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スポーツが切り拓く未来社会~同志社大学におけるスポーツの意義~

同志社創立150周年記念(大学事業)公開シンポジウム

第1部パネルディスカッションの様子はこちらからご覧ください

150th記念シンポジウム_スポーツ3.jpg     (113126)
左から、飯田所長、安久 詩乃氏、朝原 宣治氏、田中 希実氏、林 敏之氏

第2部 パネルディスカッション テーマ

大学におけるスポーツ環境を考える

パネリスト

  • 安久 詩乃 氏 株式会社堀場製作所、2022年アーチェリーワールドカップ第3戦パリ大会 女子リカーブ個人優勝
  • 朝原 宣治 氏 大阪ガス陸上部副部長、2008年北京オリンピック 銀メダリスト(4×100mリレー)
  • 田中 希実 氏 ニューバランス、東京2020・パリ2024オリンピック 日本代表(陸上1500m,5000m)
  • 林 敏之 氏 NPO法人ヒーローズ会長、元ラグビー日本代表キャプテン

コーディネーター

飯田 健 同志社大学学生支援センター所長

自主性を重んじる風土で成長できた一方で、アスリート学生への支援が課題

飯田
ここからは同志社スポーツの良い点と課題を話し合い、将来を議論できればと思います。まず同志社スポーツの良いところを、ご自身のご経験などを通じてお願いします。
安久
私の所属していた体育会アーチェリー部は、かなり自由度の高いクラブでした。学生が目標を設定し、そこへ向かってどうアプローチをして取り組んでいくかを重要視していました。自分たちで考えてチームを引っ張るところが非常に特徴的で、私にとっては一番学びが大きかったです。
朝原
私も同じです。いい意味で自由な感じですね。専門家がいないため、学生たちが工夫をして頑張っていました。トップを目指す人もいれば、適当にやっている人もいた。私はもともと、キャンパスライフを楽しみながらスポーツをしたかったので、それは良かったかなと思います。
田中
私は体育会には所属せず、独自にコーチを持って同志社で陸上を続けさせていただきました。ただ朝原さんがおっしゃった通り、体育会は自由な雰囲気だったので、そこでも私の持ち味を出しながら、のびのびと活動できたのかもしれません。でも、より世界を見据えてやっていくとなったとき、体育会から離れて頑張ってみようと思いました。ただ、1年生で世界陸上に初出場できた際は体育会陸上部の方たちに壮行会を開いていただくなど、同じ陸上競技、同じスポーツを愛する人の力を、同志社で学べました。
ラグビーが非常に華やかな頃だったので、大学ラグビーで日本一になりたくて進路を考えていたとき、恩師の岡仁詩先生(※ラグビー部元監督)に出会いました。優勝できるチームだよと言われて入学したわけですが、練習は非常に自主的でした。全体練習は長くなく、あとは個人トレーニングという形が根付き出した頃です。それでも入部1,2カ月で体重が15キロ落ちるほど練習は厳しく、日本一の夢を追って一生懸命やった4年間でした。
飯田
皆さんのお話は「自主性」「自由」がキーワードですね。まさに同志社の教育理念の一つが自由主義ですから、当然と言えましょう。一方で、自由・自主の中で困難や課題もあったのではないでしょうか。
安久
自由度が高いのは長所でありながら、「勝つ」という意味ではすごく難しいものがあります。アーチェリー自体が日本では非常にマイナーなスポーツで、大学としても日本としても、あまり強化されていません。2022年に私はワールドカップで優勝しましたが、アーチェリーをしている方以外で、それをご存じの方はいらっしゃらないのでは。それぐらいマイナーなスポーツで、例えば監督やコーチの雇用がなく、そこで自由度が高いとなると、例えば一度日本一になっても継続が難しい。どうしてもOB・OGの負担がすごく大きくなってしまうと学生時代に思っていましたし、卒業してからより一層思うようになりました。
朝原
自主性や自由を重んじながらも、同志社大学はスポーツへの補助や熱がないわけではないし、体育も重んじている。けれど在学中は、それをあまり感じられなかったんですね。私はオリンピック選手になれるかどうかも分からなかったので、親の要望もあって同志社大学を選びました。入ってみると普通の学生と同様に扱われ、学費も普通に払う。普通の感覚でいられたのは自分にとって良かったです。ただ、単位取得は結構大変でした。陸上のサニブラウン選手はフルスカラーシップをもらってフロリダ大学に行きましたが、勉強面でも素晴らしいサポートシステムがあった。先ほど原監督が文武両道の話をされましたが、同志社でも大学のシステムとして文武両道をやらせてはどうでしょう。卒業後に競技だけではなく社会でも活躍すれば、寄付金もたくさんいただけるのではないでしょうか。
田中
私も勉強では苦労した記憶があります。まず、公欠制度がありませんでした。日本代表になれば2週間近く日本を離れるので、それ以外の大会や合宿への参加を抑えたり、毎週末遠征が続いたりと、文武両道は体力的にきつかったです。3回生でコロナ禍になってオンライン授業が導入されましたが、拘束時間にあまり変化はありませんでした。ただ、自分のタイミングでレポートを書いて提出すれば良い授業も増え、陸上に集中する時間は増えました。日本記録を初めて出すこともできたし、東京五輪でも安心して競技に取り組めました。
私の在学中、ラグビー部の学生は岩倉(京都市内)のグラウンドの横の寮で過ごし、午後3時頃から練習ができました。遅い時間の一般教養科目は欠席したりもしました。今は京田辺キャンパスに人工芝のラグビー場がありますが、地理的に昔のようにはなかなか集まれません。授業も遅くまであり、出席もしないといけない。チームスポーツにとってはかなり厳しい状況だと感じます。他大学は総合力で戦っています。お金もかけています。同志社大学は、その部分をなかなか変えられていません。
安久 詩乃氏
朝原 宣治氏

