以下、本文になります
第153号
第153号
ピックアップ記事

酒造会社経営
今西 将之 (いまにし まさゆき)さん
同志社大学商学部卒。現 株式会社リクルート入社。中小から一部上場大手企業まで幅広く採用戦略立案/支援に携わる。2,000名の営業マンがいる中、TOPセールスとしてMVP賞はじめ多数の賞を受賞。先代の急逝に伴い、2011年11月より家業に戻り、酒の神が鎮まる地「奈良・三輪」で1660年創業の造り酒屋 みむろ杉醸造元今西酒造株式会社 14代目蔵主 代表取締役に就任。就任後は多角経営をして経営不振であった家業の立て直しを図り、酒造業以外の事業は全て売却し、本業に集中。社員総入れ替え・積極的な設備投資・自らが酒造りを担う等々の抜本的改革を行い、酒質向上を実現させる。結果、全国新酒鑑評会5年連続金賞受賞、仙台日本酒サミット1位、関西酒質向上委員会1位等、数々のコンペティションで表彰をされ、直近5年で製造量を6倍に伸ばす。酒造りのコンセプトは「三輪を飲む」。酒の神が鎮まる地・三輪だからこそ表現出来る酒造りを行う。 |
日本酒界を賑わせる14代目蔵主 「正しい酒造り」を通じて 酒のふるさと三輪を表現する
奈良県で酒蔵を営む父が急逝し、家業を継いで10年。傾きかけた蔵を数年で立て直しただけでなく、日本酒コンクールでも注目を浴び続ける若き蔵主です。
まず学んだのは酒より人。家業継承は突然に。

- ──
- 酒造りと同志社大学への進学とは関係があったのですか。
- 今西
- 僕は酒造りや地元の三輪に対する父の情熱に幼い頃から触れていたので、自然な流れで跡継ぎを意識するようになりました。酒蔵の跡取りは東京農業大学で醸造を学び、卸会社や酒造会社に3年くらい勤めてから家業に戻るというのが大まかなパターンです。僕の父も東京農大出身でした。ところが僕が高校生の頃、周囲で同じような経歴の方の酒蔵が潰れていったんですね。高校生にとっては衝撃でした。たとえ良質な酒蔵でも、世の中が激変したときに手を打てなくなるのではという危機感を持ち、大学へはマーケティングを勉強しにいこうと考えたんです。
- ──
- 就職された大手人材企業では、何を学ぼうとされたのですか。
- 今西
- 当時は僕が30歳ぐらいで家に戻り、約10年かけて父から仕事を引き継ぐ予定でした。僕はそれまでの期間、スピード感のある企業に身を置き、ビジネスをマクロに捉えて戦略を講じられる力をつけようと思いました。もう一つ、酒造りや経営にとっては人が重要だと父からよく聞いていたので、人材という、経営者の課題に一番寄り添う仕事をしたかった。その両方の目的に最適の企業でした。そこで努力と挫折を繰り返しながら、全社で1位の営業成績をあげるまでになっていました。
- ──
- そのような中、28歳の時にお父様が急逝され、酒蔵を継がれました。
- 今西
- 父から「余命宣告をされた」と連絡があり、実家に戻って1週間で亡くなりました。引き継ぎも何もできないまま僕が社長になると、飲食店や宿泊業など父の展開していた事業が大赤字だと分かった。また、当時の酒蔵は設備投資をしていなかったし酒造りへの情熱も感じられなかったから、当然お酒の質も良くなかった。そこで覚悟を決めて事業を整理し、酒造りを本気で始めました。2年間は迷走しました。どうすれば美味しいと思ってもらえる酒が造れるのか分からず、枝ばかり気にして幹を見ていなかった。一方で大手の卸会社へ営業に行っても、値引きの話ばかりで味の話にならない状況を虚しく感じました。そんな時に訪問した日本酒のセレクトショップで、うちの酒の味が酷評されました。でも、僕が持参した見積もり書など見もせず、ひたすら酒の味わいの話ばかり。酒への愛があふれていた。こんな方たちと一緒に酒造りをしたいと思い、原点に戻ったのが3年目でした。自分がまず本気で美味しいと思える酒を造れば、お客様にもそれが伝わるかなと。
「正しい酒造り」をしながら地元・三輪を表現したい。

- ──
- 変革の様子をお聞かせください。
- 今西
- 最高の設備を入れ、若くて酒造りに情熱のある人たちを採用しました。酒造りはチーム戦。1人のスーパースターが造るのではなく、皆でビジョンを共有し、スクラムを組んで船を漕いでゆくのが酒造りです。うちはトップダウン型の会社ではないから、社長である僕がしっかりビジョンを描き、それに対して皆がわくわくしてくれるから、ついてきてくれるのではないかなと思います。借金もしましたが、それは未来を描くための、希望ある借金。突然社長になった時に発覚した、絶望的な借金とはまったく違いました。
- ──
