“D”iscover -Opinion-


コミュニケーションの所作を解き明かせば、人と社会が見えてくる(後編)
石野未架准教授
先生としての悩みから生まれた会話分析への興味
私は一時期、高校で英語教諭として働いていました。もともと海外や語学に興味があったことから、企業での勤務と大学院修士課程での学びを経て教員になったのですが、いざ教える立場になると大変でした。というのも、授業がうまくできないのです。クラスにいる40人ほどの生徒の意識を、授業に向けさせることがなかなかできませんでした。思うに任せない状況に、チャイムが鳴ってもすぐには教室に入らなかったこともあります。今思えば、ますますクラスをマネジメントできない状況を作り出していたのです。
そのようななかでもなんとかしたいと思い、経験豊富な先生の授業を見させてもらう場を設けていました。自分との違いや、「なるほど!」と思う気づきをたくさん得ることができました。するとクラス運営の分析の方がおもしろく思えてきたのです。結果、博士課程に進学して会話分析の研究にとりくむことになりました。
成果を世界に向けて発信し、国を超えて共に研究する
研究成果は意識して海外向けに発信するようにしています。特に力を入れているのは、世界から信頼と注目を寄せられている国際学術誌に論文を発表することです。そういう雑誌に掲載されると、国内の学術誌に掲載された場合に比べて、より多くの研究者の目にとまる確率が飛躍的に高まります。また、より自分の研究内容を理解する査読者に論文を読んでもらえる可能性も高まり、鋭い査読コメントがもらえることがあります。そして、刊行後は思いもかけないところから何らかのリアクションが寄せられることも多いのです。その中には「一緒に研究をしましょう」という共同研究の呼びかけもあります。こういった論文投稿のプロセスや刊行後のつながりが楽しくて国際誌への投稿にこだわっているかもしれません。
とはいえ、論文の掲載・公開には費用がかかります。注目度の高い学術誌ほどその額も大きいです。そこで助かるのが同志社大学の支援制度です。本学には、分野別のトップ10%と認められている学術誌に論文が掲載された場合、論文掲載公開料を全額支援してくれる制度があります。また、英文リリースを作成してくれたり、世界最大規模の科学ニュースリリース配信プラットフォームにリリースを掲載してくれたりする支援制度もあります。
さらに国際共同研究の実施にあたっても、様々な形で力を貸してもらえます。現在取り組んでいるスウェーデン、韓国との3カ国共同研究においても、助成金獲得の面などで手厚いサポートをうけることができます。
余談になりますが、同志社大学が京都にあることも、海外の研究者との交流や共同研究を行ううえでは大きなアドバンテージになります。海外の方にとって、京都はぜひ訪れてみたい人気の場所の一つです。こちらの拠点が京都だとわかると、「じゃあ今度、そっちへ行くよ」と言ってくれる研究者もいるぐらいです。自身の研究成果を京都の地から発信できること、そして海外の研究者が集まってくれることを強みとして研究ができることを誇りに思っています。
教育と医療への貢献を目指す
現在取り組んでいる3カ国での国際共同研究をさらに発展させることが、これからの大きな目標の1つです。そして、ここで得られた知見を教育現場に還元していきたいです。
医療現場での会話分析にも取り組んでいきます。病院を訪れる患者さんのなかには、検査をしても何も異常が見つからない人もいます。「病は気から」ではありませんが、痛かったり具合が悪かったりするのも、精神的な問題からくる「気のせい」のことがあり得ます。とはいえ、その事実をありのままに伝えても、患者さんはなかなか納得できませんし、安心できません。このようなケースにおいて、医師がどのような声かけや説明をすれば患者さんを安心させられるかを研究しています。今研究しているのは、そういった患者さんに医師が「いるんですよね。検査で異常は出ないけど、痛みが現れる人って」というような言葉をかける実践です。この言葉をかけてもらった患者さんは、「自分は特別じゃないんだ。よくあることなんだ」と、自分を納得させ安心させることができます。また、一方で「自分の症状が軽視されている。この医師はきちんととりあってくれない」ととらえる患者さんもいるでしょう。私がみている事例では前者のほうが圧倒的に多いのですが、今はそれがなぜなのか、そのメカニズムを会話分析によって解き明かそうとしているところです。こういった医療場面の会話分析研究にはすでに多くの知見が蓄積されていて、一部の研究はダイレクトに患者さんの満足度の向上や医師の負担低減といった実践的な課題に役に立つものもあります。
このように、会話分析は今、多様な分野で活用が期待されている研究です。興味がある人にはぜひチャレンジしてもらいたいですし、すでに学び始めている人は、自分を信じてその道を歩んでいってもらいたいです。「実社会に還元する」という気持ちを忘れずに取り組めば、きっと素晴らしい成果と出会えるはずです。
私がアカデミアの道を選んだ理由の1つに、「世界とつながる仕事をしたい」というものがあります。海外で開催される学会に参加したり、国際共同研究を行ったりと、その思いは今、実現できています。実はアカデミアは、世界とつながっている仕事なのです。国際的な仕事や海外と関わる仕事に興味がある人は、アカデミアも1つの選択肢だと知っておいてもらいたいです。
同志社大学のグローバル地域文化学部は、世界各国の歴史や文化、社会を学びと研究の対象にしています。高校の授業でいえば、世界史の授業をもっと掘り下げたような学びです。世界史好きの人にはぴったりな学部です。学生はみんな、異なる文化や未知の体験といった、“外”に対して好奇心旺盛です。学内には海外からの留学生がたくさんいて、日常的に異文化体験ができます。そういった環境で、なおかつ京都という日本の歴史や伝統を間近に感じられる場所で学生生活を送りたいという人は、ぜひグローバル地域文化学部で共に学びましょう。