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第147号
第147号
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フェンシング選手
宇山 賢(うやま さとる)さん
1991年香川県生まれ。中学校入学と同時にフェンシングを始める。2014年同志社大学商学部卒業後、大手家具メーカーに就職。2015年8月、JOCがトップアスリートの就職を支援する制度「アスナビ」を活用して三菱電機に入社。最近の主な戦績は、2017年7月世界選手権ドイツ大会個人エペ7位、同10月ワールドカップスイス大会団体エペ3位、2018年8月アジア大会団体エペ優勝。189センチ、67キロ。好きな言葉は「孔明の罠」。 |
東京五輪代表の有力候補 思考の読み合いを制して頂点を目指す。
12歳でフェンシングを始め、今や男子エペ団体の日本代表として活躍中の長身の剣士。ナショナルトレーニングセンターを訪ね、2020年東京五輪出場を目指す心境とフェンシングの魅力について伺いました。
プレースタイルは進化中
- ──
- 東京五輪が2020年に開催されます。現在、代表権争いではどのような位置におられるのですか。
- 宇山
- 個人戦でメダルを狙うのはまだ難しいのですが、団体では既に日本代表チームのメンバーとして出場しています。
- ──
- 世界で勝つため、現在はどのような取り組みをされていますか。
- 宇山
- 私がベースとする戦法はフェイントで相手に先にアタックさせ、そこへカウンターでポイントを奪うという比較的ディフェンシブなスタイルです。ところが1年ほど前、海外の選手からかなり研究されました。相手が先にオフェンスをしてこなくなったため、自分のスタイルでプレーしにくくなった。そこで今は自ら攻めるオフェンス技術を磨くと同時に、長年の課題だったフィジカルの底上げに取り組んでいます。負傷リスクの低減や全体のバランス強化のために身体の可動域を広げる、上半身のパワーを強化するなどです。それらの修正がようやく実を結び始め、自信を持ってオフェンスに自分の力を出せる段階になってきました。
- ──
- プレースタイルをどう変えるのですか。
- 宇山
- 以前は9割近くをカウンターで返していましたが、今は世界で戦うためにディフェンスとオフェンスが6対4くらいを目指しています。それができれば、試合の戦略が格段に広がります。私は学生時代に剣の握り方を変えました。確実に握れて力強く振れるベルギアンスタイルから、グリップを長く取るフレンチスタイルへと変えた。こうすることで剣を振る時の力強さは減りましたが、相手と長い距離で戦うことができるようになりました。しかし、先ほど話した通り、世界の舞台でそのスタイルで戦うと、海外の選手の目には「グリップが弱く守り中心のスタイル」と映り、彼らはパワーでどんどん攻めてくるようになりました。そこでディフェンシブなイメージを払拭するためにオフェンス強化に取り組んだわけです。イメージが変わるだけで相手は警戒し、戦いにくくなります。個人戦でメダルが取れると翌日の団体戦で相手は慎重になってくることもあるので、このディフェンスとオフェンス6対4のスタイルをすることで戦い方の幅が広がると思います。
- ──
- 本格的に世界で戦うようになられたのはいつ頃ですか。
- 宇山
- シニアのナショナルチームに初めて入ったのは大学2、3年生の時です。3、4年生の時にはアジア選手権や世界選手権の代表メンバーに入れていただいていました。個人では結果が出ていない状態でしたが、私自身は団体で五輪に出たかったので、団体戦に貢献することを最優先にしてきました。団体戦は喜びを分かち合えるし、個人戦とはまた異なる達成感があります。いろいろな要素の積み重ねがあって結果が出てくるのが、団体戦の面白いところです。
- ──
- フェンシングの魅力をお聞かせください。
- 宇山
- 読み合い、探り合い、駆け引きの妙味です。ポイントが入る瞬間は反射の問題ですが、そこへ至るまでの動作は読み合いの連続です。一つ試して相手に印象付けておき、脅威を与える、あるいは裏をかくなど、試合の後半でうまく活かす。一つずつの動作における駆け引きと、試合の流れを作る駆け引きの両方があります。リードされても最後に逆転できるよう、布石を置いておくやり方も。フェンシングを続けて観察眼が養われました。
家族と会社の支援を得て 2020東京を目指す

- ──
- 一所属先の決まらない期間がありました。ご自身の支えは何でしたか。
- 宇山
- 前職は一般枠で採用されたので、一般社員として勤務した上で競技を続けるという立場でしたが、練習と仕事の両立が困難になりました。その頃に東京五輪開催が決定し、両親が「当面サポートするから、新たな所属先を探しながら五輪を目指してはどうか」と言ってくれた。両親の支援が大きかったですし、その間も団体の日本代表メンバーだったことでモチベーションを保てました。
