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第155号

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第155号

同志社時報155号 表紙 第155号
2023.4 発行

同志社時報は、学校法人同志社が年2回(4月・10月)発行している機関紙です。

ピックアップ記事

着物作家 加藤洋平さん

着物作家
加藤洋平(かとう ようへい)さん

1981年京都市生まれ。2005年、同志社大学文学部文化学科文化史学専攻卒業。2007年「週刊少年ジャンプ」ストーリーキング炎賞受賞。2016年、「LEXUS New TAKUMI PROJECT」にて「匠」京都代表に選抜。同年、陽の光と風を一体化させたレースカーテンを開発。2022年、NHK WORLD JAPAN「コア京都」をはじめドキュメント番組多数に出演。一真工房4代目として「風彩染」の創作活動を行い、TVドラマ「やんごとなき一族」に衣装を提供するなど活躍中。

唯一無二の着物作家
風を感じさせるぼかし染め 「風彩染」を描き続ける。

人気漫画雑誌でデビュー直前まで努力を重ねた後、父の着物工房で4代目として研鑽を積む。美しいぼかし染めを手掛ける一方で、シャンパンがテーマの帯を作ったり、依頼を受けてアニメを題材にした着物を描いたりと、斬新な作品も話題に。自由な心で着物の未来を拓く、若き着物作家を訪ねました。

漫画も着物もストーリーが柱

着物作家 加藤洋平(かとう ようへい)さん
──
小学生時代は漫画家を志しておられたと伺っています。
加藤
繊細な子どもだったようで、学校が嫌いでした。一人で「少年ジャンプ」に親しむうち、漫画には「生きていきたい」と思わせる力があることを感じ、自分もそんな漫画を描きたいと思うように。6年生のとき、漫画家になるという志を立てました。
──
同志社大学に来られた動機をお聞かせください。
加藤
両親がせめて大学は行ってほしいと言ったので。文化史を選んだのは歴史というか、人の心を知りたかったからです。漫画の題材がたくさん拾えそうという期待がありました。大学では1年生のときは勉強したのですが、後の3年間は「同志社ワーキングコーラス」に打ち込みすぎて、漫画も一時休止しました。1年かけて子どもたちが感動するキャンプを作り上げる点や、毎日いろんな子どもと出会う点など、漫画や着物の創作と非常に似ていると思います。
──
卒業後、「少年ジャンプ」で大きな賞を獲られました。
加藤
「ストキン炎(ファイヤー)」という賞をいただき、担当さんも付きました。その前から並行して着物の仕事をしていて、一番しんどい時期でした。自分の作品もまだない状態で、両親の手伝いをしに着物の展示会に行ったときのことです。あるお客様と話が弾み、あなたの着物が欲しいと言われました。店員さんが適当なものをその方に勧めていましたが、僕は何も言えなかった。自分の作品を創りたいと思った瞬間でした。お客様に喜んでいただくことにやりがいも感じていたし、当時はすごい漫画家が居並ぶ中、自分の存在価値があまり見出せないという苦悩もあった。着物だと、自分の方向性や表現に意外性を見出していただき、喜ばれる体験をしました。それらが全部絡まって、徐々に着物で生きていく気持ちが固まっていきました。
──
漫画と着物の世界に、何か違いはありましたか。
加藤
全然なかったです。漫画は僕がストーリーを考え、着物は着た人がストーリーを作っていくという違いはありますが、ストーリーがあって誰かが主役に立ってくれるという点では、僕の中ではまったく一緒です。きれいな着物をつくるのはもちろんですが、その人が着て、誰かと出会い、賞賛される。そういうストーリーが生まれる着物をつくるのが僕の仕事です。
──
加藤さんのぼかし染めについて教えてください。
加藤
うちの工房の2代目が考え出して、僕の父、母、叔母が完成させました。ぼかし染めに「風」という概念を持ち込み、技法だけでなくデザインや心の表現として「風彩染」という名で商標登録しています。普通は表から濡らさずに染めるので完成時の予想がしやすいのですが、僕の場合は裏から濡らしながら染めていくため、仕上がりの予測が難しい。手を止めるとそこで乾いて跡がつくし、一貫して同じテンションで染めることが重要なので、一反を染めるときは一日ずっと染め続けます。昼の12時から深夜1時まで、ノンストップ作業を5日続けたときは倒れました。「鬼滅の刃」的に言えば「全集中」でした(笑)。