大学スポーツがもたらすもの

飯田
同志社大学はアスリートの学生に対しても、学業上の特典を与えていません。競技の障害になるかもしれませんが、スポーツだけでなく勉強もしっかりやって卒業したという自信にも繋がるのではと思います。田中さんは学業との両立が非常に大変だったそうですが、その中での学び、成長があれば教えてください。
田中
私が同志社大学を選んだのは、一つにはスポーツ健康科学部でスポーツ全般を学べる点に魅力を感じたからでした。その全般的な学びは、今すごく生きています。入学時はスポーツの価値を、経済的価値など目に見える部分で語らないといけないのではという意識もありましたが、入学後にスポーツ倫理学やスポーツ人類学などを学び、人間の根源的欲求としてスポーツがあることが分かってきた。その上で、根源的欲求に従いながらも、人間にしかできない判断や考え方を、頭ではなく心で感じられるのがスポーツであることを学べたと感じています。
飯田
まさにそれが同志社として、スポーツをする学生さんに望んでいることです。話は変わりますが、メジャーなスポーツの勝利が大学に与える影響についてはいかがですか。例えば林さんは、大学選手権での優勝に貢献されました。
満員の国立競技場で決勝を戦い、優勝したいと憧れていました。私がキャプテンのときは優勝できなかったのですが、その後3連覇。同志社の皆さんに、旗を振って応援していただきました。ラグビー自体がまた、熱いスポーツなんですよ。負ければ悔し泣きをし、勝てば喜びの涙を流す。スタンドにいた同志社の皆さんやラグビーファン、テレビ観戦していただいた人も同じ感情を抱き、一つになったのではという気がします。これほど同じ感情を共有して人間同士が近づくことは今、ないのでは。とめどなく涙があふれるのは、人間にとって真実の瞬間だと思うんです。それをラグビーというスポーツの中で幾度も感じさせてもらい、皆さんも共感してくれたのではという気がします。
田中 希実氏
林 敏之氏

大学に可能な支援を考える

飯田
おっしゃる通りですね。ラグビーが強くて盛り上がると、おそらく大学全体が一つにまとまります。卒業生との、縦の繋がりもできる。アイデンティティの醸成という意味では本当に重要です。ただ、強さが前提です。先ほどサニブラウン選手の例が出ました。アメリカの大学では巨額のお金が動き、奨学金制度だけでなく施設も非常に充実しています。一方で、卒業できない学生が多いという問題がある。特にアメリカンフットボールなどでは、1年生で中退してプロへ行くケースもある。卒業を前提とせずに入学することがあると、教育としてどうなのかという問題もあると思います。
朝原
まずNCAA(National Collegiate Athletic Association、全米大学体育協会)の仕組として、学生なのでスポンサーを得てはいけないし、試合に出るのが学生の役割です。加えて、スポーツをする時期と勉強する時期とをしっかり分けている。破るとペナルティがあります。もっと強くなりたい人はサニブラウン選手みたいにプロになっています。休学してプロになり、また大学に戻ってくる人もいます。それを今後、日本が真似するのかどうかは、ちょっと分かりません。私は在学中はオリンピックに出場していません。どんな道筋で行けばいいのかも分からなかった。たまたま大学3年生で100mの日本記録を出して企業に就職し、海外に留学できたので、そのあたりからやっと世界を見据えて競技ができるようになりました。学生時代は身体が一番成長するときなので、将来に役立つ情報が在学中にあれば、もっと早いうちに世界を目指していたかもしれない。スポーツを強化している大学では、やはりその道筋が見えているのだと思います。
飯田
本日は皆さんに先輩のロールモデルとしてお越しいただいていますが、在学中はそのロールモデルがなかったということですね。安久さんのアーチェリー部は古くからの名門です。世界を目指すという意味においては、先輩などのネットワークはありましたか。
安久
そうですね。監督もオリンピックでメダルを獲得されている方(道永 宏氏、モントリオール五輪 銀メダリスト)ですし、先輩方にもオリンピアンが多くいらっしゃいました。その方々が大学に練習を見にきてくださる機会があると、皆で質問攻めにしていました。
飯田
大学の部活でありながら、世界を目指せるような環境にあったのでしょうか。
安久
それもありますし、マイナースポーツなので、トップだった卒業生がお一人いると、そこからどんどん輪が広がって、いろんな情報が得られる面はありました。これがメジャースポーツでも、何か応用できる部分があればと思います。

