以下、本文になります
第152号
第152号
ピックアップ記事

まちづくり会社経営
河野美知(こうの みち)さん
1977年京都府生まれ。2001年、同志社大学経済学部卒業後、山陰中央テレビジョン放送株式会社に入社。報道部に所属し、「TSKスーパーニュース」のキャスターを8年間担当。2003年、FNSアナウンス賞奨励賞受賞。2010年退職後、フリーアナウンサーとして活動。2011年、「神社ガールズ研究会/社☆ガール」「出雲神話☆語る会」を設立、県内外に出雲地方の歴史・文化を発信中。2016年、「八百万マーケット」を運営する「株式会社ちいきおこし」を設立。2017年より代表取締役。 |
自分が楽しいと周囲も楽しい 人と人を繋いで 神話と歴史のまちを 再生する
学生時代に「伝える面白さ」を知ってテレビ局に入社。現在は松江市で地域の魅力を発信しながら地域おこしの会社を経営する卒業生に、志を伺いました。
ゼミで学んだ 伝えることの楽しさが原点

- ──
- 同志社時代の思い出をお聞かせください。
- 河野
- 西村卓先生のゼミで京都の経済史を学びました。フィールドワークで金平糖屋や京焼の窯元を訪れ、伝統が守られてきた歴史を取材して卒論に。調査を通じて人の思いを伝える仕事の面白さを知ったのが、報道の道に進んだ原点です。
- ──
- 山陰中央テレビではどんなお仕事をされましたか。
- 河野
- 最初は警察担当の記者として鍛えられ、のちに「スーパーニュース」という夕方の帯番組のキャスターを務めました。夫が選挙に出馬するのを機に退職し、フリーアナウンサーなどを経て、いつしか地域おこしに関わるようになりました。
- ──
- 松江・出雲との関わりを深めていかれる過程を教えてください。
- 河野
- 昔から神社巡りが好きなんです。出雲国風土記に登場する神社だけでも約400社。この歴史的な地域をライフワークとして掘り下げたいと、テレビ局時代から思っていました。そこで2011年、古事記や出雲国風土記に関わる神社や史跡を巡る女性のサークル「神社ガールズ研究会」、略して「社☆ガール」を立ち上げました。現在メンバーは約80名いて、神社巡りや会報誌の発行、神社巡りガイドなどをしています。島根県神社庁から依頼されて庁報に寄稿したり、行政からもガイドの依頼が来たりしています。
- ──
- 「株式会社ちいきおこし」設立の経緯もお聞かせください。
- 河野
- この社☆ガールがきっかけでした。私のようにまちづくりに関わっていた人と経営者など7人が集まり、松江を元気にする活動を始めたのが出発点でした。その際感じたのがプレイヤー不足です。伝統のあるまちですから、意思決定をする年配の方は多いです。ただ、実際に動くプレイヤーが本当に少ない。まずは私たちと一緒に動いてくれる若いプレイヤーを育成するのが会社設立の目的の一つでした。もう一つの目的は、松江市の地域おこし協 力隊のサポートです。松江に来られる協力隊には、デザイナー、一級建築士、IT企業で働いていた方など、豊かなキャリアをお持ちの方が多いのですが、地元との繋がりがないため、任期終了後の定住になかなか至りません。そこで彼らと既存のコミュニティやネットワークを繋げるのが私たちの役目です。協力隊が生み出した地域産品やサービスを販売する場所として、玉造温泉街に松江のアンテナショップ「八百万(やおよろず)マーケット」もオープン。このショップが会社の主軸になっていきました。
マッチングで生じる活力がまちを動かす

- ──
- 松江に来られて20年。今、松江にはどんな課題がありますか。
- 河野
- 松江は観光資源や自然環境に恵まれたまちです。そのためか、全体に貪欲さが不足していたと思います。京都には大学が多いこともあって若い人がたくさんいます。彼らは古さと新しさを掛け合わせ、融合させてきました。この「×(かける)」というマッチングが、松江にはもっと必要ではないかと思います。それが伝統を守ることではないでしょうか。
- ──
- 河野さんは、どんな「かける」をしておられますか。
- 河野