必然性と挑戦を軸に新しい「風」を染める

着物作家 加藤洋平(かとう ようへい)さん
──
創作のエネルギー源や大切にしているものは何ですか。
加藤
創造の源は「人」です。人と喋りながら表現を提案して全体像をつくり上げる。その人が好きなものの立場に立ち、それが未知の世界であれば掘り下げて勉強する。すると自然に、デザインにおいてお客様との間に齟齬は生まれなくなります。その上で大切にしているのは必然性と、誰もやっていないということ。
色やデザインで絶対にこう描かなければいけないという確信が、腑に落ちているかどうかです。例えば桜を描くのであれば、桜の色は絶対にこの色でなければ全体の空気感が違うという必然を感じているかどうか。それがないと迷います。誰もやらないことをしたいという思いは、漫画を描いていたときと同じです。だから苦しかったし、そういう戦いが今も続いています。
──
伝統工芸の世界はどこも新たな活路を探っておられることと思います。加藤さんはどのようにお考えですか。
加藤
僕がこの風彩染を始めた頃は、着物も含めて世の中がシックなものを好む時期でした。風彩染は色とりどりですから、合う人には合うけど、合わない人には合わない。だからその頃から、絶対にこの風彩染を貫かなければと思っていました。そうすれば喜ばれるときの「喜び値」がすごいし、こちらも自信を持って「あなたにしか合いませんよ」と言える。そこから差別化が生まれて、貫くことで生き残っていくのではないでしょうか。大事にしてくださる呉服屋さんは増えていってます。
──
工房体験、扇子や傘・カーテン創作など、着物以外にもチャレンジしておられますね。
加藤
最初は工房体験を、「おあつらえ」の世界への入り口にしようと考えました。刷毛で絵を描いていただき、僕たちがその人から感じた「風」を染める。それを扇子などに仕立てて一点物を作る体験です。その作品は、たとえ小さくてもその人の「風」になる。その体験が着物につながればという期待が大前提です。着物を着てお客様とお出かけをする「ろーじ」というイベントも2011年に始めました。コロナで中断していましたが、今春から再開する予定です。若い層には着物と縁のない人が多いですが、一度着てみると良さや楽しさを分かっていただけるようです。
──
最も達成感を感じるのはどんなときですか。
加藤
「こんな着物、見たことない!」と喜んでいただけたときです。それが原点であり、終着点もそこしかありません。先日は「モーメント・ファクトリー」の方たちが訪ねてきてくださいました。東京オリンピックの閉会式やシルクドソレイユの演出などを手がけているカナダのデジタルアート集団で、僕の風彩染を気に入ってくださったんです。そういうことも非常に嬉しいですが、やはり着物の価値というのはお客様との一対一の勝負に帰結するのかなと思います。誰かを元気づけたくて漫画を描きたいと思い、お客様に喜んでいただきたいと思って着物をつくる。やっている事は同じなのかもしれません。
──
未来へ向けてひと言お願いします。
加藤
風彩染の「風」とは「心」のこと。「時代の風」という言葉もあるように、日本人独特の感じ方です。風彩染はまさに、ぼかしのためにある名称なんです。風彩染は動くときにこそ美しい。流動的な動きや空間表現に向いていると思っていたので、モーメント・ファクトリーさんと一緒にインスタレーションなどが実現するといいなと思っています。もちろん最後は着物に戻って、染め続けていきたいです。

(2022年12月1日、京都市の工房にて)

目次

ダウンロード(目次)[PDF 230KB]