- 目指す酒造りを教えてください。
- 今西
- 「清く、正しい、酒造り」です。美味しいかどうかは飲む人が決めることなので、僕たちの基準は地元である三輪の清らかさを表現し、酒造りにおいて正しい仕事しかしないこと。同業者から見れば呆れるくらい非効率的で、手の込んだ仕事をしています。レンガを1ミリの狂いもなく積み上げるような作業を8カ月間行うわけですから、仕事の意図を理解していないと飽きてしまう。例えば洗米にしても、うちでは10キロずつ小分けにして、半年で1万2千回くらい行います。でも社員に回数だけを指示するのと、理由を示して、だから職務を全うしてくれと言うのとでは、仕事の結果は全然違います。そこは常に僕が語り、手本を見せるようにしています。だからうちは、どこの酒蔵よりも凄いスピードで変化しています。皆で積み上げてきたものが結果として見えて、自分たちの成長を皆が感じているからではないでしょうか。
- ──
- そこまで今西さんを突き動かす源は何ですか。
- 今西
- うちの酒を通じて、地元の三輪を深掘りしたいという思いです。三輪は酒造り発祥の地と言われ、三輪山をご神体とする大神神社は酒の神様として古くから信仰を集めています。うちの代表銘柄「三諸杉」「みむろ杉」は、その三輪山の古称「三諸山」にちなむものです。酒の神が宿るこの地で酒を造る唯一の蔵として、三輪に敬意を表し、この土地を表現したい。三輪が元気になる一助になれればと思います。酒造りは水と米が重要と言われますが、そこに歴史と文化を掛け合わせ、日本酒に新しい価値を創造したいとも考えています。その一つが「みむろ杉 木桶菩提酛」という酒です。室町時代に奈良で生まれ、自然の乳酸菌を活用して清酒の元となった「菩提酛」という技法を復活させ、自社田で育てた米と三輪山の伏流水を使い、吉野杉の樽で仕込みました。父やご先祖が地元を大切にしてきたから、14代目の僕も地元に支えられている。これを次代につなげるために、僕もまた地元を大切にしていきたいと思います。
- ──
- 今春、社会に羽ばたく卒業生にメッセージをお願いします。
- 今西
- 自分で課題を感じ取り、そのためにいろんな人や場面に会いにいく。社会人生活はその連続です。自ら機会を作り出し、その機会から刺激を得て自らを変えながら、人としての器を広げていただければと思います。
(2021年11月17日、桜井市三輪町にて)
目次
第153号|2022.4
新島 襄の言葉 | ||
---|---|---|
同志社は隆なるに従い、機械的に流るる の恐れあり。切にこれを戒慎すべき事 |
表紙裏 |
口絵 | |
---|---|
法人 | 『同志社創立150周年記念ロゴマークが決定』 |
大学 | 『2021年度全学防災訓練の実施』 |
女子大学 | 『白衣授与式(ホワイトコートセレモニー)』 |
中学校・高等学校 | 『オンライン学園祭』『学年別体育祭』(中学校) |
香里中学校・高等学校 | 『「献米」運動』 |
女子中学校・高等学校 | 『2021年度体育祭・文化祭』 |
国際中学校・高等学校 | 『高校体育祭』/『ハロウィン』 |
小学校 | 『ウスビ・サコさんによる特別授業(ピースウィーク)』 |
国際学院 | 初等部:『5年生の探究学習』 国際部:『The National Museum of Modern Art, Kyoto』 |
幼稚園 | 『お楽しみ会』/『クリスマス礼拝・祝会』 |
私の志 | ||
---|---|---|
「正しい酒造り」を通じて酒のふるさと三輪を表現する | 日本酒界を賑わせる14代目蔵主 今西将之さん |
4 |
若い感覚で付加価値をつけて能登の魅力を広めたい。 | 地域の魅力を発信 沼田祥衣さん |
6 |
特別対談 | ||
---|---|---|
同志社時報153号特別企画 第15代同志社女子大学長就任にあたって |
小﨑眞/植木朝子/中島めぐみ | 8 |
レクチャー | ||
---|---|---|
同志社大学課外プログラム 「先輩に学ぼう! SCRAP加藤隆生氏 オンライン講演会」 |
加藤 隆生 | 15 |
同志社クローズ・アップ | ||
---|---|---|
学校法人同志社内中高職員合同web研修会を企画して | 高田 幸朗 | 22 |
第146回同志社EVE | 神崎 龍太 | 24 |
同志社国際学院10周年記念式典報告 | 石川 眞弓 | 26 |
北海道富良野における地域連携型学習 | 天野 太郎 | 28 |
「英語スピーキング」における授業実践報告 | 市川 良大 | 30 |
