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葉っぱビジネスが女性の社会参画を後押しし、地域を変えた~同志社大学 若き研究者の挑戦~(前編)
葉っぱビジネスが女性の社会参画を後押しし、地域を変えた~同志社大学 若き研究者の挑戦~(前編)
同志社大学は、多様化・複雑化を増す社会課題に挑戦し、新たな領域の開拓やグローバルな活躍を目指す若手研究者を支援すべく、「同志社大学大学院博士後期課程次世代研究者挑戦的研究プロジェクト(SPRING)※」を実施しています。支援の対象となるのは、自由で挑戦的・融合的な研究に意欲的に取り組む博士後期課程の学生。研究活動に専念して研究力の向上を図ることができる環境の整備やキャリアパスの確保に向け、多彩な支援を一体的に受けることができます。同プログラムの支援を受けながら研究に取り組む、総合政策科学研究科総合政策科学専攻博士後期課程2年次生の井上まこさんにお話を伺いました。
※本プロジェクトは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラムの採択を受けて実施しています。
女性のエンパワーメントが地域を活性化させる
私の主な研究の領域はサステナビリティとジェンダーです。現在は「女性のエンパワーメントによる地域活性化モデル構築に関する研究」というテーマで研究に取り組んでいます。研究の舞台は徳島県上勝町です。徳島市から約1時間の中山間地域にある上勝町は、面積の約85パーセントが山林であり、2026年7月現在の人口は1,265人で年々減少し続けており、町民の半数以上は65歳以上の高齢者という少子高齢化社会です。かつての上勝町は、林業や稲作が主要産業でしたが、時代の変化とともに不採算事業となっていき衰退していきました。
その後、1960年頃からは、収益の見込めるみかんを栽培するようになっていき、上勝町に大きな経済効果をもたらしましたが、果物の輸入自由化により、みかんが生産過剰になったことで価格が暴落してしまい、生産調整を余儀なくされました。そのような状況の中、1981年2月に異常寒波が上勝町を襲い、ほとんどのみかんの木は枯死し、被害総額は25億円にのぼったと言われています。この異常寒波をきっかけに、上勝町のみかん栽培もまた急激に衰退していきました。
このような状況のなかで誕生したのが「葉っぱビジネス」です。ここで指している「葉っぱ」とは、日本料理に彩りを添える、モミジやナンテンなどの「つまもの」のことで、当時営農指導員としてご活躍されていた、横石知二氏によって開始されました。季節を先取りして栽培し、丁寧な商品管理に取り組んだことで、市場から大きな支持を得ることに成功しました。
また、全国の農村地域でも見受けられていたように、かつての上勝町では伝統的な性別役割分業が存在していました。これは、男性が家庭外で働くことで家計を支え、女性は家庭内において家事や育児を担当するという考え方です。そのような状況の中、葉っぱビジネスは特に高齢女性を担い手とする形で開始されました。これは、横石氏の「女性に"出番"と"役割"をつくることが重要である」という考えが根底にあります。葉っぱビジネスが始まる前の上勝町の女性は、家事中心の生活を送っており、その姿を見た横石氏は、「毎日頑張ることができる」という高齢女性の「埋もれた能力資源」を、家事だけではなく仕事に発揮することができれば、女性自身が収入を得る機会につながるのではないかと考えていました。
また、軽くて小さいという商品の特性が、女性にとって取り組みやすかったこともその一因です。「葉っぱが売れるのか?」という懐疑的な声もあったなかで、横石氏の熱意に打たれた4軒の花木農家が協力してくれることになり、1986年に初めて出荷することができました。その後、 徐々に女性を中心に協力してくれる農家が増え、事業規模の拡大により、1988年には44世帯の生産者が農協の管轄組織 「彩部会」として結成されました。その後も葉っぱビジネスは町内で広がりを見せていき、現在では年間の売上が約2億6,000万円規模のビジネスに成長し、なかには年間1,000万円を売り上げる女性生産者も登場するほどになりました。
これまで、このような上勝町独自の取り組みに関する研究は、多岐にわたって行われてきました。特に、葉っぱビジネスという新たな産業におけるビジネスモデルの構築やイノベーション、起業家の存在に関する研究が多くされてきました。ですが、そもそも女性が葉っぱビジネスの主役であったことこそが、現在に至るまでの上勝町の成功に直結する要因になったのではないかと考え、女性のエンパワーメントという視点から上勝町を捉え直すためにも研究を進めています。