第155号(最新号)|2023.4

新島 襄の言葉
ダウンロード(新島襄の言葉)[PDF 647KB]
“. . . [All of] you became so good and kind even to a wandering stranger because you are the worshipers of true God and the humble followers of Christ.”
あの恩人たちがさすらいの異邦人に対してさえあれほどやさしく親切であるのは、真の神を礼拝する人々だからであり、つつましくキリストに従う人々だからであります。
表紙裏
口絵
ダウンロード(口絵)[PDF 11.5MB]
法人 同志社オリジナル賛美歌が完成しました
大学 3年ぶりの対面開催
147th TO BE DOSHISHA EVE ~翔べ同志社EVE~
Reload the clover 第18回 同志社クローバー祭
女子大学 『まちづくり委員会』~学生による地域連携活動~
中学校・高等学校 「プロジェクションマッピングin 同志社今出川キャンパス」
香里中学校・高等学校 世界時計除幕式
女子中学校・高等学校 「天体観望会」
国際中学校・高等学校 高校生 体育祭/文化祭
国際学院 初等部:「3年生初めての宿泊学習」
国際部:DISK supporting local communities
小学校 Sports Festival
幼稚園 ≪かまどを使ってバーベキュー(お楽しみ会)≫
≪収穫感謝祭≫
私の志
ダウンロード(私の志 インタビューの2人)[PDF 1.8MB]
ダウンロード(私の志 本文)[PDF 2.3MB]
唯一無二の着物作家
風を感じさせるぼかし染め「風彩染」を描き続ける。
着物作家
加藤 洋平さん
4
武者修行中の新人官僚
目標を掲げて努力を続ける。それが私の生き方です。
厚生労働省
田中 優理香さん
8
特集 同志社のジェンダーギャップを考える
ダウンロード(座談会)[PDF 2.5MB]
<座談会>
ジェンダーギャップ克服へ、法人内各学校の現状と展望
~「人一人ハ大切ナリ」の具現化へ~
阪田 真己子/田中 尚美/鈴木 健司/髙松 裕美 12
ダウンロード(鼎談)[PDF 2MB]
<鼎談>
教育研究機関のミッションとしての次世代育成
阪田 真己子/塚越 一彦/松川 真美 23
建物案内
ダウンロード(建物案内)[PDF 2.3MB]
今出川図書館(同志社大学) 33
有隣館(同志社国際中学校・高等学校) 34
同志社の逸品
ダウンロード(同志社の逸品)[PDF 1.7MB]
『新東鑑』の写本 女子大現代社会学部教授
天野 太郎
35
私の研究・私の授業
ダウンロード(私の研究・私の授業)[PDF 2.2MB]
リアル・コミュニケーションの探究 大学文学部准教授
杉浦 秀行
37
音楽がつなぐ地域とのパートナーシップによる学び 大学政策学部教授
多田 実
40
幸運は目の前にあるのに気付けない。 大学生命医科学部助教
三田 雄一郎
42
社会に根本的な変化をもたらす「グローバル化」というもの 大学グローバル・コミュニケーション学部准教授
FUKUSHIMA MARCELO
45
プロの看護師の感情と思考 女子大学看護学部准教授
片山 由加里
48
世界の平和に貢献する人を目指して 国際学院初等部教諭
赤木 栄美子
51
特別寄稿
ダウンロード(特別寄稿 AKP50周年)[PDF 2.7MB]
AKP50周年 AKP同志社留学生センター 54
ダウンロード(特別寄稿 ルビコン川を渡る新島襄)[PDF 3MB]
ルビコン川を渡る新島襄 風間浦からのスタート
風間浦・同志社の交流30周年に寄せて
元大学神学部教授
本井 康博
60
レクチャー
ダウンロード(レクチャー)[PDF 1.7MB]
英国オックスフォード大学と同志社大学との連携 ~ DOMANI とDoshisha Oxford Lecture Series とReyes 先生~ 大学 法学部
高杉 直
68
新刊紹介
ダウンロード(新刊紹介)[PDF 2.2MB]
日本史のなかの裁判 日本人と司法の歩み 川嶋四郎著 77
Ideas and Economy in Japan Innovation and Tradition 西岡幹雄著 77
幸福感と年金制度 佐々木一郎著 78
イギリス湖水地方 モアカム湾の光と影 臼井雅美著 78
桝 太一が聞く 科学の伝え方 桝太一著 79
英国若者文学論 国家が拡張をあきらめたとき、若者はどのように大人になっていくのか 川島健著 79
縄文人は海を越えたか?「文化圏と言葉」の境界を探訪する 水ノ江和同著 80
日本人の承認欲求―テレワークがさらした深層― 太田肇著 80
居場所なき革命 フランス1968年とドゴール主義 吉田徹著 81
アメリカ多文化社会論〔新版〕「多からなる一」の系譜と現在 南川文里著 81
市場と共同性の政治経済思想 小島秀信著 82
映画はいつも「眺めのいい部屋」政治学者のシネマ・エッセイ 村田晃嗣著 82
梨の形をした30の言葉 エリック・サティ箴言集 椎名亮輔著 83
『源氏物語』の時間表現 吉海直人著 83
同志社クローズ・アップ
ダウンロード(同志社 クローズ・アップ)[PDF 12.9MB]
コンプライアンス推進室の活動について 法人部コンプライアンス推進室事務室 84
ドイツ連邦共和国大統領が同志社大学を来訪 大学研究開発推進機構 86
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FAX:075-251-3080
E-mail:ji-koho@mail.doshisha.ac.jp

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