2021同志社クローバー祭 ~オンライン開催2年目のチャレンジ~ |
大学 京田辺校地学生支援課 | 32 |
生活・社会と結びついている数学 | 園田 毅 | 34 |
同志社創立150周年記念イベント Doshisha New Dayが開催される | 法人事務部 創立150周年記念事業事務室 |
36 |
issue+designによる講演・ワークショップ 文部科学省WWLプログラム 「SDGs # 11 住み続けられるまちづくり」を目指して |
帖佐 香織 | 38 |
同志社小学校『道草教育×SDGs』6年生の取り組み ~教科を超えた広がりのある学習から私たちにできる一歩へ~ |
渡辺 信行 | 40 |
新刊紹介 | ||
---|---|---|
「同女の母」スタークウェザー―同志社女学校の始まり― | 本井康博著 | 42 |
新島襄の足跡を辿る 仲間と共に 海外・国内15コース | 田島繁著 | 42 |
ふだん着のオックスフォード | 臼井雅美著 | 43 |
同調圧力の正体 | 太田肇著 | 43 |
外来植物が変えた江戸時代 里湖・里海の資源と都市消費 | 佐野静代著 | 44 |
京都の中世史 4 南北朝内乱と京都 | 山田徹著 | 44 |
北に渡った言語学者 金壽卿 1918-2000 | 板垣竜太著 | 45 |
ミクロデータからみる現代中国の社会と経済 | 厳善平著 | 45 |
先輩!ビジネスセンスの磨き方を教えてください! 起業からイメージする金融経済教育 |
足立光生著 | 46 |
米中の経済安全保障戦略―新興技術をめぐる新たな競争 | 村山裕三編著 | 46 |
教育学のパトス論的転回 | 小野文生他編 | 47 |
日本社会の移民第二世代 エスニシティ間比較でとらえる「ニューカマー」の子どもたちの今 |
兒島明他著 | 47 |
未成年者の基本的人権 憲法学的考察 | 福岡久美子著 | 48 |
三十六歌仙 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 | 吉海直人編 | 48 |
建物案内 | ||
---|---|---|
デントン館(同志社女子大学) | 49 | |
寒梅館(同志社大学) | 50 |
同志社の逸品 | ||
---|---|---|
同志社の逸品 新島旧邸の「新聞挟み」 (京都市指定有形文化財家具) |
同志社社史資料センター | 51 |
特別寄稿 | ||
---|---|---|
学校現場における法律問題の現状と弁護士(スクールロイヤー)の活用について | 西山 啓一/堀切 忠和 | 53 |
私の研究・私の授業 | ||
---|---|---|
地域社会とスポーツのマーケティング | 二宮 浩彰 | 62 |
魔法の弾丸~がん分子標的薬の可能性を追いかけて | 尾﨑 惠一 | 64 |
技術経営的観点について | 太田原 準 | 66 |
社会とつながる大切さ~多様な視点を教室に~ | 井出 教子 | 68 |
ヘイト・スピーチにどのように対処するのか | 檜垣 伸次 | 70 |
物理化学の授業で見せる実験例 | 遠藤太佳嗣 | 72 |
同志社ナウ | ||
---|---|---|
講談社メディアアワード 2021を受賞 「宇宙兄弟」×「宇宙生体医工学研究プロジェクト」 |
石田貴美子 | 74 |
ボランティア奨励コンテスト | 女子大学ボランティア活動支援センター | 75 |
中学校「生徒手帳デザインコンテスト」&150周年記念ロゴマーク最優秀賞(同志社中学校2年 松井美野さん) | 鎌田 伸一 | 76 |
モルックの実践 | 横山 真吾 | 77 |
夏季校内語学研修 | 米澤 利聡 | 78 |
HR教室・特別教室へのプロジェクタ設置 | 西田喜久夫 | 79 |
わたしたちのまち・すてきなまち ― 岩倉たんけん隊 ―(3年生) |
長瀬 拓也/金山 香織/鈴木 志織 | 80 |
広島で平和を願う子どもたち | 石川 翼 | 81 |
お知らせ | ||
---|---|---|
新型コロナウイルス感染症に伴う在学生支援募金についてのお願い | 82 | |
ハリス理化学館同志社ギャラリー展示ご案内 | 83 | |
新島旧邸公開のお知らせ | 84 | |
スタークウェザーと山本覚馬 ―創設期における新島襄の同志たち― | 85 |
編集後記 | 86 |
---|
お問い合わせ |
同志社大学 広報課 TEL:075-251-3120 |
---|
最新号 講読お申し込み・ご意見ご感想 バックナンバー一覧 |