'23年5月15日 更新
日本でおなじみのゆるキャラ文化は,「kawaii(かわいい)」という日本語が浸透するほど,海外でも一般的に広まってきています。 今回,化学を専門とする国際学術論文誌「Chemistry A European Journal (Wiley-VCH出版社)」の表紙に2023年5月8日付で,同志社大学 理工学部の北岸宏亮教授らの研究成果がモデルとなった日本発オリジナルの「ゆるキャラ」動物たちが登場しました(図1)
日本でおなじみのゆるキャラ文化は,「kawaii(かわいい)」という日本語が浸透するほど,海外でも一般的に広まってきています。 今回,化学を専門とする国際学術論文誌「Chemistry A European Journal (Wiley-VCH出版社)」の表紙に2023年5月8日付で,同志社大学 理工学部の北岸宏亮教授らの研究成果がモデルとなった日本発オリジナルの「ゆるキャラ」動物たちが登場しました(図1)
高分子化した人工ヘモグロビンの完成!
対象となった論文は,同志社大学理工学部の北岸宏亮教授らによる研究成果です。北岸教授の研究グループでは,ポルフィリンと呼ばれる分子をシクロデキストリン化合物で覆うことで,血管内で酸素を運ぶことのできる”人工血液”の素材をつくる研究を進めています。今回,北岸教授と毛 斉悦助手(当時。現在は米国で博士研究員)は,人工血液の素材であるポルフィリンを血液中で長く循環させるために,ポリエチレングリコール(PEG)と呼ばれる生体適合性の高分子で修飾しました(図2)。これによってできる化合物(PEG2kTPPおよびPEG5kTPP)は,シクロデキストリン二量体によって取り込まれ,まるでポルフィリンが自ら袖を通してシロデキストリンの服を着るような形状を呈しています。高分子化した人工ヘモグロビンの完成!
対象となった論文は,同志社大学理工学部の北岸宏亮教授らによる研究成果です。北岸教授の研究グループでは,ポルフィリンと呼ばれる分子をシクロデキストリン化合物で覆うことで,血管内で酸素を運ぶことのできる”人工血液”の素材をつくる研究を進めています。今回,北岸教授と毛 斉悦助手(当時。現在は米国で博士研究員)は,人工血液の素材であるポルフィリンを血液中で長く循環させるために,ポリエチレングリコール(PEG)と呼ばれる生体適合性の高分子で修飾しました(図2)。これによってできる化合物(PEG2kTPPおよびPEG5kTPP)は,シクロデキストリン二量体によって取り込まれ,まるでポルフィリンが自ら袖を通してシロデキストリンの服を着るような形状を呈しています。
ポルフィリンとシクロデキストリン二量体から成る化合物「hemoCD」は,体内で人工ヘモグロビンとして機能することが,北岸教授の研究により明らかにされてきました。しかしながらhemoCDそのものは血中に投与すると分子サイズが小さいために,すぐに尿中に排泄されてしまいます(この場合hemoCDは,火災等で起こるCO中毒の治療薬として有効に機能する。2023/2/21同志社大学プレスリリース参照)。一方,今回のようにポルフィリン部分を高分子化することで,血管内に長く滞在させることが可能となり,体内で長時間にわたり酸素を運搬する人工ヘモグロビンが完成しました。
ポルフィリンとシクロデキストリン二量体から成る化合物「hemoCD」は,体内で人工ヘモグロビンとして機能することが,北岸教授の研究により明らかにされてきました。しかしながらhemoCDそのものは血中に投与すると分子サイズが小さいために,すぐに尿中に排泄されてしまいます(この場合hemoCDは,火災等で起こるCO中毒の治療薬として有効に機能する。2023/2/21同志社大学プレスリリース参照)。一方,今回のようにポルフィリン部分を高分子化することで,血管内に長く滞在させることが可能となり,体内で長時間にわたり酸素を運搬する人工ヘモグロビンが完成しました。
まるで「分子が服を着る」現象の発見!
実験を担当した毛助手は,「今回のPEG2kTPPやPEG5kTPPのような形で高分子化すると,そもそもシクロデキストリン二量体に包接されなくなるのでは?と,心配していました。しかし実際に実験してみると,問題なくすみやかに包接されました。それはまるで分子が水中で服を着るような現象でした!」と述べています。北岸教授は本研究の経緯について「実験データをみると確かにシクロデキストリン二量体が水中でPEG2kTPPやPEG5kTPPをすみやかに包接しているようでした。最初は論文の主旨を『分子が服を着る現象の発見』にしようかと考えたのですが,さすがに誇張しすぎかなと思って,やめておきました。ところが,この論文の内容を査読した審査員からは,『この現象は,まるで人間がシャツを着る動作のようで,とてもおもしろい!』とのコメントをもらい,確信に至りました」と振り返ります。
学術誌で高評価。学術誌から表紙作成の依頼が!
