Vol.06 ダイバーシティと社会福祉
Vol.6
ダイバーシティと社会福祉
ダイバーシティと社会福祉
Martha MENSENDIEK先生(社会学部 社会福祉学科教授)
日本の少子高齢化は、現在深刻な社会問題として広く認識されています。総務省の2026年1月の統計によると、日本人の人口は17年連続で減少し、前年比91万人減と過去最大の減少幅を記録した結果、総人口は1億2000万人を下回りました。一方で、外国人住民は前年比35万人増加し、400万人を超えています。近年は円安の影響もあり、外国人観光客の増加が目立ち話題になりますが、日本に定住・永住する外国籍住民も増えています。もはや日本も多文化社会を迎えている時代となりました。こうした社会の変化に伴い、教育、医療、福祉、行政機関などの現場では外国籍住民に対応した多言語サービスや生活支援など、様々な取り組みが求められています。
多文化社会福祉
社会福祉の分野では、ソーシャルワーカー(社会福祉士)の倫理綱領において、「多様性を認識し、尊重する社会を目指す」ことが示されています。ここでいう多様性とは一般的に、出自、人種、民族、国籍、性別、性自認、性的思考、年齢、心身の状況、宗教・文化的背景、社会的地位、経済的状況など多様な属性や背景を指します。また、社会福祉実践は、このような一人ひとりの異なる背景を理解し、支援に生かす能力が求められます。この能力は「コンピテンシー(competency)」と呼ばれ、特に異文化への理解や対応能力は「文化的コンピテンシー(cultural competency)」とされています。
外国籍住民への支援では、言語的サポート(通訳支援)だけではなく、文化的背景を理解したうえで支援を行うことが重要です。社会福祉実践では、当事者が抱える課題を理解することから支援が始まりますが、その際には文化や価値観、宗教、移住の経緯や日本での居住歴などを把握することで、より適切な支援につなげることができます。
例えば、在日フィリピン人の支援では、フィリピンにはカトリック信者が多いという背景を理解しておくことが、適切な支援に結びつく場合があります。また、インドネシアなどイスラム教徒の多い国の出身者に対しても、宗教的慣習を尊重し、その価値観を理解したうえで支援を行う姿勢が重要です。ただし、フィリピン人だからカトリック、インドネシア人だからイスラム教徒と決めつけるのではなく、国籍や民族によって個人を一括りにはせず、一人ひとりを独立した存在として本人から必要な情報を得るのが重要です。
日本には長年にわたり暮らしてきた在日コリアンの高齢者が多くおり、その文化背景や生活習慣に配慮した高齢者施設が注目されています。今後は、さまざまな国・地域にルーツをもつ外国籍住民の高齢化も進むことが予想され、高齢者福祉の現場では、多様な文化背景や価値観を尊重した対応やケアが求められています。
福祉の担い手としての外国籍住民
もちろん、外国籍住民は福祉の利用者であるだけではなく、むしろ社会福祉の実践を支える担い手として期待されています。日本では少子高齢化の進行に伴い、介護人材不足が深刻化しており、その解消策として外国人介護士の受け入れを進める国の方針が注目されています。しかし、日本では受け入れ体制の不備や、社会的支援の不足などの課題があり、外国人介護人材の受け入れは期待されていたほど人材不足の解消につながっていません。今後は定住支援の充実や労働条件の改善を図り、外国人にとって日本が魅力的な就労・生活の場と思えるように制度整備が求められています。
その改善策を進めるうえで重要なのは、外国人介護士を単なる「介護人材」としてではなく、日本社会を構成する大切な住民・生活者として捉える視点です。外国人介護士が日本への定住に魅力を感じるためには、家族の帯同を可能とする制度や、日本で結婚・出産・子育てをしながら安心して暮らせるような包括的な定住支援が必要です。さらに、外国人が活躍できる場は介護分野に限りません。社会福祉の様々な現場においても外国人ソーシャルワーカーが言語能力や異文化理解などの強みを生かし、多文化共生社会の実現に貢献できます。日本では外国人が「社会問題」として語られることが多いですが、今後は日本人と共に地域を支え、より良い社会を創造する生活者・担い手として認識されることが期待されます。
排外主義に抗う
私の母国であるアメリカでは現連邦政府によるDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)関連の補助金停止の影響により、多文化支援の現場では、活動継続が困難な危機に直面しています。こうした状況の中、ソーシャルワークの現場では移民支援が途切れないよう、工夫を凝らし、NPOと州政府の連携を通して対策に注力しています。また、多文化共生の妨げになる偏見の問題を解消するために、専門職を対象とした研修の充実や、社会全体に向けた文化理解教育の推進に取り組んでいます。日本でも排外主義を公然と訴える政党や政治家が支持を集める中、外国籍住民やその家族とともに多文化共生社会を築き、支える活動の必要性がますます高まっていると痛感しています。