっても、その態度が人間へ伝搬する可能性を示唆しました。ロボットからの褒めが人からの褒めを引き起こすことで、褒めの伝搬と循環を生み出し、社会全体のパフォーマンスや安心感の向上に寄与できる可能性を示唆しています。この研究成果は、ロボティクス分野における主要論文誌の1つであるInternational Journal of Social Roboticsに採択されました。
ロボットと人02

褒めると煽るの間でパフォーマンスに差はないが、他者への態度が変化

株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR)
同志社大学

  • 人は、褒められることで成長します。近年の心理学研究では、他人からの褒めが運動技能の効率的な習得に有効であることが報告されています。さらには、人を褒める存在がエージェント(CGキャラクターやロボット)であっても、運動技能の習得に有効であることが報告されています。一方で、ロボットが煽ることでパフォーマンスの向上を試みる研究もあり、どちらが優れているかは明らかではありませんでした。

  • そこで本研究では、ロボットが人の行うタスクを評価し、人を褒める場合・中立的な意見を述べる場合・煽る場合の3条件でパフォーマンスの変化にもたらす影響を検証しました。その結果、人を褒めた場合と煽る場合でパフォーマンスの向上が同程度見られました。その一方で、煽る場合は褒める場合よりも人を不安にさせてしまうことが明らかになりました。

  • さらに、実験に参加した被験者がダミー参加者のタスクを評価する追加実験を行いました。その結果、ロボットに褒められた被験者はダミー参加者をより褒めることが明らかになりました。その一方で、ロボットに煽られた被験者はダミー被験者を褒めなくなることも明らかになりました。

  • 本成果は、ロボットという人工物であっても、その態度が人間へ伝搬する可能性を示唆しました。ロボットからの褒めが人からの褒めを引き起こすことで、褒めの伝搬と循環を生み出し、社会全体のパフォーマンスや安心感の向上に寄与できる可能性を示唆しています。この研究成果は、ロボティクス分野における主要論文誌の1つであるInternational Journal of Social Roboticsに採択されました。

概要

 本研究では、ロボットが人を褒めることでパフォーマンスが向上し不安を減少させるだけではなく、その人が他者をより褒めるようになることを明らかにしました。同時に、ロボットが人を煽ることでパフォーマンスが向上するものの、不安を増加させ、さらにはその人が他者をより褒めなくなることも明らかにしました。人工物の態度が人間へと伝搬し、社会全体のパフォーマンスや安心感にも影響を与える可能性を示唆しています。
グラフa

パフォーマンスの変化

グラフb

他者を褒める割合

概要

 本研究では、ロボットが人を褒めることでパフォーマンスが向上し不安を減少させるだけではなく、その人が他者をより褒めるようになることを明らかにしました。同時に、ロボットが人を煽ることでパフォーマンスが向上するものの、不安を増加させ、さらにはその人が他者をより褒めなくなることも明らかにしました。人工物の態度が人間へと伝搬し、社会全体のパフォーマンスや安心感にも影響を与える可能性を示唆しています。

背景

 褒めは社会的報酬であり、モチベーションやパフォーマンスの向上といった様々なメリットをもたらします。近年では、褒めてくれる対象が人ではなく、ロボットやCGキャラクターといったエージェントであっても効果のあることが明らかになっており、学習支援用アプリケーションでもその知見は大いに活用されています。その一方で、パフォーマンスを向上させる取り組みとして、褒めではなく煽るアプローチの有効性も報告されています。そこで私たちは、ロボットが人を褒める場合と煽る場合で、パフォーマンスや心理状態、および他者への態度にどのような変化がもたらされるかに着目しました。

研究の狙い

 ロボットが人を褒めたり煽ったりすることで、短期的なパフォーマンスが向上することは明らかになっていました。一方で、その行為がどのような心理状態の変化を及ぼすか、および他者への態度にまでは伝搬するかは明らかになっていませんでした。そこで、ロボットに褒められたり煽ったりされた人が、その後に他者に対してどのような振る舞いを行うかを検証する取り組みを進めました。本研究では、ロボットの態度が人に伝搬し、ロボットに褒められた人はより他者を褒めるようになる、という仮説を立てました。

