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超音波で筋肉の衰えを予防し、健康寿命の延伸に貢献
~同志社大学 若き研究者の挑戦~【後編】
超音波で筋肉の衰えを予防し、健康寿命の延伸に貢献
~同志社大学 若き研究者の挑戦~【後編】
装置の開発に取り組み、起業を目指す
これまでにも超音波は、医療現場で利用されてきました。例として、検診などに用いるエコーや骨折の治療に用いる機器があります。これらが診断・治療目的であることに対して、私の研究成果は予防を目的に利用できる点が画期的なポイントです。 また、体の一部に超音波を当てることで、全身への効果が期待できることもユニークな点です。現在は筋力低下の予防をターゲットとして研究していますが、活性酸素は生活習慣病をはじめとする様々な病気に関わっているため、生体の抗酸化能を向上させることに取り組む私の研究は、様々な病気の予防へつながる可能性があります。超音波による抗酸化能の向上のメカニズムが解明できれば、超音波を用いた医療の可能性は大きく広がるはずです。
今後の目標としては、実際に医療現場などで活用できる装置の開発を目指しています。この目標に向けて、我々の研究室では、本学生命医科学部の秋山いわき教授と連携し、すでに取り組みをスタートさせており、起業も目指しています。現在、研究と並行してビジネスプラン作りも進めています。装置開発やビジネスは私たちの専門とは異なる分野なので、試行錯誤しているところではあるのですが、多くの人と協力しながら研究成果を社会実装にまでもっていき、世の中に貢献したいと思っています。

研究に集中しやすい環境がそろっている

博士後期課程での学びや研究を行ううえで、同志社大学は非常に恵まれた環境です。例えば、装置開発をはじめとした学内の他分野との共同研究については、学内のリエゾンオフィスが橋渡しをしてくださいます。私は学部と修士(博士前期)課程はそれぞれ他大学に在籍していました。現在の研究は修士時代から取り組んでおり、博士後期課程に進むことも可能でした。ですが、進路変更をした理由は、同志社大学の博士後期課程には学費免除の制度があったからです。これは、研究に打ち込むうえでとてもありがたい制度です。
現在、Spring! Doshishaに採択されているので、さらに様々な支援を受けています。このプロジェクトにも金銭的支援の仕組みがあり、アルバイトなどをすることなく研究に集中する毎日を送ることができています。私たち若手の研究者にとって、やはりお金は大きな課題です。学費や研究費をまかないたいと思ってアルバイトをすると、かえって研究の時間や学会に参加する時間が削られるという、本末転倒な結果になりかねないのです。その心配から解放されていることが、何よりもありがたいです。
Spring! Doshishaでは、海外での活動に向けた支援もあります。私は、アイルランドで行われた学会での口頭発表の際には、そこに向けた英語のトレーニングを受けました。トレーニングの相手は、研究内容についてはまったく知識をもっていない人です。フラットな視点から研究やプレゼンの内容について質問を投げかけてくれるので、実践的な質疑応答の訓練ができました。また、他のプロジェクト生のプレゼンテーションを聞く機会も自身のスキルアップにつながっています。
Spring! Doshishaの採択を受けたことで、同志社大学に在籍する他分野の若手研究者と交流する機会を持つこともできました。他大学出身者である私には、同志社大学の同級生は一人もいませんでした。それがプロジェクト採択を通じてつながりができ、大学のことや研究のこと、進路のことなど、気軽に話し合える仲間と出会うことができました。
研究分野はそれぞれ異なりますが、このプロジェクトで一緒に取り組んでいる仲間との交流も大事にしています。ともに研究者として切磋琢磨するのはもちろんですが、彼らとのネットワーク構築にも努めています。
研究者という職業はプロ野球選手のようなもの

博士課程修了後の進路はまだ決まっていませんが、まずは企業に就職して研究職に就く可能性が高いと考えています。そこで経験を積んだうえで、いずれはアカデミアに戻り、研究と後進の指導に取り組みたいです。
私は、大学教授という職業は一種の自営業であり、例えるならばプロ野球選手のようなものだと考えています。プロ野球選手も教授も、実績を認めてもらうことで所属先が決まります。プロ野球選手は、好成績を収めることで高い年俸を手にすることができます。教授も、論文を書いて学会発表をし、高評価を得ることで研究費を獲得することができます。やりたいことができる舞台を、自分の頑張りによって作り出すという点がよく似ているのです。
限界に向けてチャレンジすることが、その後の体験の質を高める

私が博士後期課程への進学を決めたのは、修士時代のリレー講義がきっかけです。その日、講義を担当した講師の方は、「博士とは、世界共通の『これ以上は上がない学位』だよ」と話されました。また、「海外の企業がほしがる人材は修士ではなく博士だ」とも付け加えました。この言葉を聞いて、「せっかく修士まで来たのだから、一番上までいこう」と思い、博士後期課程への進学を決めました。今、理系では修士(博士前期)課程に進学する学生が増えています。でもせっかくなら、博士後期課程まで目指してほしいです。特に海外で働くことに興味がある人は、ぜひ博士学位を取得しておくべきだと思います。
学部生の方には、授業や実験で興味を持ったテーマについては、先生に話を聞きに行くことをおすすめします。実験などで助手を務めている、大学院生のティーチングアシスタントに「あの先生はどんな研究が専門なのですか?」とたずねるのもいいでしょう。先生も大学院生も、自分たちの研究分野に興味を持ってくれる人は大歓迎です。きっと優しく丁寧に教えてくれるはずです。そうやって一歩踏み込んで情報を集めることで、興味にマッチする研究室選びができるはずです。
大学受験を控える高校生の方には、「限界まで頑張ってみて」とお伝えしたいです。努力し、頑張って進んだ大学で出会う同級生や先輩は、きっと皆さんにたくさんの刺激や学びを与えてくれます。逆に、安易に決めた進学先では、そういった出会いは限られがちです。受験勉強は大変かもしれませんが、その苦労の先にこそ、思い描いたような充実した大学生活が待っているはずですよ。