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「白血病」の治療薬開発に向け、新たな可能性を切り開く ~同志社大学 若き研究者の挑戦~(前編)

同志社大学は、多様化・複雑化を増す社会課題に挑戦し、新たな領域の開拓やグローバルな活躍を目指す若手研究者を支援すべく、「次世代研究者挑戦的研究プロジェクト(Spring! Doshisha)※」を実施しています。支援の対象となるのは、自由で挑戦的・融合的な研究に意欲的に取り組む博士後期課程の学生。研究活動に専念して研究力の向上を図ることができる環境の整備やキャリアパスの確保に向け、多彩な支援を一体的に受けることができます。2023年度からプロジェクトの支援を受ける、生命医科学研究科医生命システム専攻(分子生命化学研究室 西川喜代孝教授)博士後期課程2年次生の池上葵さんに話を伺いました。
※本プロジェクトは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラムの採択を受けて実施しています

2024年11月8日 更新
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生命医科学研究科 池上葵さん

既存薬の問題を克服した慢性骨髄性白血病の新薬開発に挑む

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研究の対象は慢性骨髄性白血病(CML)です。この病気は「血液のがん」の一種で、未成熟な白血球であるCML細胞が異常増殖し、正常な白血球が減少するものです。正常細胞では、細胞増殖を誘導するチロシンキナーゼと呼ばれる酵素の活性化は厳密にコントロールされていますが、CML細胞ではBCR-ABLという異常融合たんぱく質が原因となって常に活性化された状態となり、CML細胞の異常増殖を引き起こします。現在、この活性化を特異的に阻害するチロシンキナーゼ阻害薬という治療薬が使用されています。ところが、BCR-ABLが変化すると治療薬への耐性が表れてしまいます。また、CML細胞の元となる幹細胞には効果がないため、再発の可能性が残ってしまいます。これらの問題を解決する方法を、私たちの研究室では模索しています。

私たちが注目したのは、BCR-ABLの中のPHドメインと呼ばれる領域です。PHドメインはミトコンドリアのカルジオリピンというリン脂質に結合することがわかっています。この性質により、一部のBCR-ABLはミトコンドリアに移行します。そこで、「BCR-ABLのミトコンドリアへの移行を阻害したらどうなるだろう」という発想が生まれ、それを可能にする多価型ペプチドを開発しました。この多価型ペプチドをCML細胞に添加すると、CML細胞の増殖が抑制されることがわかったのです。ただし、どういったメカニズムで増殖が抑制されているかまではわかっていませんでした。そこで私が、そのメカニズムを解き明かす研究に挑戦することにしました。

研究ではまず、多価型ペプチドによるCML細胞の増殖抑制は、従来のチロシンキナーゼ阻害薬と同様に、アポトーシス(細胞死)を誘導することで引き起こされていることを明らかにしました。では、どのようにアポトーシスが起こったのか。それを調べるべく、多価型ペプチドを添加した細胞の遺伝子発現の変動を網羅的に解析しました。その結果、多価型ペプチドによるアポトーシスは、チロシンキナーゼ阻害薬とは異なるメカニズムで誘導されていることが明らかになりました。このことから、PHドメインとカルジオリピンの結合を阻害し、ミトコンドリアへの移行を阻害することでCML細胞増殖を抑制する多価型ペプチドは、チロシンキナーゼ阻害薬の問題を克服した新規治療薬となる可能性が示されたのです。

時間とお金の両面で、研究に没頭できる環境を獲得

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研究室にて

学部時代は、生命科学分野の研究に興味はあったものの、博士課程まで進むとは思ってもいませんでした。3年生のとき、「周りのみんなもしているし」といった程度の軽い気持ちで就職活動をしたところ、学部卒では理系らしさを感じられる仕事には就きにくいという現実に直面しました。そこで修士課程への進学を決意。でもそのときも、「理系の学生はほとんどが修士に進むから」ぐらいの気持ちでした。

本格的に博士課程に進むかどうかを考えたのは、修士1年次で再び就職活動をした時です。希望していた研究職に就くには、博士課程を修了しておくべきだと知りました。また、取り組んでいた上記の研究が道半ばで、「この状態で手放していいの?」という気持ちも大きかったです。年齢的な不安もありましたが、「研究に区切りをつけるまではやりきりたい」という思いが勝り、博士課程に進むことにしました。

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プロジェクトについては以前から知っていました。研究室の先輩に、採択されて支援を受けている人が何人かいたからです。博士課程に進むにあたっては、「可能なら私も利用したい」と思い、修士2年次の終わりごろに応募しました。

プロジェクトに採択されたことによる一番のメリットは、時間とお金のゆとりができたことです。修士課程時代に私は、毎週土曜日の午前中だけアルバイトをしていました。わずかではありますが、生活費などをまかないたかったからです。しかし研究が進めば進むほど、もっと研究に没頭したくなりました。限られた時間とはいえ、アルバイトに費やす時間が惜しく感じるようになったのです。プロジェクトでは、年間40万円の研究費に加えて、月額15万円の研究奨励費が支給されます。この仕組みのおかげで生活費を気にする必要がなくなり、すべての時間を研究にあてられるようになりました。支給いただいた研究費は、試薬や実験機器の購入などにあてています。

私の研究で使う試薬は、実はとても高額です。プロジェクトによる支援のおかげで、それまでよりお金の心配をすることなく存分に実験ができるようになりました。このほかにも、海外で活動するための費用も支援いただきました。このお金は、2025年3月にパリで開かれる国際学会に参加するための資金として活用する予定です。