博士前期課程では、仮説検証を行うための独自のロジックモデルを構築し、葉っぱビジネスを起点とした女性エンパワーメントのプロセスの整理と、その女性エンパワーメントが地域経済・社会にどのような影響を与えたのかインパクト評価を用いて分析しました。女性エンパワーメントについては、女性が葉っぱを栽培・出荷するだけでなく、農協の「彩部会」において女性が部会長を務めるなど、葉っぱビジネスにおける部会活動が盛んになりました。当時、部会長を女性が務めるのは異例であり、これは特筆すべき事例でした。
また、女性が家庭外で自ら働き収入を得るようになったことで、 何か買い物をしたいときにも、自分のお金で自由に好きな物を買えるようになりました。このような流れから、葉っぱビジネスへの参加を通じて、女性が主体的に行動する機会が広がり、自身の能力を発揮するきっかけとなりました。
このような葉っぱビジネスによる女性エンパワーメントは、地域経済に大きな影響を与えました。特に、上勝町全体の農業が年々落ち込んでいく中、葉っぱビジネスは売り上げを更新していたため、町内の経済に葉っぱビジネスが大きく貢献していたことが分かりました。また、地域社会に対する影響も非常に大きく、葉っぱビジネスが開始する前は、男性が「みょう会」と呼ばれる町内会に参加し、町内の意思決定に関わっていました。女性は「婦人会」という別組織に所属し、町内行事の料理作りや花壇の整備などを担っていました。 そのような中、葉っぱビジネスが開始した後に実施された「いっきゅう活動(地域課題の解決に住民が主体となって取り組む活動 )」には、性別や年齢関係なく参加できる体制が整えられ、多くの女性が地域の公の取り組みに積極的に参加するようになりました。葉っぱビジネスの成功は、地域社会におけるジェンダー構造の変化を促進した要因の一つであり、従来は男性が中心であった地域の公的な活動にも、女性が主体的に関わる土壌を形成するきっかけになったと言えます。もし葉っぱビジネスが誕生していなれば、「みょう会」のような男性中心の会合が地域の意思決定を担い続け、女性の参画は現在とは異なる形になっていた可能性があります。
また、現在は葉っぱビジネスだけでなく、ゼロ・ウェイスト政策という取り組みも、上勝町において注目を集めています。この取り組みは、廃棄物そのものを出さないことをモットーとしている活動で、現在は町内で43分別で廃棄物処理を行っています。この政策は、もともと上勝町が廃棄物処理に関する課題を抱えていたことも背景にありますが、いっきゅう活動でも議題に挙げられ、政策が始まった頃から現在に至るまで、行政・民間の両サイドで女性が活躍しています。
加えて、このゼロ・ウェイスト政策をベースとした新たなソーシャルビジネスも多数誕生しており、葉っぱビジネスは経済的再生にとどまらず、地域活動への参加のあり方を変化させ、男女を問わず参画可能な体制の形成に寄与しました。
以上が、博士前期課程で取り組んだ研究なのですが、本研究は、上勝町単一の事例分析にとどまっていたことが今後の課題として残りました。そのため、博士後期課程に進んだ現在は、上勝町の事例は再現性があるのか、他の国内外の事例を取り上げながら、理論的・実証的に検証しています。現在新たに調査している地域は、岩手県大槌町とウガンダのObumwe村です。岩手県大槌町では、東日本大震災直後に認定NPO法人テラ・ルネッサンスによって開始された、被災地における女性の心理的ケアとコミュニティ創出を目的に開始された「大槌刺し子プロジェクト」に着目しています。同プロジェクトは、生活維持のための手仕事から始まり、現在は「SASHIKO GALS」というブランドへと発展を遂げています。本事例は、震災直後の緊急的なケア労働や日常の営みが、女性のエンパワーメントを通じて持続可能な経済活動や地域レジリエンスへと昇華していくプロセスであり、「上勝モデル」との高い共通性・再現性を見出せています。また、ウガンダのObumwe村は、エコツーリズムを通して地域発展を促しており、村全体で女性エンパワーメントが起きています。上勝町の事例を認知しており、上勝町をモデル事例として掲げていることから親和性が高いです。これらの新たな事例をもとに、上勝町の事例が一般化できるのか検討を進めています。