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“D”iscover -Opinion-

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マイクロプラスチック問題に風穴を開ける!
~生体親和性サステイナブルポリエステルの開発~(後編)

2024年6月25日 更新
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科学リテラシーの向上が重要課題

もちろんまだまだ課題があります。まず対応していきたいのが、環境負荷が大きい化学修飾のプロセスを改善することです。2024年度中に新たな合成方法を確立したいと考えています。それらを含めて、3年をめどに技術を確立することを目指しています。

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プラスチックに代表される高分子化合物の研究に携わる者としては、サイエンスコミュニケーションの重要性を感じています。情報を正しく発信する必要があるのです。

マイクロプラスチックによる海洋汚染が象徴するように、高分子は今、すっかり悪者にされています。では現代の私たちが高分子なしで生活できるかといえば、それは不可能です。私たちが理解すべきなのは、高分子は「諸刃の剣」であるということです。現代の暮らしに不可欠であるが、分解されずに環境破壊を引き起こすこともあると理解しなければいけません。そうすれば、ポイ捨てしようとはならないでしょう。同様に生分解性プラスチックにもメリット・デメリットはあるのです。自然に還るというメリットはありますが、すべての用途に使えるわけではありません。生分解性の材料で服を作ったとしたら、洗うたびにボロボロになっていきます。水族館の水槽はアクリルで作られています。アクリルも高分子です。これが仮に生分解性だとしたら大変なことになります。

私たち研究者はメリットだけでなくデメリットもきちんと伝えていく必要があります。情報を受け取る人も両面を理解し、用途に応じた使い分けやデメリットを理解したうえでの適切な使い方を考えていかなければなりません。日本全体の科学リテラシーを向上させていくことが、これからの大きな課題だと感じています。 

無限の組み合わせから「有限の美」を生み出していく

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学校で学ぶ化学や理科が日々の暮らしにどれほど役立つかと言うと、ほとんどの人にとっては「まったく役立たない」と言えるかもしれません。しかしそれでも、学ぶことに意義はあります。なぜなら、正しい知識を得て、その知識を正しく使えるようになるからです。例えばある技術の負の側面ばかりを見てしまうと、誹謗ひぼう中傷やヘイトスピーチにつながりかねません。かといってプラスの側面だけに目が行ってしまうと、「えせ科学」を見抜けなくなる危険性もあります。メリットとデメリットの両方の知識を正しく得て、判断する力を養うことこそが、大学も含めた学校での学びの意義だと私は思います。

理系を志望する学生の中には、「実験をしたい」「研究がしたい」という人も多いです。しかし残念ながら、入学後3年間は高校までと同じような座学が学びの中心です。4年生になって研究室に配属されても、思うような成果が出ず意気消沈する学生も少なくありません。私は学生に、「研究を部活に置き換えて考えてみよう」と言っています。

研究室に配属される学部4年生は部活を始めた中学1年生のようなものです。できないことが多くて当たり前ですし、基礎練習が中心になるのも当然です。大学院の修士課程2年生が中学3年生、博士課程3年生だと高校3年生です。中学3年生と高校3年生ではできることに大きな差があります。焦らずに、長い目で研究と向き合ってもらえたらと思います。

私は、化学とは極めてクリエイティブな行為だと考えています。分子には無限の組み合わせがあります。その中から、化学の知識を用いることで狙った機能や性質を備えた組み合わせを生み出すことができるのです。これを私は「有限の美」と呼んでいます。これから先も、無限から有限の美を生み出していきたいです。また、有限の美を生み出してくれる研究者を育てていきたいです。

西村 慎之介 プロフィール

理工学部機能分子・生命化学科助教。2014年同志社大学理工学部機能分子・生命化学科卒業、2019年同志社大学大学院理工学研究科応用化学専攻博士(後期)課程修了。博士(工学)。九州大学先導物質化学研究所学術研究員などを経て2022年より現職。