- 地元の人が楽しんでいないと、外から来る観光客にそれが伝わります。まずは地元が楽しまなければ。そこで昨年、「穴道湖サンセットカフェ」を開設しました。夕日にきらめくステンドグラス風の店舗で、穴道湖の夕日が見られる日限定の営業です。夕日そのものが素敵なアトラクションであることを、まず地元の人たちに伝えたい。地元の素晴らしさを実感し、地元にもっと誇りを持とうという、社☆ガールの趣旨と同じです。これは会社実験なんです。普段は何もない公園に新たなサービスを提供して、人の賑わいと満足度の変化を調査しています。
- ──
- 反応はいかがですか。
- 河野
- 地元の人のデートコースになっています。近くに階段状の護岸の夕日スポットがあり、日没時には京都の「鴨川等間隔の法則」みたいに人が座っています。皆さんがSNSで情報を拡散してくださるので、松江の観光名所みたいになりました。当初は2年間の予定で始めた社会実験でしたが、今後も本設してほしいと市から言われています。
- ──
- コロナ禍で観光客は激減しました。どのように対応してこられましたか。
- 河野
- 昨年の緊急事態宣言発出中は八百万マーケットを改装して、店内の半分をジュース工場にしました。あまり注力していなかったインターネット販売も促進するようになり、商品の食べ方や産地を紹介するユーチューブチャンネルも開設。もちろん自分で出演もしています。社☆ガールも活動機会が減ったため、昨年11月、Uターン者をサポートする財団が開催したオンライン参拝に協力しました。出雲市にある有名な万九千(まんくせん)神社と中継をつなぎ、私がスタジオで神社の歴史や魅力を紹介しました。全国から約300人が参加してくださって大好評でした。
- ──
- 志をお聞かせください。
- 河野
- 「伝えたい」という思いです。伝える仕事が私を最も生かせる場です。同時に、あまり自ら望んではだめだなと思った時期もありました。それよりも、人が与えてくださるものに楽しく取り組んでいると、そこからまたご縁や仕事が生まれてくることに気づいたんです。ご縁に導かれて私はここまで来られたと思うと、地域や支えてくださる人への感謝も自然に育ちました。
- ──
- 読者へメッセージをお願いします。
- 河野
- 与えられた環境を楽しんで生きることは大切だと思います。自分が楽しんでいることが周囲に伝われば、その方たちも楽しくなって、新しいことに気づく心が生まれるかもしれません。家庭でも親が楽しんでいると、子どもも何となく楽しいものですからね。
(2021年7月6日、松江市にて)
目次
第152号|2021.10
新島 襄の言葉 | ||
---|---|---|
教員タル者己カ雀ノ如キ人物デアリ、生徒ノ中ニ鶴ノ如キ | 表紙裏 |
口絵 | |
---|---|
法人 | 『2021年度 同志社研修・ 交流会』 |
大学 | ハリス理化学館同志社 ギャラリー 第22回企画展 「支え合う志」をつないで ―障がい学生支援制度発足20周年― |
女子大学 | 『京都医療センターとの学術交流等に関する包括連携協定を締結』 |
中学校・高等学校 | 『球技大会』/『七夕』 |
香里中学校・高等学校 | 『2021年度入学式』 |
女子中学校・高等学校 | 『母の日礼拝』 |
国際中学校・高等学校 | 『中学生部紹介』/『日本文化の日』 |
国際学院 | 初等部:『新一年生の学校生活』 国際部:『Miyako Ecology Center』 |
小学校 | 『花の日礼拝』 |
幼稚園 | 『花の日礼拝』/『七夕発表会』 |
私の志 | ||
---|---|---|
自分も家族も、店も町も。持続可能な生き方を模索する。 | 長野県の山里から社会を変える 金井一記さん |
4 |
人と人を繋いで神話と歴史のまちを再生する | 自分が楽しいと周囲も楽しい 河野美知さん |
6 |
特集 | ||
---|---|---|
これからの一貫教育 | ||
座談会 選ばれる学校とは? ―2030年代に求められる中等教育を探る |
富田亮/松原和之/岸田康子/竹山幸男 | 8 |
座談会 同志社の一貫教育について | 大久保雅史/清田れい/細野航平 | 17 |
私の研究・私の授業 | ||
---|---|---|
ハイブリッドゼミで楽しく学ぶ―新人教員として― | 廣野 俊輔 | 22 |
人工知能と第4次産業革命:労働は消滅するのか? | 二神 孝一 | 24 |
物理の視点で探求する生命現象の本質 | 貞包浩一朗 | 26 |
未来をキャリアで拓く | 中村 艶子 | 28 |
