プレスリリース
非対称型環状ケテンアセタールを用いた生分解性高分子設計の新指針を確立 シミュレーションと実験を融合した速度論モデルの開発に成功
研究のポイント
- 環状ケテンアセタールの「4位非対称置換」がラジカル開環重合(RROP)の反応経路に及ぼす影響の解明に成功
- 実験と密度汎関数法(DFT)計算を組み合わせた速度論シミュレーションモデルを構築
- 生分解性と材料特性を両立させた高分子設計への応用が期待され、持続可能なプラスチック開発の基盤として期待
概要
同志社大学 理工学部 機能分子・生命化学科の西村慎之介助教、古賀智之教授らの研究グループは、環状ケテンアセタール(cyclic ketene acetal, CKA)の非対称置換がラジカル開環重合(radical ring-opening polymerization, RROP)の反応経路に与える影響を詳細に解析し、速度論モデルを構築することに成功しました。CKAは重合時に主鎖へエステル結合を導入できるため、生分解性を付与できる有望なモノマー群です。しかし、非対称型CKAのRROP挙動や得られる高分子の組成に関する理解が不十分でした。本研究では、4位にアルコキシメチル基を有する新規な非対称型CKAを合成し、NMR構造解析やOECD 301Fによる生分解性試験を実施しました。得られたポリマーは、セルロースの約40%に対して20%程度の分解率を示し、エステル結合導入の効果を実証しました。また、非置換体の対称型CKAとの比較から、4位置換によって高温や高濃度条件でも「バックバイティング構造」が抑制され、分解性に寄与することを明らかにしました。さらに、DFT計算から得た速度定数を取り入れたシミュレーションモデルを構築し、実験結果を高精度に再現することに成功しました。本モデルは、今後の分解性高分子設計において合理的な指針を与えることが期待されます。
背景
石油由来プラスチックは耐久性に優れる一方で、自然環境中では分解されにくく、マイクロプラスチック問題を引き起こしています。こうした課題の解決に向けて、近年では使用後に分解可能な「生分解性プラスチック」の研究が活発に進められています。その中でも、CKAを基盤とする生分解性ポリエステルは、従来から広く用いられているラジカル重合法を利用したRROPで合成できる点から、応用展開が期待されています。プラスチックは用途に応じて強度や柔軟性などの機械的特性を調整する必要があり、そのためにはCKAにさまざまな置換基を導入する化学修飾が不可欠です。しかし、置換基の導入によりCKAが「非対称型構造」となった場合、その重合挙動や得られる高分子の構造は非常に複雑になり、これまで体系的な理解が進んでいませんでした。今回の研究では、この難題に対して実験とシミュレーションを組み合わせることでアプローチし、非対称型CKAの重合メカニズムの解明に取り組みました。
研究成果
本研究では、非対称型環状CKAのRROP挙動を、合成実験と分光分析により精密に追跡しました。その結果、置換基の導入により、不要な副反応が抑えられ、分解性を高める構造が選択的に形成されることを明らかにしました。また、計算化学によるシミュレーションを取り入れることで、実験結果を裏付ける実用的な速度論モデルを確立しました。これにより、非対称型CKAの重合挙動を統一的に理解するための基盤を構築することに成功しました。本成果は、生分解性高分子を合理的に設計するための新しい指針を示すものであり、環境調和型プラスチック開発に向けた重要な一歩といえます。
本研究成果は「Kinetic Model of Radical Ring-Opening Polymerization of Asymmetric Five-Membered Cyclic Ketene Acetals」の題目にて国際学術誌アメリカ化学会出版のMacromolecules誌に2025年8月19日付(UK時間)で公表されています(オープンアクセス)。
論文情報
- 掲載誌 : Macromolecules
- 論文タイトル : Kinetic Model of Radical Ring-Opening Polymerization of Asymmetric Five-Membered Cyclic Ketene Acetals
- 著者 : Shin-nosuke Nishimura, Marina Uryu, Tomoyuki Koga
- DOI : 10.1021/acs.macromol.5c01438
研究者プロフィール
西村 慎之介(ニシムラ シンノスケ)
同志社大学 理工学部 機能分子・生命化学科 助教
研究分野:高分子化学/バイオマテリアル/機械学習・計算化学
古賀 智之(コガ トモユキ)
同志社大学 理工学部 機能分子・生命化学科 教授
本研究に関するお問い合わせ
西村 慎之介 (理工学部 機能分子・生命化学科 教授)
TEL:0774-65-6622
E-mail:shnishim@mail.doshisha.ac.jp
本件については、EurekAlert! および Organization for Research Initiatives & Development Doshisha University(同志社大学 研究・産官学連携 英語版サイト) でも掲載しております。
取材に関するお問い合わせ |
同志社大学 広報部広報課
TEL:075-251-3120 |
---|
- タグ
- 教育・研究