- ──
- 競技生活の中で壁に当たった時はどう乗り越えてこられましたか。
- 宇山
- どんな壁にでも何らかの変化を与えることは可能です。あるいは壁のすき間を見つけ、ここなら自分の領域で戦えそうだと見抜く。そういう眼も必要でしょう。考え抜いてやってみても、だめなときはあります。そのときは仕方がないと思うことにしています。
- ──
- 現実的になるということですか。
- 宇山
- 理想を追わない訳ではありません。理想や目標はあっていい。例えば高校球児が「イチロー選手のようになりたい」と言う。でも、それは「イチローになる」こととは違うから、自分のプレースタイルとはまったく違うことをやり始めるのは違うでしょう。フェンシングでも本来持っている自分のリズムや剣筋というものがあるので、それらをどう組み立てて目標とするレベルに達するのかを考えることが大切だと思います。理想へたどり着く道は何通りもあっていい。その道を絞ってしまわないことです。
- ──
- 東京五輪を目指す現在の心境をお聞かせください。
- 宇山
- 今の所属会社には強固なアスリート支援体制があり、私たちが勝てばもちろん喜んでくれます。経済面でのストレスもほとんどありません。今は恩返しではないですが、結果を残そうという意欲が強くなりましたし、それなら東京五輪に出て結果を残すというところに自身のビジョンを置こうと。代表になれれば当然国からの補助も出るので、日の丸を背負う自覚が必要だとも思っています。
- ──
- 新卒業生の皆さんにメッセージをお願いします。
- 宇山
- 会社から「やらされている」という感覚を持つのではなく、いま置かれている環境を、いかに自身の中にポジティブに落とし込むかを考えてほしいです。そのために必要なのは将来的なビジョン、広い視野と観察眼を持つこと。そうして徐々にキャリアアップを図っていただければと思います。
(2018年12月26日、東京にて)
目次
第147号|2019.4
新島襄の言葉 | ||
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最も辛いときにこそ、神は共におられる
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表紙裏 |
グラビア | |
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大学 | 京都国際調停センターオープニングセレモニー 「国際紛争解決の新時代:京都国際調停センターの使命」を開催 |
女子大学 | The 68th Shakespeare Production公演 |
中学校・高等学校 | チャペルコンサートシリーズ2018 |
香里中学校・高等学校 | 第一グラウンド人工芝全面改修 |
女子中学校・高等学校 | 学園祭 |
国際中学校・高等学校 | 文化祭/ハローウィン |
小学校 | 台東大学附属小学校との交流会 |
国際学院 | 初等部:5年生宿泊学習 ~東京・群馬~ 国際部:Field trip to Kyoto Railway Museum |
幼稚園 | ホームカミングデー/クリスマス礼拝・祝会 |
私の志 | ||
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可能性を止めないで。人生に無駄はないから。 | 独自の視点で世界を取材 藤えりかさん |
4 |
思考の読み合いを制して頂点を目指す。 | 東京五輪代表の有力候補 宇山 賢さん |
6 |
特集 | ||
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座 談会 学生ボランティアの本質と同志社が果たすべき役割を考える |
上田雅弘/小山 隆/小﨑 眞/鎌田伸一 | 8 |
同志社の歴史にみるボランティア ―災害時の救済活動を中心に― |
同志社社史資料センター | 16 |
ボランティア・マインド | 山本 真司 | 20 |
同志社教育の中でのボランティア ―香里中高ボランティア部の活動から |
工藤 尚子 | 23 |
「同志社チャリティーコンサート in 寒梅館」 | 27 |
レクチャー | ||
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第23回 同志社国際主義教育講演会「グローバル感覚の常識、非常識」 | 真山 仁 | 29 |
建物案内 | ||
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紫塩館(同志社香里) | 37 | |
訪知館(同志社大学) | 38 |
同志社の逸品 | ||
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新島襄肖像画 | 同志社社史資料センター | 39 |
