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スポーツが切り拓く未来社会~同志社大学におけるスポーツの意義~

同志社創立150周年記念(大学事業)公開シンポジウム

第2部パネルディスカッションの様子はこちらからご覧ください

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左から、本学スポーツ健康科学部長 竹田 正樹、青山学院大学 陸上競技部監督 原 晋氏、本学学長 小原 克博

第1部 パネルディスカッション テーマ

大学におけるスポーツの価値とは何か?

パネリスト

  • 原 晋氏 青山学院大学地球社会共生学部教授/陸上競技部監督
  • 小原 克博 同志社大学長

コーディネーター

竹田 正樹 同志社大学スポーツ健康科学部長

知育・徳育・体育によって成長を促すことが大学スポーツにおける教育的価値

竹田
この座談会では、大学におけるスポーツの教育的意義を深めたいと思います。基調講演で原監督は、人間力・決断力・リーダーシップ・精神力などがスポーツで培われるとおっしゃいました。実際に箱根駅伝に出た選手たちは、どのように成長していますか。
企業でも組織を作るには、理念の共有から始めます。そして理念を共有してどんな振る舞いをするかという行動指針と、中長期的な計画・ビジョン。これら3点セットが必要です。私たち陸上競技部でも、まず箱根駅伝を通じて、社会に役立つ人材の育成をチーム理念としています。行動指針としてはチームスピリッツ3カ条があります。「今日のことは今日やろう。明日はまた明日やるべきことがある」「人から感動をもらうのではなく、感動を与えることのできる人間になろう」「人間の能力に大きな差はない。あるとすれば、それは熱意の差だ」の3つです。これに照らし合わせたとき自身の振る舞いはどうなのかを、常に学生に問いかけています。私の監督就任時は、5年で箱根駅伝出場、10年でシード権を取って優勝争いのできるチームを作るというビジョンを掲げました。10年後の未来予想図を描きながら、チームの現状を把握して半歩先の目標を設定し、スモールステップの連続で突き進みました。学生にとってもそうです。5000m15分の力で入学した子を、4年間でどうアレンジしていくかが総論。各論では目標管理ミーティングを行います。寮長や主将が年度と月ごとの目標を掲げる。それを受けて各部員の能力・体力に応じた目標を掲げる。それに対してやり方を5項目程度掲げ、毎月グループでフリーディスカッションをさせます。日本の教育はどちらかというとフィードバックですね。目標未達に対してだめ出ししていくという視点。本学ではフィードフォワードです。個人の問題ではなく組織の問題として、どうすればできるのかという視点で話し合いをさせています。
竹田
勉強でも計画的に成長する道は作っていけますね。勉強とスポーツには共通の側面があると思いますが、スポーツ特有の側面はありますか。
フレーム作りだと思います。箱根駅伝は1月2日朝8時に大手町スタートと決まっています。区間エントリー、チームエントリーの日も決まっている。それに向けて強化合宿、選考レース、夏合宿の走り込み、春のトラックレースのスピード強化をする。すべては箱根駅伝からの逆算思考です。受験や学校行事でも一緒ですよね。部員には、長いときは約2カ月前からの具体的な練習計画書を渡します。学生はそれに向かってどう頑張るかを考えていける。絶対、教育にも繋がってくると思います。
小原
スポーツ特有の教育的働きを考える際、原監督が基調講演でお話しになった「知・徳・体」がヒントになると思います。教室内でも、しっかりと学ぶことによって心の成長を促し、知と徳は獲得できるかもしれません。それは大事にしていきたい。しかし、これらを頭の中だけで観念的にやっていただけでは、おそらく十分な成長はできないでしょう。身体の限界みたいなものを知るのは自分自身への挑戦でもあるし、特にチームスポーツでは仲間と切磋琢磨する中で、初めて個人として成長していける部分もある。個人としての飛躍、あるいはひと皮むける体験のためには、体育の部分は非常に大事だと思います。
まさに教育の三本柱は知育・徳育・体育です。体育と勉強は違うものだと分けがちですが、これは混ざり合うものだという理解でよろしいですよね。
小原
はい、そうです。現代社会ではデジタル領域が非常に増えて、世界への関わり方が非常に頭でっかちになっている。しかし、どんなにデジタル技術が発達しても、我々が生身の人間であるという現実を教え続けてくれるのが体育です。現代においてこそ、知・徳・体のバランスをしっかりと保っていくことが大事だと思います。
竹田
駅伝の学生たちは、文武両道をどこまで実現できていますか。
9割5分以上はしっかりと卒業して、進級率はそれ以上です。そもそも私は入口で、青山学院に合った学生を入れるようにしています。タイムが速いからどうぞ来てください、とは言いません。大学スポーツでは勉強も陸上も両方することを伝えますので、学習意欲の高い学生が入ってきます。
竹田
トレーニングは非常にきついと思いますが、勉強から脱落してしまう選手はいませんか。
エビデンスを取ったわけではありませんが、走る能力が上がっている学生は勉強の能力も上がっている傾向にあります。
竹田
駅伝部の学生はトレーニングで培った集中力や精神力を、学業面や大学生活にどのように活かせていますか。
具体例は思い浮かびませんが、ちょっと質問からは違うことを言わせてくださいね。彼らは特別スポーツ推薦制度によって小論文の面接で入学しますから、一般学生と比べて、どうしても学習能力が低い学生はいます。それを補うため、試験前は同じ学部の先輩・後輩が食堂に集まって勉強会をしています。寝ていたら成果は出ない、練習をしても成果が出ないこともある。でも練習しなかったら100%成果は出ない。じゃあどちらを選ぶのかと問うのが私の指導法です。
スポーツ健康科学部 竹田学部長
青山学院大学 陸上競技部 原監督
小原学長

