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“D”iscover -Opinion-

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SDGsは企業にとって、「未来への投資」となる(後編)
~Z世代の分析から解明する、これからのSDGs~

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高橋ゼミの様子
2024年3月28日 更新

SDGsに他世代以上の関心を寄せる

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自分の世界観を大切にするZ世代ですが、それは必ずしも「他者のことはどうでもいい」という思考を持っているという意味ではありません。むしろ逆だと言えます。それを示すのが、SDGsへの関心です。

SDGsに関する15項目で調査をしたところ、14項目でZ世代は他世代よりも高い関心を持っていることが示されました。特に「すべての人に質の高い教育の機会があること」「男女が平等である世界を実現すること」「お互いに協力して、ひとつの目標を達成する社会であること」では比較世代と大きな差が示され、強い関心を持っていることがわかりました。これらは、Z世代の購買行動にも影響すると考えられます。すなわち、「社会に迷惑をかける企業の商品は買わない」「どうせ買うなら、社会に対していいことをしている会社の商品を買おう」という思考を持っているのです。

これは企業にとっては重要なポイントです。消費者のニーズや世界観にマッチした商品やサービスを作っていたとしても、SDGsの観点にそぐわない企業活動をしているようであれば、選んでもらえなくなるからです。企業は商品やサービス開発と並んで、SDGsへの取り組みを行い、社会へと発信し続ける必要があります。

環境保全活動やジェンダー平等の実現など、SDGsに関する取り組みはすぐに成果が出るものではありません。「明日の売り上げ」にはつながらないとも言えます。だからといって取り組みをやめてしまうと、未来を失うことになります。SDGsに高い意識を持ったZ世代が消費市場の主役となったとき、選んでもらえなくなるからです。また、採用活動においてもSDGsは、Z世代にとって会社選びの視点のひとつになっています。今後、Z世代の多くが社会人になっていくこと、Z世代のなかでも下の世代であるヤングZがSDGsにより高い意識を持っていることなどを考えると、企業にとってSDGsを推進することは、将来に向けた欠かすことのできない投資だと言えるでしょう。

マーケティングによって、ブランドと社会との「ズレ」を調整

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私の専門分野はマーケティングです。マーケティングは広い意味では「顧客の欲求を満たすために企業が行うあらゆる活動の総称」とされています。市場調査や分析、それらに基づく商品開発、宣伝広告活動などすべてがマーケティングと言えるのです。

そのなかで私は、企業のブランド力を高め、ブランドの価値を作り出す「ブランディング」、あるいはそれらの行為を既存のブランドに対して改めて行う「リブランディング」と呼ばれる分野を専門にしています。

ブランドや商品などには、本来は何らかの価値が備わっているはずです。ところが社会が変化すると、ブランドが提供してきた価値と消費者が期待する価値との間にズレが生じてしまいます。そのズレを調整するのがブランディングやリブランディングです。

ズレを調整するためには、大前提として「現在の消費者が何を考えているか」ということを理解する必要があります。Z世代に関する調査の狙いの一つはここにあります。Z世代を知り、さらにSDGsに対する意識を知ることで、企業が取り組むべき課題が見えてきます。Z世代の志向にマッチする取り組みが不足していた企業もあるでしょうし、すでに取り組んでいたものの社会に向けて発信できていなかったという課題が浮かび上がる企業もあります。それらの課題を解決することで、ブランドの価値が適切に消費者に伝わるようにしていきます。

研究では、さまざまな企業にインタビュー調査を行っています。ありがたいことに、多くの企業が私たちの調査に快く協力してくださいます。その背景には、同志社大学が長い歴史のなかで社会との間に培った信頼関係があります。経済界をはじめとしてさまざまな分野で多数の卒業生が活躍していることも、研究しやすい環境を支えてくれています。学内の研究環境という点では、海外の論文データベースへのアクセスが非常にしやすいです。マーケティングは新しい知見が次々に発表される分野です。世界中の論文にタイムリーに触れられることは、研究を加速させる大きな要因になっています。

ゼミでは、企業から課題をいただいて学生たちが商品開発や事業提案などに取り組んでいます。ここで注力しているのは、与えられた課題をそのまま受け取るのではなく、自分たちで検討・分析を行ったうえで再定義することです。例えば「若者にファンになってもらいたい」という課題に対しては、「若者とは?」「ファンとは?」というところから定義し直します。これは、考える力や判断する力を養うプロセスでもあります。このプロセス抜きでは本質に迫ることはできません。また、単純に与えられた課題に「答えらしいもの」を出すだけであれば、これからの時代はAIに負けてしまいます。マーケティングを学びながら、AI時代をしっかりと生きていける若者を育てることも、私の役割です。そのうえで、今後の社会をリードしていくようなマーケターを輩出したいと考えています。


(引用文献)

Kartajaya, H., Setiawan, I., & Kotler, P.(2021). Marketing 5.0: Technology for Humanity. John Wiley & Sons.
髙橋広行・財津涼子・大山翔平(2023)「Z世代の価値観タイプの違いによる分類と理解:SDGs働き方,幸福感との関連性を中心に」『同志社大学商学会』p.239–267.

髙橋 広行氏

同志社大学商学部・大学院商学研究科教授。洋菓子メーカー、マーケティング会社、マーケティング・リサーチ会社などを経て、2004年に関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了、修士(経営学)を取得。10年に同大大学院博士課程後期課程修了、博士(商学)を取得。同年、流通科学大学商学部専任講師。15年4月、同志社大学商学部准教授。20年4月より現職。Z世代に特化したリサーチ機関「Z世代インサイト研究所」所長。