同志社に望む変化

飯田
同志社はどう変化していけばいいですか。
田中
私は同志社大学で学べて、陸上競技ができて卒業できたことで自信がつきました。そうした自信をつけるためにも、学生が主体的に取り組みたい事について要望を大学に出し、活動への支援を得られるような場を作っていただきたいです。大学と学生との間でしっかり意見を交換できる仕組があれば、学生も明確な理念を持って十分な活動ができますし、大学の理念をより強固にすることに繋がるのでは。私はコロナ禍でオンライン授業に助けられたので、アスリートの学生にはオンラインまたは対面式の、どちらの授業にも取り組めるようにもしてほしいです。
飯田
まさに学生の自主性を強調する視点をいただきました。朝原さんはいかがですか。
朝原
やはり、やるかやらないかだと思います。大学が強化するか、しないか。正直に言えば、今オリンピックを目指そうという陸上選手は、同志社には来ないです。ただ、息子がラグビーをやっている関係で、ラグビー復活は期待します。時間はかかると思いますが、ラグビーに特化して強化に成功すれば、憧れる人が出てきて、同志社ブランドも今とは違う力を持ってくるのではないでしょうか。
飯田
林さん、どうすればラグビー部は強くなれますか。
原監督(青山学院大学 陸上競技部)のお話を聞いて、明確だなと思います。青山学院大学の駅伝は20数年間、環境やスタッフを充実させてこられた。ぜひ同志社大学にも、環境を変えていく努力をお願いできたらと思います。
安久
スポーツは、する人だけでなく、観る人、支える人もいて成り立っています。観る人の割合が一番多いですが、そこのバランスがもっと整えば、さらに盛り上がっていくのかな。バランスを整えるという意味では、環境整備や広報という部分も大事にしていただければと思います。

学生時代にたくさん挫折して将来の糧としよう

飯田
スポーツをする人、観る人、支える人とは、2019年に制定された同志社スポーツ憲章に登場する言葉です。憲章の精神を理解していただき、非常に心強いです。体育会の現役の学生、あるいはそれを観る人、支える人としての一般の学生に対して、メッセージをお願いします。
安久
社会人になると、爆発的に悔しい思いや嬉しい思いをすることが減ってきます。でも私の大学時代は勝った経験より負けた経験の方が多いので、それがエネルギーになり、今もいろんな事に取り組めているのかなと思います。学生時代の挫折経験があったからこそ、いま正しく目標設定ができ、そこに向かって効率的に取り組めている。それは体育会とかは関係なく、学生の間だからこそできること。挫折経験を得るというのは、言い換えれば何かにチャレンジすることです。学生さんたちにはそういう経験をたくさん積んで、社会人になっていただきたいです。
飯田
まさに同志社スポーツ憲章が言うところの、スポーツ活動とは教育の場であるという理念ですね。
朝原
スポーツをしていると、外の世界がたくさん見られます。海外に出なくても、違う大学、地域へ行き、学校とは違う世界が見られる。私は大学2年でアメリカ遠征に行きました。大きな視野でスポーツに臨みたいと思うきっかけになり、その後オリンピックを目指すための海外留学へと繋がりました。スポーツは視野を広げるための、一つの装置。そういう人たちが集まると、大学以外にもネットワークが広がります。
田中
スポーツ以外でもいいので、学生の方には理念や志を大切にしてほしいです。今日は「知・徳・体」「する、観る、支える」という言葉がありました。同志社徽章のように、世の中はそれぞれが独立せず重なり合って成り立っているからこそ、中心となる自分の心、志をしっかり持ってほしい。目先の利益や名誉に走るのではなく、自由で独立心の旺盛な人でいてほしいです。
スポーツの良さとは、夢を描き、それに向かって自分自身が主体的に変容していきながら目標達成をしていくプロセスにあります。魂の奥底から湧き上がってくるエネルギーのもとを体験するのです。人間の根源の部分を活性化させてくれる感性教育をいうものを、私は非常に大事にしています。学生さんにはそういう体験を、ぜひスポーツを通じて意識的にしてほしい。私はたかがラグビー、されどラグビーと思い、そこを懸命に掘ってきました。一つの事を深く掘り下げることは大事です。そして同志社の素晴らしさは、在学中より卒業後に、より多くの同志社人と知り合う点にもあります。この親近感は素晴らしいですね。
飯田
世代は異なりますが、同志社の自主性や自由主義を垣間見ることのできるパネルディスカッションでした。大学側としてもこの良い伝統を深め、発展させるべく頑張らなければと感じました。今後とも同志社スポーツを見守り、ご支援いただければと思います。皆様、ありがとうございました。
関連情報 同志社大学公式YouTubeチャンネル
当日の様子(動画)は上記リンクよりご覧ください。