同志社ナウ | ||
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『イタリアの黒死病関係史料集』が 日本翻訳家協会から「翻訳特別賞」を受賞 |
石坂 尚武 | 41 |
生命医科学部10周年 | 小林 耕太 | 42 |
法人内中学校・高等学校職員合同研修会とPLAYFUL MINDSET ―女子大学上田信行ゼミ生によるワークショップ協力 |
鎌田 伸一 | 43 |
中高ともに関西吹奏楽コンクールで金賞受賞! | 藤本 千佳 | 44 |
第42回全国高等学校総合文化祭(信州総文祭)日本音楽部門出場(箏曲クラブ) | 羽倉 由記 | 45 |
ユースエンタプライズトレードフェア2018にて特別賞を受賞 | 関口 英里 | 46 |
同志社国際学院初等部 オープンスクール 〜PYP Exhibition 2019〜 |
太田 哲男 | 47 |
私の研究・私の授業 | ||
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障害者スポーツへのまなざし | 河西 正博 | 48 |
良心教育としてのソーシャル・イノベーション学 | 今里 滋 | 50 |
生徒が主体的・対話的になる授業への試み | 酒谷 貴史 | 52 |
シェイクスピア研究の現在 | 塚田 雄一 | 54 |
カルチャー・インフラとしての学校をめざして | 井口 和之 | 56 |
Songs, Culture and Community | Felicity Greenland | 58 |
「研究者は薬剤師でなくても良いが、薬剤師は研究者でなければならない」をコンセプトに据えた研究と教育の実践 | 森田 邦彦 | 60 |
同志社クローズ・アップ | ||
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京都国際調停センター始動「始動の瞬間」 | 瀬領 真悟 | 62 |
パイプオルガンがもたらす新たな可能性 | 佐川 淳 | 64 |
「同志社香里における半世紀」 | 吉川 康雄 | 66 |
トレーニング探究 ―総合的な学習の時間から総合的な探究の時間へ― |
加地 尚樹 | 68 |
特別寄稿 | ||
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同志社初の女性オリンピアン ―横田みさを(1932年LA大会)― | 本井 康博 | 70 |
新刊紹介 | ||
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中国山水画史研究―奥行き表現を中心に― | 河野道房著 | 78 |
苦難と心性―イタリア・ルネサンス期の黒死病― | 石坂尚武著 | 78 |
信託取引と信託課税の法理 | 占部裕典著 | 79 |
古代物語としての源氏物語 | 廣田收著 | 79 |
A Passage to Self in Virginia Woolf's Works and Life | 臼井雅美著 | 80 |
EUにおける政策過程と行政官僚制 | 原田徹著 | 80 |
電話交換手はなぜ「女の仕事」になったのか ―技術とジェンダーの日独比較社会史― |
石井香江著 | 81 |
金融商品取引法への誘い | 川口恭弘著 | 81 |
生き物はどのように土にかえるのか ―動植物の死骸をめぐる分解の生物学― |
大園享司著 | 82 |
始まりの知―ファノンの臨床― | 冨山一郎著 | 82 |
新編同志社の思想家たち 上 | 沖田行司編著 | 83 |
軍事的暴力を問う―旅する痛み― | 冨山一郎著 | 83 |
良心学入門 | 小原克博他著 | 84 |
政治家はなぜ質問に答えないか―インタビューの心理分析― | Ofer Feldman他著 | 84 |
いま大学で勉強するということ―「良く生きる」ための学びとは― | 松岡敬・佐藤優著 | 85 |
古典歳時記 | 吉海直人著 | 85 |
お知らせ | ||
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同志社大学古本募金 同志社女子大学DWCLA古本募金 ご協力のお願い | 86 | |
ハリス理化学館同志社ギャラリー展示ご案内 | 87 | |
新島旧邸公開のお知らせ | 88 | |
学寮140年のあゆみ | 89 |
編集後記 | 90 |
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お問い合わせ |
同志社大学 広報課 TEL:075-251-3120 |
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