駅伝の活躍が地域・企業と大学の関係を深める

竹田
次はスポーツの社会的価値について伺います。この10年間の駅伝での大活躍によって、大学の環境にはどのような変化がありましたか。
本校には特定のクラブにおいてスカウトによる入学者選抜を行う、強化指定部制度があります。その中の陸上部ですから強くなくてはいけないという大前提があり、おかげさまで強くなりました。箱根駅伝の壮行式や慰労会というイベントには、5,6千人の学生が来ていると思います。グラウンドは相模原キャンパスにあり、優勝したときには、近隣の商店街主催の優勝パレードがあります。そこにも3,4万人の方が駆けつけてくださいます。このように、地域と共に大学が発展していく側面もあろうかと思います。また本学は幼稚園から大学院までを抱えていますが、とある雑誌の「入りたい大学」というアンケートでは、47都道府県すべてでトップ10に入っています。学院全体が盛り上がっています。すると、一般学生の意識や愛校心も高まります。駅伝の学生はゼミにも入ってもらいますが、そのゼミの学生と卒業生が、寄せ書きをしたのぼりを持って山に応援に来てくれる。沿道には高齢の方から現役の学生までが小旗を持ち、青山学院大学の名のもとに寄り添って応援してくれます。そういう愛校心に目覚め、社会的影響力が高いのが大学スポーツだと思います。
竹田
大学経営の一助としても、スポーツ活動は広報的な役割を担っているということですね。
小原
同志社大学でも、かつて本当に強いスポーツがあったときには、それを感じることができました。ラグビーや野球の観戦、応援は日常の一部でした。あまり一般化するつもりはありませんが、過去と比べると現在は、体育会以外の学生さんのスポーツに対する関心は低下しているようです。
多様なレジャーがあるわけですから、一大学の一クラブの一つの試合に行くという行動は、本学でも希薄化しています。でもやらなかったら、さらに希薄化していく。やれば、そしてさらに強ければ、必ず人は寄ってきます。早慶のラグビーや野球には、やはり多くの人が来ますから、強くあり続けること、継続し続けることが大切なのかなと思います。箱根駅伝はコンテンツ自体がメジャー化しました。本学だけでなく箱根駅伝を走る大学の学生は、人から見られます。それだけ責任を感じて学生は頑張ります。大学の看板を背負っているという責任感が、一般学生にもプライドを呼び戻す。さらに社会で活躍している卒業生が周囲から、あの箱根駅伝の青山学院の卒業生だと見られる。人は見られることによって自信をつけるし、堂々とした振る舞いができる。適当なことはできないという好循環になってくる。だから、強くならなければという大前提のもとで継続する必要があろうかと思います。
小原
ポジティブな好循環が生まれますね。
竹田
大学の名前が非常に有名になったことで、企業などとの教育研究活動に変化はありましたか。
カルピスさん(アサヒグループ傘下 コアテクノロジー研究所)と共同研究をしました。乳酸菌が身体のメカニズムに及ぼす影響を調べる実験に駅伝の学生が被験者として協力し、私も共同著者として論文を書き、商品化させました。菓子メーカーのブルボンさん(株式会社ブルボン)ともゼリーを共同開発しました。