ロボットによる褒めが人のパフォーマンスや態度に与える影響を検証する実験とその結果

 この仮説を検証するため、実験に参加した人が単調なタスクを実行している際に、ロボットがパフォーマンスに関わらず褒める場合・常に中立的な情報のみを提供する場合・パフォーマンスに関わらず煽る場合の、3条件の違いを比較する実験を行いました。実験の結果から、ロボットが褒める場合と煽る場合にはタスクの前後でパフォーマンスが向上し、中立的な場合にはパフォーマンスが変化しなかったことが明らかになりました。また、褒める場合と中立的な場合は実験前後で不安に変化はありませんでしたが、煽る場合は不安が増加することも明らかになりました。
 さらに、同じ参加者に別の参加者のタスクを評価するという追加実験を行いました。実際には別の参加者は存在しておらず、タスクの実行状況はあらかじめ本人のタスクを記録して再生したものでした。すなわち実験参加者は、自分と同じパフォーマンスでタスクを実行するダミー参加者に対して、自分がロボットにされたように褒めたり煽ったりすることが可能でした。実験の結果、ロボットに褒められていた人たちは、別の参加者をより褒めることが明らかになりました。一方、ロボットに煽られていた人たちは、別の参加者を褒めなくなることも明らかになりました。

今後の展開

 本成果は、ロボットという人工物からの褒めであってもパフォーマンス向上に有効なだけではなく、褒めた相手の社会的態度にも変化をもたらすことを示しています。ロボットを起点として褒めの伝搬と循環を生み出すことで、社会全体のパフォーマンスや安心感の向上に寄与できる可能性を示唆しています。

背景

 褒めは社会的報酬であり、モチベーションやパフォーマンスの向上といった様々なメリットをもたらします。近年では、褒めてくれる対象が人ではなく、ロボットやCGキャラクターといったエージェントであっても効果のあることが明らかになっており、学習支援用アプリケーションでもその知見は大いに活用されています。その一方で、パフォーマンスを向上させる取り組みとして、褒めではなく煽るアプローチの有効性も報告されています。そこで私たちは、ロボットが人を褒める場合と煽る場合で、パフォーマンスや心理状態、および他者への態度にどのような変化がもたらされるかに着目しました。

研究の狙い

 ロボットが人を褒めたり煽ったりすることで、短期的なパフォーマンスが向上することは明らかになっていました。一方で、その行為がどのような心理状態の変化を及ぼすか、および他者への態度にまでは伝搬するかは明らかになっていませんでした。そこで、ロボットに褒められたり煽ったりされた人が、その後に他者に対してどのような振る舞いを行うかを検証する取り組みを進めました。本研究では、ロボットの態度が人に伝搬し、ロボットに褒められた人はより他者を褒めるようになる、という仮説を立てました。

ロボットによる褒めが人のパフォーマンスや態度に与える影響を検証する実験とその結果

 この仮説を検証するため、実験に参加した人が単調なタスクを実行している際に、ロボットがパフォーマンスに関わらず褒める場合・常に中立的な情報のみを提供する場合・パフォーマンスに関わらず煽る場合の、3条件の違いを比較する実験を行いました。実験の結果から、ロボットが褒める場合と煽る場合にはタスクの前後でパフォーマンスが向上し、中立的な場合にはパフォーマンスが変化しなかったことが明らかになりました。また、褒める場合と中立的な場合は実験前後で不安に変化はありませんでしたが、煽る場合は不安が増加することも明らかになりました。
 さらに、同じ参加者に別の参加者のタスクを評価するという追加実験を行いました。実際には別の参加者は存在しておらず、タスクの実行状況はあらかじめ本人のタスクを記録して再生したものでした。すなわち実験参加者は、自分と同じパフォーマンスでタスクを実行するダミー参加者に対して、自分がロボットにされたように褒めたり煽ったりすることが可能でした。実験の結果、ロボットに褒められていた人たちは、別の参加者をより褒めることが明らかになりました。一方、ロボットに煽られていた人たちは、別の参加者を褒めなくなることも明らかになりました。

今後の展開

 本成果は、ロボットという人工物からの褒めであってもパフォーマンス向上に有効なだけではなく、褒めた相手の社会的態度にも変化をもたらすことを示しています。ロボットを起点として褒めの伝搬と循環を生み出すことで、社会全体のパフォーマンスや安心感の向上に寄与できる可能性を示唆しています。

掲載論文
題名
Is Politeness Better than Impoliteness? Comparisons of Robot's Encouragement Effects Toward Performance, Moods, and Propagation.
(褒める方が煽るよりも有効?ロボットからの働きかけがパフォーマンスや不安、態度の伝搬に与える影響の検証)
著者
Kana Higashino, Mitsuhiko Kimoto, Takamasa Iio, Katsunori Shimohara, Masahiro Shiomi
東野佳奈(ATR/同志社大学*)、木本充彦(ATR)、飯尾尊優(ATR/同志社大学)、下原勝憲(ATR/同志社大学)、塩見昌裕(ATR)
(*は研究実施当時の所属)
掲載誌
International Journal of Social Robotics
掲載日
令和5年2月9日、03:00 am(日本時間) オンライン版公開
DOI
10.1007/s12369-023-00971-9