表現活動を通じた人間形成と保育者・教師の役割 | 竹井 史 | 30 |
ICTを活用した和歌の学習 | 吉田 桂子 | 32 |
特別寄稿 | ||
---|---|---|
「商法上ノ大王」渋沢栄一と同志社 新島襄との交遊 | 本井 康博 | 34 |
新刊紹介 | ||
---|---|---|
同志社を掘る―創立百五十年に向けて― | 本井康博著 | 41 |
記憶と慣行の西洋古代史―エジプトからローマまで― | 中井義明・堀井優編著・岸本廣大他著 | 41 |
「戦後民主主義」の歴史的研究 | 出原政雄・望月詩史編著・林葉子他著 | 42 |
身体と環境をめぐる世界史 | 服部伸編・大谷実・穐山洋子他著 | 42 |
民事訴訟の簡易救済法理 | 川嶋四郎著 | 43 |
石橋湛山の〈問い〉日本の針路をめぐって | 望月詩史著 | 43 |
テレビドラマと戦後文学 芸術と大衆性のあいだ | 瀬崎圭二著 | 44 |
ホリスティック教育講義 | 中川吉晴著 | 44 |
16・17世紀の数学的音楽理論 | 大愛崇晴著 | 45 |
超大国 中国のあゆみ | 厳善平著 | 45 |
虫たちの日本中世史『梁塵秘抄』からの風景 | 植木朝子著 | 46 |
議会制度とその運用に関する比較研究 | 武藏勝宏著 | 46 |
会計規準の統合と分岐 EUとドイツのなかのIFRS | 佐藤誠二著 | 47 |
百人一首を読み直す2―言語遊戯に注目して― | 吉海直人著 | 47 |
フォルテピアノ 19世紀ウィーンの製作家と音楽家たち | 筒井はる香著 | 48 |
建物案内 | ||
---|---|---|
繋真館(同志社香里中学校・高等学校) | 49 | |
継志寮(同志社大学) | 50 |
同志社の逸品 | ||
---|---|---|
幻のヴォーリズ建築 ―一九三五年同志社創立六〇周年記念計画― |
同志社社史資料センター | 51 |
レクチャー | ||
---|---|---|
2021年度同志社大学アメリカ研究所春季公開講演会 「優生学運動とその遺産―身体管理のポリティクス―」 |
小野 直子 | 55 |
同志社クローズ・アップ | ||
---|---|---|
同志社創立150周年記念事業がスタートしました | 法人事務部 創立150周年記念事業事務室 |
62 |
学生の多様な個が輝くキャンパスを目指して ―スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室開設― |
阪田真己子 | 64 |
「オーケストラ」という授業について | 牛渡 克之 | 66 |
創造的な学びで「教科の壁」に風穴を ~数学×地理コラボの取り組み~ |
篠原 貴明 | 68 |
高校生が語る「人生」とは…? ~ボードゲームを取り入れた主権者教育へのチャレンジ~ |
中 優己 | 70 |
スプリングイングリッシュキャンプ | 米澤 利聡 | 72 |
同志社ナウ | ||
---|---|---|
オープンキャンパス2021開催 | 大学入学課 | 74 |
看護学研究科の助産学生チーム、「日本助産学会賞」を受賞 | 眞鍋えみ子 | 75 |
生と性と死の学び~デジタル全盛時代に敢えて~ | 田邉 利幸 | 76 |
コロナ禍におけるクラブの試合観戦対応について ―香里中高サッカー部の取り組み― |
新井 翼 | 77 |
コロナ禍の入試広報活動 | 吉田 和高 | 78 |
北信越インターハイに単複出場、一年生の挑戦営 | 古城 正裕 | 79 |
同志社国際学院初等部 家族でスクールツアー | 西村 孝次 | 80 |
諦めなければ、何でもできる~音楽 with コロナ~ | 江藤─ブラウン多恵 | 81 |
お知らせ | ||
---|---|---|
新型コロナウイルス感染症に伴う在学生支援募金についてのお願い | 82 | |
ハリス理化学館同志社ギャラリー展示ご案内 | 83 | |
新島旧邸公開のお知らせ | 84 | |
スタークウェザーと山本覚馬 ―創設期における新島襄の同志たち― | 85 |
編集後記 | 86 |
---|
お問い合わせ |
同志社大学 広報課 TEL:075-251-3120 |
---|
最新号 講読お申し込み・ご意見ご感想 バックナンバー一覧 |