ゆるキャラで化学をもっと身近に感じてほしい。
ゆるキャラで化学をもっと身近に感じてほしい。
論文に対する審査の評価が高かったため,学術誌の編集者から北岸教授に,掲載号の表紙用に研究内容をイメージした画像の提出依頼が来ました。そこで北岸教授が「この分子が服を着るような現象を,なんとかゆるキャラで再現できないだろうか?」と研究支援要員の松永良子さんに相談したところ,松永さんの友人でイラストレーターの関本良子さん(PEACE PiECE)が紹介されました。
まるで「分子が服を着る」現象の発見!
実験を担当した毛助手は,「今回のPEG2kTPPやPEG5kTPPのような形で高分子化すると,そもそもシクロデキストリン二量体に包接されなくなるのでは?と,心配していました。しかし実際に実験してみると,問題なくすみやかに包接されました。それはまるで分子が水中で服を着るような現象でした!」と述べています。北岸教授は本研究の経緯について「実験データをみると確かにシクロデキストリン二量体が水中でPEG2kTPPやPEG5kTPPをすみやかに包接しているようでした。最初は論文の主旨を『分子が服を着る現象の発見』にしようかと考えたのですが,さすがに誇張しすぎかなと思って,やめておきました。ところが,この論文の内容を査読した審査員からは,『この現象は,まるで人間がシャツを着る動作のようで,とてもおもしろい!』とのコメントをもらい,確信に至りました」と振り返ります。
学術誌で高評価。学術誌から表紙作成の依頼が!
ゆるキャラで化学をもっと身近に感じてほしい。
ゆるキャラで化学をもっと身近に感じてほしい。
論文に対する審査の評価が高かったため,学術誌の編集者から北岸教授に,掲載号の表紙用に研究内容をイメージした画像の提出依頼が来ました。そこで北岸教授が「この分子が服を着るような現象を,なんとかゆるキャラで再現できないだろうか?」と研究支援要員の松永良子さんに相談したところ,松永さんの友人でイラストレーターの関本良子さん(PEACE PiECE)が紹介されました。
困った顔は動物虐待?欧州の価値観を学ぶ。
依頼を受けた関本さんは「分子が服を着る」現象について,3匹の動物たちが着替えをするシーンで表現しました。最初の案では,動物たちが朝の支度で急いでいるような表情をイメージして作成したのですが,編集者からは「なぜ動物たちはこんなに困った表現なの?こんなかわいそうな動物たちのイラストは採用できない」との返事がありました。そこでより和やかな表情の動物たちのイラストに修正し,その他いくつかの修正を加えて,無事に採択に至りました(図3)。困った顔は動物虐待?欧州の価値観を学ぶ。
依頼を受けた関本さんは「分子が服を着る」現象について,3匹の動物たちが着替えをするシーンで表現しました。最初の案では,動物たちが朝の支度で急いでいるような表情をイメージして作成したのですが,編集者からは「なぜ動物たちはこんなに困った表現なの?こんなかわいそうな動物たちのイラストは採用できない」との返事がありました。そこでより和やかな表情の動物たちのイラストに修正し,その他いくつかの修正を加えて,無事に採択に至りました(図3)。
イラストのデザインを担当した関本さんは,今回の仕事を振り返り,次のような感想を述べています。「大学での研究をより多くの方に身近に感じてほしいという北岸先生の思いを受けて,試行錯誤を繰り返しながら,キャラクターを用いたイラストを作成しました。最初はかわいいかなと思って描いた動物たちの困った表情がNGになるなど,文化圏の違う方からの指摘もあり,国際的な考え方を知る良い機会になりました。いろんな方の意見がうまく融合し,結果的に満足のいくイラストに仕上がったと思っています。」北岸教授も「このような親しみやすいイラストを通じて,少しでも化学の研究に興味を持ってもらえれば」と語っています。
イラストのデザインを担当した関本さんは,今回の仕事を振り返り,次のような感想を述べています。「大学での研究をより多くの方に身近に感じてほしいという北岸先生の思いを受けて,試行錯誤を繰り返しながら,キャラクターを用いたイラストを作成しました。最初はかわいいかなと思って描いた動物たちの困った表情がNGになるなど,文化圏の違う方からの指摘もあり,国際的な考え方を知る良い機会になりました。いろんな方の意見がうまく融合し,結果的に満足のいくイラストに仕上がったと思っています。」北岸教授も「このような親しみやすいイラストを通じて,少しでも化学の研究に興味を持ってもらえれば」と語っています。