大学スポーツの活動資金調達はどうあるべきか

竹田
ところで、駅伝部は大学からの補助金は少ないけれども、チームとして寄付金など多くの活動費を集めておられるそうですね。
私自身、自分の事は自分でやるという方針が大前提なので、補助金頼みではなく、自走する仕組みを作りたかったんですね。そのためには強くならなければ、ブランディングを上げなければと思ったので、まずは強くなることから始めていった。その結果として、妙高市・水上村と契約し、箱根駅伝などで着用するユニフォームにロゴを掲出しています。他にもさまざまな企業さんとタイアップして支援金をいただいています。おかげさまで大学やOB会からいただくお金が仮になくても、自走する仕組みが展開されています。妙高市や水上村がスポンサードするメリットは、ふるさと納税です。3,4倍の寄付が受けられる、win-winの世界です。
竹田
アマチュアスポーツの典型である学生スポーツの商業化については、否定する方もおられると思います。全国の大学に共通の課題だと思いますが、今後どういう方向に行くべきでしょうか。
私もスポーツ庁で、大学スポーツのあり方を検討する委員会にいますが、政府としても、各大学で自走しなさいという方向です。強化には当然お金が要ります。合宿、試合、寮生活。学生は授業料を払わなければいけないし、競技に集中すればするほどアルバイトもできなくなる。ご家庭の経済的負担は計り知れません。それをwin-winで企業さんと提携してお金をいただく行為は、けっして悪い事ではない。そもそも大学が文部科学省からもらっている補助金は税金です。それを各クラブに強化支援金として渡すのではなく、クラブが自分でお金をもらう仕組みを作っていくのは当然の文化だと思います。
竹田
そういう考え方について、大学教職員の皆さんの意識はどうなのでしょうか。
20数年前、私は中国電力という一般企業から大学に来て、文化の違いを大きく感じました。今でも私の考えについて否定派の人も、一定数います。当然だと思います。でも自分の主義主張を言い続けていくと、不思議なもので味方も増えてきて、今では多くの人が私に賛同してくれるようになりました。ただ意識レベルを変えるには、時間はかかると思います。
小原
確かに行き過ぎた商業主義は大学スポーツにとって好ましくないと思いますが、一定のルールと透明性を担保して、例えば企業からお金をいただき学生をサポートすることは、私はけっして間違っていないと思います。ただ、その前提条件が必要です。両大学ともキリスト教主義の大学なので、そこに立ち返ってお話をしたいのですが、寄付の文化は欧米では当たり前に根付いています。これはキリスト教と非常に深い関係があります。困っている人に対して、持っている人が持っているものを与えていく。同志社大学ができたのも寄付のおかげなんです。新島襄がアメリカで、日本に帰ったらキリスト教の学校を作りたいと演説し、寄付を求めた。その熱い思いに応えてお金が集まり、同志社開校の資金になりました。それを考えると、今本当に支援を必要としている学生一人ひとりの可能性を伸ばし、育むために使うのであれば、寄付というものを十分ポジティブに考えていいと思います。
理念を中心軸に置くことが非常に大切ですね。その上で資金と普及と勝利という3要素の好循環が、組織をより良くするのだと思います。

スポーツ強化につながる組織・制度づくり

竹田
原監督はもう青山学院大学で十分に成果を出されましたので、例えば同志社大学に駅伝部を作ったら監督をしてくださいますか。
駅伝を目指す高校生は5000mが力の指標ですが、全国ランキングの100番まで、ほぼ全員が関東の学園に行っています。ですから同志社さんが箱根駅伝に未来永劫出られない状況なら、いくら長距離を強化しても無理です。やるのであれば、女子駅伝部を強化した方がいい。大学経営の一助にするためには、やはりメジャースポーツの強化は必要です。仮に箱根駅伝が全国化されたときは、私は一番に同志社で監督をやりたいと言いますよ(会場拍手)。その代わり、勝てない場合は組織と個人、どちらに問題があるのかを特定しないといけません。私が監督になったとしても、スポーツ推薦もグラウンドもお金もなければ、それは勝てませんよ。ある程度の項目をお願いして実現していただけるのであれば、7年で箱根駅伝、優勝させます。それだけポテンシャルの高い大学ですし、関西には優秀な高校生がいっぱいいますから。
竹田
本学はまず、何をすればいいですか。
まずはスポーツ推薦制度です。箱根駅伝で言えば、10区間を走るので最低8名、理想は10名必要です。4学年で40人。そういう特別スポーツ推薦制度を設計していく。ただし強化するクラブだけでなく、大学全体としてバランスを取るため、言葉は悪いかもしれませんが、マイナー競技にも最低限のスポーツ推薦制度は設けるべきです。
小原
私たちも、もちろんスポーツ推薦制度は持っているのですが、学部ごとで実施しており、全学的な調整が事実上できていません。スポーツを強くしたいという思いはあっても、一朝一夕にできるものではありません。組織・制度もしっかりと作っていかなければなりませんね。
強化指定部で本気で全国で戦おうと思ったら、人・モノ・金・情報が必要です。スポーツ推薦制度で選手を採る、監督・コーチを大学が雇用する、そして施設の充実。それなくして強くなれる時代ではありません。受験生たちには選択肢があるわけですから、ライバル大学と比較する視点が必要です。
小原
箱根駅伝が本当に全国化されれば、それは新しいスポーツの誕生ですね。そのために原監督は尽力されていますので、期待したいです。
今、大学女子駅伝は名城大学が一強です。関西は立命館が強いですね。悔しくないですか。京都には全国ネットで勝てる文化があるんですから。
竹田
私が原監督の好きなところは、一極集中でなく、スポーツによる地域創生を一生懸命されているところです。そういう意味で原さんには地方の大学の活性化のため、スポーツを通じてぜひ活躍していただきたいと思っています。皆さん、本日はありがとうございました。
関連情報 同志社大学公式YouTubeチャンネル
当日の様子(動画)は上記リンクよりご覧ください。