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民衆の心に潜む被害者意識が民主主義を劣化させる!?

~同志社大学 ガザ戦争と言論の自由を見つめる社会人博士学生の挑戦~(前編)

同志社大学大学院は、多様化・複雑化を増す社会課題に挑戦し、新たな領域の開拓やグローバルな活躍を目指す研究者を支援すべく、「同志社大学大学院博士後期課程次世代研究者挑戦的研究プロジェクト(SPRING)※」を実施しています。支援の対象となるのは、自由で挑戦的・融合的な研究に意欲的に取り組む博士後期課程の学生。そこには、社会人経験を研究活動へと結びつけている、リカレント教育で学ぶ学生も含まれています。

新聞記者としてキャリアを積んだ後にグローバル・スタディーズ研究科で学び、同プロジェクトの支援を受けながら研究に取り組む博士後期課程3年次生の樋口直樹さんに話を伺いました。

※本プロジェクトは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラムの採択を受けて実施しています。

2025年12月18日 更新
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グローバル・スタディーズ研究科 樋口直樹さん

イスラエルへの批判は「反ユダヤ主義」なのか?

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私は今、「内なる敵の創出:戦時下イスラエルにおける『反ユダヤ主義』言説と民主主義の劣化」をテーマとして研究に取り組んでいます。

2023年10月、パレスチナのイスラム組織ハマスなどがガザ地区からイスラエルを攻撃し、約1,200人を殺害、250人を拉致しました。これを発端にして始まったガザ戦争では、2025年10月の停戦までに、イスラエルの攻撃によってガザ地区だけで6万7,000人以上が死亡したと言われています。国際社会は再三、イスラエルに停戦を求めました。しかしイスラエルはなかなか戦闘を止めませんでした。「なぜここまで攻撃を続けるのか?」というのが、私の研究の出発点でした。

イスラエルという国を構成する中心的な民族であるユダヤ人は、長い歴史においてしばしば迫害を受けてきました。そのせいもあってか、民族として潜在的に被害者意識を持っていると言えるような一面があります。この被害者意識が、戦争の継続に何らかの関係性を持っているように思えるのです。

というのも、前述の通り国際社会はガザ地区におけるイスラエルの過度な攻撃を強く批判し、ジェノサイド(集団殺害)だと指摘している国もあります。これに対してイスラエルは、自身に対する批判を「反ユダヤ主義」とみなし、不当な批判だと反論しているのです。ヨーロッパの国々はユダヤ人を迫害してきた歴史があるため、「反ユダヤ主義だ」、つまり「あなたはユダヤ人を差別している」と言われると批判のトーンを落とさざるを得ません。ホロコーストの歴史を持つドイツは特にそうです。イスラエルはこうした状況を政治的に利用し、国際社会からの批判を封じようとしているのです。

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同様のことは、イスラエル国内で政府を批判する人に対して起こっています。政府の戦争方針やパレスチナ占領政策に反対するユダヤ系イスラエル人が、反ユダヤ主義的な『内なる敵』だと見なされているのです。同様の現象はイスラエル国外でも起こっています。代表例はアメリカです。2024年4月、ハーバード大学でパレスチナ支援の大規模なキャンパスデモが行われました。このデモをトランプ大統領は「反ユダヤ主義」とみなし、連邦からの資金援助を停止しようとしました。本当の狙いは、イスラエル批判と反ユダヤ主義を同一視する政治的言説を利用して、自分とそりが合わないハーバード大学を黙らせることだったと言われています。このままでは言論の自由や良心の自由がゆがめられてしまいます。

一般的に民主主義は、ポピュリズムの台頭や権威主義的リーダーの出現に伴う選挙制度の改変、司法の弱体化、メディア統制などによって崩壊していくと考えられてきました。ヒトラーがその代表例です。しかし、主に民主制度の改変に注目してきた従来の脱民主化研究は、戦争や社会的トラウマといった外的ショックの作用まで十分に解明していません。そこで、戦時下における民族のアイデンティティや負の歴史にフォーカスして脱民主主義を考える現在の研究に取り組むことにしました。

SPRINGには随所に気づきと刺激があふれている

SPRINGの各種支援のなかで研究を加速させる大きな力となってくれたのが、40万円の海外活動費です。私はこの資金を、イスラエルとエルサレムでの調査活動に充てました。現地に赴き、ジャーナリストや人権団体、社会学系の研究者、教育者、兵役を拒否した予備役、そしてホロコーストからの生還者など合計30人にインタビューを行いました。彼らの多くは言論空間の最前線で活躍し、反ユダヤ主義言説の影響を受けてきた人たちです。SPRINGのおかげで、かねてより願っていた活動を実現することができました。

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エルサレムにて

SPRINGには、英語講座や採択を受けた学生同士の交流会など、経済面以外での支援プログラムも豊富に用意されています。それらは必須参加となっており、正直なところ、当初は「そんなことよりも研究に時間を充てたい」という思いがありました。しかし実際に参加してみると、いずれのプログラムにも必ず気づきや学びがありました。そして、自身の研究に活用できるヒントやアイデアを得ることができました。交流会では若い学生と意見交換ができ、さらに終了後は有志の二次会で個人的な親睦を深めることもできました。年齢に関係なく研究者のタマゴが集まり、互いの研究内容や課題意識を語り合うのはとても心地よいものでした。若い人たちに触発され、研究への思いを新たにできたのも、SPRINGの支援を受けているからだと言えるでしょう。

私のように企業に所属せず研究に取り組む社会人学生にとって、避けては通れないのが経済的な問題です。収入はほとんどなく、貯金に頼るしかありません。その点、同志社大学大学院では博士前期課程の2年間に対して特別奨学金制度が整えられており、学費に相当する返済不要の奨学金を受け取るチャンスがあります。これは非常にありがたい制度でした。

博士後期課程からはSPRINGに応募することができます。標準修業年限の連続する3年間を上限に支援を受けることができ、私は3年次から採択されました。月15万円の研究奨励費(生活費相当額)や40万円の研究費、最大40万円の海外活動費、さらに審査を通過することで受けられる競争型研究費30万円など、1年間だけの採択でも十分に手厚い経済的支援をいただくことができました。何より、貯金に頼らず生活できる安心感が大きかったです。

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