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“D”iscover -Opinion-

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パーキンソン病の仕組みを解明し、予防薬・治療薬の確立を目指す ~iPS細胞を用いた再生医療の最前線~(中)

2025年9月1日 更新
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脳にも心臓にも細胞移植が行われている

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iPS細胞は2006年の誕生以来、様々な研究に活用され、再生医療の可能性を広げてきました。私の研究領域であるパーキンソン病については、2018年に京都大学が、ドパミン神経へと分化するiPS細胞由来の細胞を脳内に移植しました。7人のパーキンソン病患者を対象にしたこの治験では、重篤な有害事象が発生せず安全性が示唆されました。また移植した細胞はしっかりと脳内に定着し、ドパミンを産生しました。このことから、治療法としての有効性も示唆されました。現在、製薬会社が国への承認申請の準備を進めています。※

大阪大学などの研究チームは、心臓の太い血管が詰まって心筋が働かない「虚血性心筋症」の治療にiPS細胞由来の「心筋シート」を用いる研究を行っています。この治療法は、機能が低下した心臓に心筋シートを貼り付けることで、心機能の改善を目指すというものです。2020年から始まった治験では、患者は疲労感や動悸などの症状が軽くなり、半数以上は心機能の数値が改善しました。この結果などを受けて研究チームは、今年4月に心筋シートの製造・販売に関する承認申請を行いました。承認されると、iPS細胞を使う治療としては世界初になります。

このほかにも、慶應大学などのグループは脊髄損傷の患者に細胞移植をする臨床研究を行っています。中国では糖尿病患者に細胞移植をする論文が発表されました。いずれも、従来は「治らない病気」とされていたものです。iPS細胞はそこに風穴を開け、「治る病気」にする可能性を持っているのです。

※取材時は準備段階でしたが、2025年8月5日、正式に承認申請が行われました。

「マイiPS細胞」の時代がやって来る

前述のとおり、α-シヌクレインが脳の中を伝播していることは確認できました。次の目標は、伝播することとパーキンソン病との因果関係を突き止めることです。なぜ伝播すると悪影響が生じるのか、どのようにして悪影響がもたらされているのかを解き明かすことで、パーキンソン病の予防薬や治療薬の開発へと結びつけていきたいです。

少し変わったところでは、「バイオロボットを作ろう」という話を工学分野の先生としています。工学分野で行われている筋肉を作る研究と、私が行っている脳神経系の研究を融合させるのです。これまでは考えもしなかったアイデアなのですが、異分野の研究が融合することでまったく新しいものを生み出す可能性がでてきました。1人ではできないような楽しいこと、ワクワクすることに挑戦し続けることも、今後の目標です。

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私が大学生だったころ、薬と言えば化合物でした。それが今では、抗体、すなわちタンパク質が薬として用いられる時代になりました。iPS細胞を用いた治療が定着すれば、細胞が薬という位置付けになります。新型コロナウイルス感染症ではmRNAワクチンが用いられました。その他にも遺伝子治療に関する研究も進められています。このように薬や治療の位置付けは大きく変わりました。今後も変わっていくでしょう。「自分の細胞で自分を治す」という時代も現実味を帯びています。iPS細胞を作るために必要なコストも下がっていくでしょう。「マイiPS細胞(自己由来iPS細胞)」を用意しておくことも、夢物語ではなくなるのです。