研究支援
 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST:ソーシャルタッチの計算論的解明とロボットへの応用(研究代表者:塩見昌裕、JPMJCR18A1))、科研費(基盤研究(B):ロボットサービスの実証実験の実践を支援する仕組みの確立(代表:飯尾 尊優)、若手研究:対話相手の関係性に配慮して情報提供するロボットの実現(代表:木本充彦))の研究プロジェクトの一環として実施されました。

実験手順の詳細について
 本研究では、二つの実験を行っています。
 一つ目の実験では、ロボットがパフォーマンスに関わらず褒める場合・常に中立的な情報のみを提供する場合・パフォーマンスに関わらず煽る場合の3通りの組み合わせを設定し、各条件に対して16名、合計48名の人が実験に参加しました。実験結果から、ロボットが褒める場合と煽る場合にはタスクの前後でパフォーマンスが向上し、中立的な場合にはパフォーマンスが変化していなかったことが明らかになりました。また、褒める場合と中立的な場合は実験前後で不安に変化はありませんでしたが、煽る場合は不安が増加することも明らかになりました。
 二つ目の実験では、一つ目の実験に参加した人たちに、自分たちがロボットに行われたように別の実験参加者のタスクを評価する役割を与えました。別の実験参加者は仮想空間上に疑似的に表示され、タスクの内容は一つ目の実験で行われた参加者本人の操作記録を再生したものになります。なお、タスクの内容について実験参加者本人が自分の操作記録と同一であると気が付いた人はいませんでした。実験の結果、ロボットに褒められていた人たちは、別の参加者をより褒めることが明らかになりました。一方、ロボットに煽られていた人たちは、別の参加者を褒めなくなることも明らかになりました。
掲載論文
題名
Is Politeness Better than Impoliteness? Comparisons of Robot's Encouragement Effects Toward Performance, Moods, and Propagation.
(褒める方が煽るよりも有効?ロボットからの働きかけがパフォーマンスや不安、態度の伝搬に与える影響の検証)
著者
Kana Higashino, Mitsuhiko Kimoto, Takamasa Iio, Katsunori Shimohara, Masahiro Shiomi
東野佳奈(ATR/同志社大学*)、木本充彦(ATR)、飯尾尊優(ATR/同志社大学)、下原勝憲(ATR/同志社大学)、塩見昌裕(ATR)
(*は研究実施当時の所属)
掲載誌
International Journal of Social Robotics
掲載日
令和5年2月9日、03:00 am(日本時間) オンライン版公開
DOI
10.1007/s12369-023-00971-9

研究支援
 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST:ソーシャルタッチの計算論的解明とロボットへの応用(研究代表者:塩見昌裕、JPMJCR18A1))、科研費(基盤研究(B):ロボットサービスの実証実験の実践を支援する仕組みの確立(代表:飯尾 尊優)、若手研究:対話相手の関係性に配慮して情報提供するロボットの実現(代表:木本充彦))の研究プロジェクトの一環として実施されました。

実験手順の詳細について
 本研究では、二つの実験を行っています。
 一つ目の実験では、ロボットがパフォーマンスに関わらず褒める場合・常に中立的な情報のみを提供する場合・パフォーマンスに関わらず煽る場合の3通りの組み合わせを設定し、各条件に対して16名、合計48名の人が実験に参加しました。実験結果から、ロボットが褒める場合と煽る場合にはタスクの前後でパフォーマンスが向上し、中立的な場合にはパフォーマンスが変化していなかったことが明らかになりました。また、褒める場合と中立的な場合は実験前後で不安に変化はありませんでしたが、煽る場合は不安が増加することも明らかになりました。
 二つ目の実験では、一つ目の実験に参加した人たちに、自分たちがロボットに行われたように別の実験参加者のタスクを評価する役割を与えました。別の実験参加者は仮想空間上に疑似的に表示され、タスクの内容は一つ目の実験で行われた参加者本人の操作記録を再生したものになります。なお、タスクの内容について実験参加者本人が自分の操作記録と同一であると気が付いた人はいませんでした。実験の結果、ロボットに褒められていた人たちは、別の参加者をより褒めることが明らかになりました。一方、ロボットに煽られていた人たちは、別の参加者を褒めなくなることも明らかになりました。
お問い合わせ先
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
経営統括部 企画・広報チーム
TEL:0774-95-1176
FAX:0774-95-1178
Email:pr@atr.jp

同志社大学広報部広報課
TEL:075-251-3120
FAX:075-251-3080
Email:ji-koho@mail.doshisha.ac.jp