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“D”iscover -Opinion-

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SDGsは企業にとって、「未来への投資」となる(前編)
~Z世代の分析から解明する、これからのSDGs~

テレビなどでもしばしば耳にする「Z世代」という言葉。「1997年から2009年の間に生まれた人々の世代」と定義されており(※)、23年4月1日時点では14~26歳の若者たちのことを指す。社会に出て「若手」として働く人も増加している世代でもあるため、先輩や上司という立場から、これまでの世代との違いを感じている人も少なくないかもしれない。消費市場においては最も新しい世代とされ、その特徴について研究が進みつつある。今後の社会を牽引する集団となっていくZ世代について、SDGsという観点から調査を行った同志社大学商学部商学科の髙橋広行教授に話を伺った。

※Kartajaya, et al. (2021)

2024年3月25日 更新
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商学部 髙橋広行先生

企業は大きな関心を寄せる、Z世代の志向や行動

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Z世代は生まれたときからインターネットが普及している、「デジタルネイティブ世代」です。早くからスマートフォンを手にし、SNSなどのオンライン上でのコミュニケーションや情報収集・発信に親しんできました。そのため、デジタルリテラシーが他の世代よりも高いとされています。

現時点ではZ世代の半分は未成年のため勤労していません。そのため自分自身の収入は限られます。しかし少子化の影響もあり、祖父母などからお小遣いをもらう機会が少なからずあります。Z世代は収入が少ないからといって、購買力が低いというわけではないのです。

学校教育の影響もあって、環境や地域社会に対する意識や関心が他の世代よりも高い傾向にあるのがZ世代です。働き方や企業に対する意識がこれまでの世代とは異なるという指摘もされています。

デジタルリテラシーの高さもあって、商品の購入に当たってはさまざまな情報を収集し、比較検討します。自分の好みに合う商品を選ぶために努力を惜しまず、失敗を回避したいという意識が強いとも考えられています。

これらの背景や傾向から、消費市場においてZ世代を考えるうえでは、「推し(オタ)活消費」「タイパ消費」「サブスクリプション」や「シェアリング・サービス」の利用、「SNSの活用」がキーワードとして挙げられています。「推し(オタ)活」とは、アイドルやキャラクターなど、応援する対象に時間とお金を費やすことです。「タイパ」とはタイムパフォーマンスの略で、投じる時間に対して効果の高さを求めることです。「サブスクリプション」は映画や音楽などの定額見放題・聞き放題サービスのことで、「シェアリング・サービス」は他人と資産を共有し合うことで安価に利用できるサービスです。サブスクリプションとシェアリング・サービスはいずれも自分自身ではモノを所有せず、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ使う」仕組みです。

タイパを重視し、サブスクリプションやシェアリング・サービスを活用する姿からは、非常に合理的で、ともすればドライなZ世代の姿が浮かび上がります。いっぽう、「推し(オタ)活」のように、ここぞというところへは惜しみなく時間やお金を投じます。そこには、合理的でドライという姿とは違った表情が見えてきます。

Z世代に関する研究はまだまだ始まったばかりで、決して十分な知見が蓄積されているわけではありません。今後、消費市場の中心的な役割を果たすことから、Z世代を理解することに企業は大きな関心を寄せています。特にSDGsとZ世代との関係性は、企業の興味のポイントでもあります。そういった背景から、Z世代とSDGsに関する調査に取り組みました。

ドライで合理的に思えるが、意外な表情も持つZ世代

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調査では、「モノは買うよりも、借りたり、シェアしたりして使う方が良い」「サブスクリプションだけで生きていきたい」といった「シェアリング」に関する項目や、「特定の人を応援することで自分の存在価値を感じる」「自分が認めたモノや相手への出費は惜しまない」といった「推し」に関する項目では、Z世代が他の世代に比べて高い傾向が示されました。また、「知人や友人との『つながり』を大切にしている」という「つながり」や、「人には、それぞれ違う考え方があることを素直に受け入れる」という「多様性」に関しても他世代よりもZ世代は高い傾向でした。SNSとの関わりもZ世代は他世代を上回る傾向を示しています。

これらの結果は、先行研究からも示されていたものであり、予想通りとも言えるものでした。逆に意外な結果を示したのが、「モノに愛着を持って使い続けたい」などの「モノへの愛着」の項目です。ここでは、他世代以上にZ世代が高い数値を示し、モノへの愛着を強く持っていることがわかりました。特に、「ヤングZ」と分類したZ世代のなかでも下の世代にあたる16~19歳の層で、この傾向が強く見られました(調査可能な年齢が16歳からであったため)。

モノへの愛着と関係する行為として、「転売」があります。サブスクリプションやシェアリング・サービスを活用して合理的にモノと付き合うZ世代であれば、転売も積極的に行っていると考えられていました。ところが調査では、転売に対する意識に他世代と大差はないことがわかりました。

これらの調査結果や日頃の学生との対話を通じて見えてくるのは、自身の価値観や世界観を大切にしながら、モノを通じて他者と上手につながっているZ世代の姿です。それがよく表れているのが、インスタグラムです。

インスタグラムで発信されるのは、自分なりの価値観や世界観です。そこにマッチする商品を選ぶことに対して、ネットでの情報収集などを含めて労力を惜しみません。そうやって発信された世界観に共感する人とつながり合い、情報交換などをしながらさらに世界観を豊かなものにしていきます。このプロセスで手に入れた商品などは、愛着を持って大切にしていきます。

自身の世界観を商品選びの基準にするというのは、ブランドからすると難しい局面です。かつては、いわゆるブランド品を持っていることがステータスとされました。ブランドありきで、そこに自分を合わせていったのです。しかし今は逆です。自分の世界観がありきで、そこにマッチしないのであればブランド品であっても選ばれることはありません。むしろ、ブランドは主張が強すぎて敬遠されてしまいます。かつての世代は「モノがあることが幸せ」と考えてきましたが、Z世代は「自分の世界が豊かであることが幸せ」と考えていると言えるでしょう。