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キャンパスの樹木で学ぶコモンズの経済学―樹木マップで「身近な自然」を取り戻す(後編)
学内キャンパスは自然環境の初歩を学ぶ「お宝の空間」
最近、「多様性」という言葉をいたるところで見かけますが、自然にアクセスすることなしに、自然の多様な機能や価値(同時に自然の脅威)を理解できるでしょうか?私はそうは思いません。だからといって、遠くの絶景の見られる山に登ったり、本格的な林業実習をしたりせずとも、自然アクセスは日々の暮らしの中で、たとえば、大学のキャンパスやすぐ南に広がる京都御苑でもできます。
私がそれを意識し始めたのは、コロナ禍の真っただ中の時です。マスク着用での屋内授業は、学生も私も息が詰まりました。90分間の授業時間内に収まる範囲で、御苑やキャンパスの樹木観察を始めました。自然アクセスには、トラブルはつきものです。たとえば、ごみのポイ捨てなどのマナー問題。歩行、ランニング、自転車など利用者の利用目的の相違から生じるトラブル。所有者や管理者は、そのようなトラブルの未然防止をどのように図っているのだろう?他方、利用者はどのような点に気をつけているのだろう?学生にそういう点に留意して観察してもらい、次週に教室で海外での自然アクセスの実態を学び、ディスカッションをします。
そうした授業を展開するなかで、よりじっくりと時間をかける必要があると感じているのが、樹木観察です。学生たちの多くは、樹木などに気をとめることはありません。授業を通じ、葉の形を眺めたり枝や樹皮の匂いをかいだり、教室の座学で知識をつけていくことで、学生の樹木を見る眼差しにすこしずつ変化が見られるように思います。さらに学生に自学を促すと、樹木の特性に合わせ先人が生み出した活用方法や技術にも目を向け、一段深い理解を示すようにもなります。私は、そのような体験や学びの一歩を踏みだすツールとして、学内樹木マップづくりをはじめました。
「コモンズとしてのキャンパス樹木マップ」を目指して
まず、私は大学HP掲載のキャンパスマップを印刷し、それをクリップボードに挟んで携帯し、樹木を一つ一つ見て回っては手書きで樹木の配置場所と樹名を書き込む作業を始めました。コンパクトなキャンパスとはいえ、樹木数は多く確認できていないところも多々ありましたけれど、昨年度秋学期開講の「環境政策2」という講義でその試みを紹介しました。
アプリ化が進んでいる
受講生だった羽鳥咲里さん(当時、経済学部4年生)が、樹木マップ作成への協力を申し出てくれ、また、学内樹木マップのアプリ化を提案してくれました。こうした助力を得て、2025年10月時点で、今出川キャンパス内には、765カ所111樹種のマップとリストができました。樹木の配置場所についてはほぼ確定済みまでこぎつけましたが、樹木同定については確認を要するものが依然として残っています。記録者、撮影日、樹木名、樹木のある場所、樹名板の有無、葉・花・果実・樹皮などの写真も、スマホで撮影したその場でアップロードできるアプリも試行運転中ですが、受講者のニーズやレヴェルに合わせた項目を検討する段階にまできました。このアプリの基盤地図をつくる際には、施設課の職員からの紹介を得て、東畑建築事務所さんからキャンパス地図を提供していただきました。いろいろな人との対話や協力を得て、学内樹木マップが形になりつつあります。今後、学生をはじめ、さらに多くの人にとっての「コモンズとしての学内樹木マップ」にしていきたいと考えています。
樹木マップを試運転する―自然アクセスを促せるルーツとなるか?
また、都市の大学キャンパスや庭園の樹木は、ほったらかしでは育ちません。育成・管理技術を知ることがとても重要です。今出川校地はもとより、田辺校地で植栽から剪定作業まで、長年お世話になってきた紫峰園の東條広明さんに講義でお話いただきました。京田辺キャンパスでも見つかったサクラ類を枯死させるクビアカツヤカミキリとの格闘話に加え、屋外ではクスノキの剪定上のポイントなどをお話いただきました。樹木医で造園士の東條さんのお話は、まさしく技術と知識の宝庫。食い入るように聞きいっていた学生たちの姿が印象的です。
春学期を終えて、各受講生の樹木マップを確認してみると、どの学生も授業時間外に樹木観察をしていることがわかりました。アプリにアップされたデータは、記録日時の履歴が残るので、そのことがわかるのです。学生の学びはもとより、私自身も以前にも増して、通勤道中やフィールドワークの際、草木や樹木の変化に目が向くようになったと実感しています。キャンパスで樹木を見あげながら歩いているとか、葉や枝などを持っている人を見かけたら、それは私である可能性が高いです。
植樹の履歴から同志社を知る―自然アクセスと密接に関係する樹木たち
身近な自然観察だけでなく、キャンパスには歴史を今に伝える樹木も多くあります。設立者の新島襄は、植物にも関心を寄せていました。アメリカから持ち帰ったカタルパ(アメリカキササゲ)は有名です。待辰館の北側に、「出陣記念」の石碑の傍らに佇むオガタマノキのエピソードは心に響きます。第二次世界大戦下の学徒出陣の際、幾人かの学生が同志社で学んだ証しを残すために、京都府立植物園を訪ね、そこで譲り受けた苗木をリヤカーで運んで植えたそうです。同志社での学業生活を断念し戦地に向かわねばならない無念さと、平和の大切さをオガタマノキに託し伝え残そうとした思いが伝わってきます。
同志社礼拝堂(チャペル)北東に佇むユリノキをアプリに収める
このオガタマノキ以外にも、キャンパス内には、同志社にゆかりある人物による記念植樹が随所にみられます。幸いそういった記念植樹された樹木については、元社会学部教授の宇治郷毅先生が、少なからずエッセイを書き残してくださっています。キャンパスに来ること自身が、自然の価値を知るための自然アクセスの機会となり、植樹の履歴を肌で感じて知ることで、同志社の歴史の読み解く一助となればいいなと思っています。近い将来、学生がガイド役をつとめる「樹木をめぐるキャンパスツアー」などの企画が実現できれば、などという構想を今、温めています。